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読書メモ:オルハン・パムクをまとめ読み

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 トルコのオルハン・パムク、『僕の違和感』(上・下)『黒い本』『新しい人生』と、近作を中心にまとめ読み。これで彼の邦訳小説はひと通り読み終えた(『父のトランク ノーベル文学賞受賞講演』は未読)。

 今年3月に邦訳の出た『僕の違和感』(2014)は『無垢の博物館』(2008)に続く純愛小説?で、『無垢の博物館』と同じように上下2冊の長編ながら割とサクサク読める。本当に好きだった人と結婚できないドジ男は『思い出にかわるまで』(古い!)なんかも連想させたりして。『わたしの名は紅(あか)』『雪』『イスタンブール 思い出とこの町』の3作に圧倒されて読み始めたパムクだけれど、最近の2作からは(村上春樹やカズオ・イシグロと同様?)もうピークを過ぎたのかな、といった印象を受ける。それでも、『雪』や『イスタンブール』に通じる「ヒュズン」(憂愁)がたっぷり満ちていて、見たことのないイスタンブールの古い情景が浮かんできたり、登場人物たちの心持ちが伝わってきたりしていい。

 続いて読んだのは、同じく3月に遂に邦訳なった『黒い本』(1990)。最高傑作らしい?が、これは手強い。現代のトルコ/イスタンブールを成らしめている歴史や宗教に関する知識・情報を膨大に詰め込み、そこに照らし込みながら話が進んでいくので、異邦人にとってはハードルが高い作品だ。それでもミステリーのようなストーリーが面白く、その本筋と交互して挟まる掌編もクオリティー高くて読みごたえたっぷり。この作品はいつか読み返したいな。

 そして『新しい人生』(1994)。2010年に日本語版が出た時に買ったものの、冒頭だけ読んでそのままにしていた。今回やっと再挑戦となったが、正直全く分からず。何を伝えたい? 殺人を肯定している? リアルなのかアンリアルなのかさえ分からない。『黒い本』と響き合っているように感じるが、それも合っているのか? 謎解きもなされず、作者自身が話を収斂させられず尻切れとなった失敗作かとも思ってしまったくらいだ。ピンチョン以上に疲れたので、この作品の再読はないかも?

 パムクを読み続けて感じたのは、毎度長く複雑で、それでいて内容やスタイルの全く異なる作品を産み出し続ける彼のエネルギーだ。そして、緻密で独特で難解な作品が生まれてくる土壌にはトルコ社会の特殊事情、複雑さと問題山積状況がある。トルコ人にとっての一般知識のようなものを持っていたら、パムクの作品をずっと面白く読めることだろう。

 今ごろ気がついたのだが、パムクは文章スタイルとして長い羅列が好きだな。それと、とにかく人が死ぬ。主人公クラスが次々死ぬ。殺人だったり事故死だったり。そんな特徴もトルコの暗部を映しているのだろうか?

 さて次は『父のトランク』を読んで、それから『雪』を新訳で読み直したい。『わたしの名は紅(あか)』を新訳版の『わたしの名は赤』で再読したら圧倒的に面白かったので。とにかくパムクのオリジナリティーと「ヒュズン」感がとても好きだ。


(そろそろトルコへ。実際に旅してパムクの世界を目にして来よう! そう考えていたが、トルコの政情と治安は一気に不安定化。当分は行けないのかも知れない。残念。)






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# by desertjazz | 2016-07-26 16:00 | 本 - Readings

Louis Sarno "Song From The Forest"

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 先日のこと、ピグミーについて調べていて、ルイス・サルノ Louis Sarno の本 "Song From The Forest" がリプリントされているのに気がついた。どうして今ごろ?と思いつつさらに調べてみたところ、同タイトルの映画が 2013年に制作され、その後世界各地で話題になっていることが分かった。それを受けての再出版と思われ、映画の DVD とサントラ CD も発売にされている。

 ルイス・サルノは 1954年アメリカ、ニュー・ジャージー生まれの白人。80年代のある日、ラジオで偶然聞いたピグミーのコーラスに心を奪われ、コリン・ターンブル(参照)に連絡し協力を仰ぎなどしながら、85年に中央アフリカ、バヤカ・ピグミーの森を訪れる。やがてピグミーたちから家族として迎え入れられ、そこでの定住を続ける。

 "Song From The Forest" はルイスがピグミー音楽への愛情とピグミーの森での暮らしについて綴り、1993年に出版した本。95年には "Bayaka: The Extraordinary Music of the Babenzélé Pygmies" という CD 付きのブックレットも ellipsis arts… から出しているが、本の内容も添付 CD で聴ける音楽もとてもいい。同じ ellipsis art… からの CD ブック "Echoes of the Forest" (1995) でも彼の録音が聴ける。

 映画 "Song From The Forest" はルイス・サルノを主人公にしたドキュメンタリー作品。森で暮らすうちにルイスはピグミー女性との間に子を授かったのだが、その Samedi Mathurin Bokombe 君(土曜日に生まれたから「土曜日」君、撮影時13歳)との関係や、彼をニューヨークに連れて行くことが話の軸となっている。

 映画はバヤカの森の紹介から始まるのだが、自分がピグミーの音楽の素晴らしさを知っているだけに、彼らの歌い奏でる姿をもっと見たくなる。それでも、ポリタンクや金属鍋のふたを叩いてリズムを産み出すなど、ピグミーの音楽も更新を続けている様子が伝わってくる。

 この映画、父子の関係の描き方がいいな。シャツの中で抱き合うところ、フルートの吹き方を教え/教わるところ、ニューヨークで口論になるところ(ピグミーであることを忘れてしまい、小柄なので6歳児くらいに見えるのだけれど、意外とサムディ君の方が大人びていたり)。詳しいことは映画を観てください。

 気に入っているシーンのひとつはニューヨークの景色に森の音をつけたところ。どこかでやるんじゃないかと思いつつ観ていたら、やっぱり…。コンクリート・ビルディングが林立する都会から森を連想する人は多いだろう。「コンクリート・ジャングル」なんて言い方もあるくらいだから。アフリカの森と現代都市の森。ふたつの巨大な森の中で営まれる全く違った2つの生き方。同じ人間でありながら、それぞれは何と異なる世界なのだろう。そのことからも、いろいろ考えさせられる映画である。

(この映画にはジム・ジャームッシュ!も登場する。ルイスとジムがかつてルームメイトだったなんて初めて知った。ビックリ!)

 サントラ盤の収録トラックをチェックしてみると、既発録音はなさそうだったので買ってみた。ピグミーのレコードは全て集めているので…。

 まず最初の3トラックが素晴らしい! (1) "Yeyi-Greeting" は超絶的に美しいヨーデル。聴く度に涙が溢れそうになる。(2) "Women Sing in the Forest" は現実世界から離れたかのような響きに満ちたコーラス。(3) "Tree Drumming" はトランシーな重低音ビートが圧巻で、人間技とは思えないほど。恐らく巨大木の盤根を叩いているのだろう。

 以降も珠玉の録音が並ぶ。ルイス・サルノはピグミーの森で1000時間を超える録音を行ってきたという。この CD にはそれらの中からベストなものを選んでいることだろう。聴いていると、眼の前に音の桃源郷が広がっていく。このところ毎日夜遅く、この CD ばかり聴いている。今年のベスト・アルバムはもうこれで確定です。

 例えば、ハンティングの歌のダイナミックなサウンドだとか、静寂の後に間をとってから突然切り込む Water Drumming だとか、Earth Bow の太い音色の録音だとか、音作りの面白さも。制作者たち、そのあたりも分かっている!

(バヤカ・ピグミーの音楽をじっくり聴いて改めて驚かされたのは、その「正確さ」。リズムもピッチもハーモニーも全く乱れることがないし、弦楽器やフルートを演奏する際の運指も全く狂わない。散々言われていることだけれど、確かにクラシック音楽にも匹敵するレベルだ。それでいて、聴いているとそんなことは一切忘れて至福へと導いてくれる。)

 映画を観ていてちょっと残念だったのは、ルイスに元気がないこと(それと、見た目もずいぶん老いた印象だなぁ)。D型肝炎にかかっているそうで、その影響もある様子だった。経済的にもうまく行っていないらしい。カメルーンの学校に寄付する一方で、CD は全く売れなくなり(そもそも近頃は CD 作っていなかったのでは?)、観光客が来なくなってガイドによる収入もなくなったと語る。この CD からの収入の大半は The Bayaka Support Project なるところに寄付されるそうだ。ルイスとバヤカのピグミーを支援するためにも CD を買ってください。




関連リンク

http://songfromtheforest.com
http://www.facebook.com/songfromtheforest
http://www.facebook.com/louis.sarno.5?fref=ts
http://www.imdb.com/title/tt3003858/
http://motherboard.vice.com/read/louis-sarno-spent-30-years-in-the-rainforest-preserving-the-music-of-the-bayaka
http://www1.wdr.de/fernsehen/wdr-dok/sendungen/song-from-the-forest-100~.html

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(写真は上記リンクからの引用。)




 白状してしまうと、ピグミーについて調べ続けているのは、今年か来年にでもピグミーの森に行こうと思っているから。不思議なもので、学生時代には海外旅行などには全く興味がなかったのに、気がついてみたら行きたいところにはほぼ行き尽くしてしまっていた。会いたいと思っていた人には皆会えたし、欲がないからなのか貧しい育ちだからなのか、特別欲しいものももうない。自分はあと何をしたいのかとさんざん考えた末の答えが、ピグミーの森に行くこと。だけれど、ひとつくらい夢を実現させずに残しておかないと、これから先、生きていく理由がなくなってしまうんじゃないか、、、なんて考えも頭の片隅で疼いている。






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# by desertjazz | 2016-07-25 17:00 | 音 - Africa

New Disc : Akoya Afrobeat "Under The Tree"

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 Akoya Afrobeat の新作 "Under The Tree" が本日正式リリース。2007年に発表した "P.D.P." 以来なので実に9年ぶり。早速 Wav version と MP3 をダウンロードして CD-R に焼き、大音量で聴いている。

 本作はスタジオライブ形式で一発録りした長尺2曲を収録。アナログ12インチと DL だけでのリリースで、CD盤はなしとのこと。ヴァイナル両面1トラックずつというのは、フェラのアルバムを意識してのことか?(CDが売れないという現実もあるのだろう)ジャケのデザインも "P.D.P." に引き続いて、今回もフェラ・クティのアートワークの多くを手がけた Lemi が担当している。

 肝心のサウンドもフェラのアフロビート直系と言え、そこに NYC ベースのバンドらしい都会性も感じる。

 "Jena Tree" は20分近いナンバー。フェラの曲から選べば、例えば "Go Slow" あたりを連想させる。しかし雰囲気はぐっとクール。

 "Taking It Back" は、切れよく柔らかなホーンズに導かれ、女声がとにかく印象的。ジャジーでブルージーな曲だ。それにしても、エンディングの女声コーラスがまるでジャガタラだなぁ。

 レコーディングから約1年半を費やしてミックス/マスタリングを重ねた待望の作品。その間、何度か完成前/途中経過の音を聴かせてもらった。当初感じたバランスの悪さは消えたが、その分他に気になる部分も浮かんできたような。一発録りで覚悟して臨んだ結果をどこまで詰め込めるかという点では成功していると評価したい(新鮮味が幾分薄れたようにも感じたが、もう何十回も聴いているからね)。

 大好きなバンドが素晴らしい新作を完成させてくれただけで嬉しい。ヴァイナル盤で聴くのも今から楽しみです!



(続く)






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# by desertjazz | 2016-05-27 19:00 | 音 - Africa

New Disc : Youssou N'Dour "#SENEGAL REKK"

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 3/10 にユッスー・ンドゥールの新作がリリースされたようです。 "Serin Fallu"、"Doylou"、"Song Daan" がネットで試聴できます。(相変らず日々忙殺されていて、ブログが書けません。)






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# by desertjazz | 2016-05-11 21:00 | 音 - Africa

Sounds & Music in the World 2016

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(Ubud, Bali, Indonesia : Feb 2016)


 1月7日、ニューヨーク経由でブラジルへ。サルバドールやリオデジャネイロで2週間レコーディング・セッション。ブラジル取材は15年振りで、懐かしい景色ばかり。サルバドールの荒ぶる海を前にしてドリヴァル・カイーミの曲が浮かび、リオの街を歩いてカルトーラを思う(彼が創設したマンゲイラへも)。カエターノ・ヴェローゾの生まれ故郷では彼のお兄さんと偶然遭遇し、思い出話を聞かせていただいたり、一緒に記念写真を撮ったり。
 昨年暮れ、あるアフリカ音楽プロジェクトに関して SWP のマイケル・ベアードとメールでやり取りしていて、彼が1月に初めてブラジルを訪れることを知る(オランダからポルトガル経由で)。しかも自分の日程と半日だけサルバドールで重なる。これは奇跡! どうにか都合を合わせて13年振りに乾杯したのだった。1月21日帰国。

 1月31日、短い北海道旅行を挟んだ後に中国へ。大量の録音機材を調達して再びレコーディング・セッション。ここ数ヶ月間の不眠不休がたたってか、本番前に40度の高熱。それでも強力な解熱剤を飲んでどうにか乗り切る。中国滞在は6回目、都合7〜8ヶ月になる。田舎の原風景が懐かしい。2月7日に帰国。

 2月9日、インドネシアのバリ島へ。インドネシアは14回目(バリは13回目)。ウブドの常宿に籠って、朝・昼・夜、濃密な森の音を録音。とにかくここの眺めと音環境は素晴らしい。ただボーッとしているだけでも何と心地よいことか。究極の快楽! 
 2月14日帰国。インドネシアには毎度2週間程度滞在していて、これだけ短いのは初めて。今抱えている仕事が多いので、それもしかたない。

 3月11日、急な打合せが生じてサンフランシスコへ。中国と同様、アメリカにも行きたくないと思いながらも、アメリカ滞在は10回をとうに超えた。サンフランも4回目か5回目。打合せが済んだ後は特段することもないので(MoMA も閉館中なので)、美味しい食事(連日の女子会!)と美味い酒を楽しんで過ごす。
 その間、全米ツアー中のブルース・スプリングスティーンのライブを観るべくオークランドへ。"The River" の全20曲をアルバム通りに再現し、70年代の代表曲をこれでもかとプレイする、9年振りに観た彼のステージはとにかく凄かった!!!
 最近、世界トップレベルのアフロポップ研究家が連携してアーカイブス/データベースを作る動きが起こり、どうやら私もそれへの連携を求められている様相。その拠点がサンフランシスコに置かれているので、主宰者と直に会って話をしたかったが、残念ながらそこまでの余力はなかった。具体的な動きがあれば、後日お知らせしたい。


♪♪♪


 明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。・・・って、もう3月下旬、春分も過ぎて桜の季節ですね。

 昨年末以降またまた怒濤のスケジュール。それでも世界各地で音と音楽を猛烈に浴び続けながら、マイペースで快楽にふける毎日を過ごしています。

 振り返ってみるとおよそ2ヶ月間で18フライト(飛行機に乗ることは全然苦じゃないけれど、さすがに飽きてきた)。ブログを書くどころか、好きな音楽や読書を楽しむ時間もほとんどありません。まあ、このご時勢、仕事があるだけでも感謝すべきことなのでしょう。

 今年の残りから来年にかけても、予定がびっしり詰まり始めてきました(7月のモロッコ行きは一旦延期。その後ベルギーとオランダに行くことを考えていたが、ブリュッセルでテロが発生し計画は見直しせざるを得ない)。そろそろブログも再開したいですが、さてこの先どーなる??






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# by desertjazz | 2016-03-24 00:00 | 旅 - Abroad

BEST BOOKS 2015


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1. バオ・ニン『戦争の悲しみ』(ベトナム)
2. ガブリエル・ガルシア=マルケス『生きて、語り伝える』(コロンビア)
3. ブルース・チャトウィン『ウイダーの副王』(イギリス)
4. オルハン・パムク『わたしの名は赤』新訳版(トルコ)
5. カール・オーヴェ・クナウスゴール『わが闘争 父の死』(ノルウェー)
6. カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』(イギリス)
7. トマス・ピンチョン『重力の虹』(アメリカ)
8. L・ヴァン・デル・ポスト『ある国にて 南アフリカ物語』(南ア/イギリス)
9. ミシェル・ウエルベック『服従』(フランス)
10. 田中真知『たまたまザイール、またコンゴ』(日本)


 毎年書いている通り、1年で100冊完読することをひとつの目標(ノルマあるいは目処と言ってもいい?)としている。しかし今年は100冊にはほど遠かった。例年と同様に薄い新書や文庫は読まず、長編大作に没頭した影響が大きい。海外の新旧の小説を読みふけっていたのが 2015年の傾向で、その分ノンフィクションや研究書の類は減った。大作読み切るのに精力削がれて、難解な小説や評論に挑む度に挫折を繰り返すことにも(そうした本も含めれば100冊以上になるがカウントには含めず)。

 それと同時に、読書する時間の確保がますます難しくなってきてもいる。今年は「どこかへ旅したいなぁ」とばかり呟いていたのだが、振り返ってみると、サンフランシスコ2週間、パリ1週間、中央アルプス2週間、北陸1週間、再び欧州(フランス、イタリア)2週間と、それなりに旅に出ていたので、なおさらだ。


 こうした具合なので、読むことに追われて読書メモは次第に書けなくなってしまっている。それでもいろいろ感想を綴っておきたいことが頭の中に残っている10冊。順位にさほど意味はないが、とにかく最初の2冊が圧巻だった。

 まず1位に選んだバオ・ニン。今年はベトナム戦争終結40周年、それを記念するくらいの気分で、数年前に買っておいた『戦争の悲しみ』を読み始めたのだった。ところが、ベトナムにこんな凄い小説があったとは! アジアの小説を読んでここまで圧倒されたのは、インドネシアのプラムディヤ・アナンタトゥール『人間の大地』全4部6冊を読んで以来のことかも知れない。
 終わりまで綴られず肝心な部分を前に中断される戦中の事件や惨劇、まるでノンフィクションかのような生々しい戦争描写、ベトナム戦争で心が破壊された男の記憶の断片が散り散りになっているだけかと思いきや、それらや次第に結びついて話の極点に向かって巻き上がっていく。戦争によって蹂躙された若い男女の悲劇でありながら、思い通りにいかずに老いるということの普遍性さえ感じさせる。中盤までは漠然と書かれた印象であったのだが、実は周到に計算されていたに違いない。全くなんという構成力なのだろう。どこにも救いなどないのに、読み終えた後には不思議な感動が残る。
 もしかすると、まるで日本も世界も自滅へと突っ走るかのように戦争を求める時代感覚が、自分をこの作品に向かわせたのかもしれない。4年前、福島第一原発事故に石牟礼道子の『苦海浄土』を貪り読んだときのことも思い出した。

 2位のガブリエル・ガルシア=マルケスの自伝は彼の代表作にも匹敵する面白さ。彼の自伝が少年期〜青年期(ヨーロッパに渡る前)を描いた1巻目だけで終わってしまったことが何とも悔やまれる。今年はガルシア=マルケスの全小説を初期短編集から順に読み直し続けたり、ロベルト・ボラーニョのコレクションを発売になった順に読んだりもしていた。ガルシア=マルケスは残り数冊なので、来年読了できそう。ボラーニョは『2666』へ至る道程を辿るように、順調に既刊書を読み終えている。ガルシア=マルケス、ボラーニョ以外にも、今年はなぜか南米関連が多かった。マシャード・ジ・アシス『ドン・カズムッホ』やブルース・チャトウィン『パタゴニア』等々(ダーウィン『ビーグル号航海記』やメルヴィル『白鯨』も読了)。またこれまで知らなかった南米の小説家の作品も相次いで邦訳が進められ気になりつつも、さすがにそこまでは手が出せなかった。

 3位ブルース・チャトウィン『ウイダーの副王』を読んで、ブラジルとダオメー(現ベナン)との間にこんな奇譚があったことを初めて知った。どこまで事実でどこまで創作なのか。チャトウィンも立て続けに読んで、『黒ヶ丘の上で』を除いて全作読了。各作品とも舞台が全く異なる面白さを感じた中で、個人的には『ウイダーの副王』が一番だった。昔『ソングライン』を読んだ時にはさっぱり楽しめなかったのだが、今年はオーストラリアのアボリジニの歌に関する仕事を引き受けてしまったので、『ソングライン』も読み直す必要がありそうだ。

 新装版でようやく再読した4位、パムクの『わたしの名は赤』には驚いた。彼の著作の中では特に好みではなかったのに、これほどに凄い小説だったのか! もしかすると最高傑作かも。藤原書店版で読んだ時とは印象が異なり(それより話の筋をすっかり忘れている)、犯人明かさずに終わる推理小説的なところがひとつの魅力と思っていたのだが、全く記憶違いしていた。バオ・ニンと同様、構成力の大勝利。数多くの登場人物?が語り継ぐスタイルに導かれて、先が気になる。死人や犬や絵まで語り始めて、そんなはずないだろうという疑問も、作品最後の一文で解消。お見事! パムクの他の作品群ももう一度読み直したくなった。

 世界的大ベスト・セラーとなったカール・オーヴェ・クナウスゴールの『わが闘争』もいよいよ翻訳がスタート。その初巻『父の死』は、前半はタラタラ進むが、後半一気にギアが入り思索的になってからに力を感じる。傑作なのか過大評価されすぎているのかはまだはっきりしない。6巻全部で4000ページ以上になると思うのだが、年1冊くらいのペースで構わないので順調に翻訳が進んで欲しい。(来年は夏頃に出そうなアディーチェの『アメリカーナ』の邦訳も楽しみだ。)

 ナイジェリアのアディーチェらと並んで世界で最も好きな現役作家、カズオ・イシグロの新作『忘れられた巨人』は、前作『短編集』に続いて、こちらの期待感に届かない印象。パムクの『無垢の博物館』を読んだ時の肩すかし感のようなものがある。だけど、一作ごとに全く異なる異なる小説を完成させ、しかも独特な世界観を見せる点はさすが。多分自分の読み込みが足りないのだろう。しっかり再読しないとまだ判断できないな。

 トマス・ピンチョンは7位に入れた超大作『重力の虹』(長過ぎることもあるが、「最高傑作」との声もあるので、後回しにしていた)で遂に全小説を読み終え、これには達成感を抱く。でも、やっぱりピンチョン、よく分からん!

 L・ヴァン・デル・ポストは古のブッシュマン(サン)を追い求める『カラハリの失われた世界』や『奥地への旅』が知られているが、黒人少年との心温まる交流(悲劇には終わるが)を描いたこうした作品があったとは。今年『ウイダーの副王』と『ある国にて』の翻訳を出したみすず書房に感謝。

 『地図と領土』が面白かったウエルベックも片っ端から読んでいる。確かに『プラットホーム』(これは好きになれない)も『服従』もある意味で時代とのシンクロを感じさせるが、果たして「予見書」なのかどうか? 巷でも多く語られているので、ここではパス。

 残る1冊、全部海外ものでも構わないか、あるいは1冊くらい日本人の作品を入れるとすれば又吉の『火花』か、などと思案した末、田中真知さんの『たまたまザイール、またコンゴ』に決定。22年の間をおいて行われた2つのザイール河(コンゴ川)下り。どちらも流域に暮らす人々との交流がとてもいい。思わず自分も川下りをしたくなる?1冊。真知さんは、人に読ませる文章を書くのが本当に巧いなぁ。


 リストを見直すと、何故だか南米とアフリカにまた呼ばれているような気がする。と思っていた矢先、南米旅行とアフリカ旅行のお誘いが! さて 2016年はどうなる? またまた旅で忙しくなる気配がしてきているのだけれど、来年も100冊目指しながら読書を楽しもう!


(2016.01.02 09:00 全面的に書き直し)
(2016.01.02 13:40 加筆)










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# by desertjazz | 2015-12-31 12:02 | 本 - Readings

BEST ALBUMs 2015


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1. DUPAIN / SORGA (France)
2. FAADA FREDDY / GOSPEL JOURNEY (Senegal)
3. IBRAHIM MAALOUF / ILLUSIONS (Lebanon, 2013)
4. ADIOUZA / LI MA DOON (Senegal, 2013)
5. SUFJAN STEVENS / CARRIE & LOWELL (USA)
6. BEIRUT / NO NO NO (USA)
7. THE DO / SHAKE SHOOK SHAKEN (France & Finland)
8. HINDI ZAHRA / HOMELAND (Morocco)
9. TIGANA SANTANA / TEMPO & MAGMA (Brasil)
10. SEU JORGE / MUSICAS PARA CHURRASCO II (Brasil)


 終わってみたら、デュパンとファーダ・フレディとクロ・ペルガグに興奮しっぱなしの1年。なので、今年の4月に彼ら3組のライブを観たパリ3連夜は自分にとっては正に奇跡だった(デュパンのリーダー、サム・カルピーニャやファーダと再会し、クロ姫とも直接話ができたし)。

 デュパン12年振りの新作と、今回会うのが5回目!となったファーダの初ソロ、どちらを1位にするか迷って何度も何度も入れ替えた。結局、12年間待ちこがれた思いとアルバムの完成度を優先して "Sorga" を1位に。ライブの素晴らしさなども加味すると "Gospel Journey" が1位でも全くおかしくない。実際聴いた回数は "Gospel Journey" の方が遥かに多かったことだし。デュパンは終盤の頂点に向かって濃密さを増して行くインプロビゼーションが圧巻。ただ前作 "Les Vivants" のキレまくったポップさの方が好きだというは正直なところ。"Gospel Journey" は声とボディだけで思いっきり楽しい音楽を産み出せることを示したポップの傑作。アルバムのサウンドをよりゴスペル風に壮大なものにしたライブも最高だった。なぜこれが日本で話題にならなかった??

 次ぐ3位は今年4月にリリースされた Klo Pelgag "L'Alchimie des Monstres - Edition de Luxe - " にしたいところだが、これの元アルバムは昨年1位にしたのでガマン(彼女の日本公演がキャンセルされたのは残念)。代わりに選んだのはレバノンのジャズ・トランペッター、イブラヒム・マールフの "Illusions"。今年リリースした新作2枚"Kaltuoum" と "Red & Black Light"も充実していたが、2年前のこのアルバムの方がずっといい。対位するトランペット・アンサンブルを筆頭に、自分が音楽に求めるあらゆる興奮要素が詰まっていて、21世紀のベスト10に入り得るレベルの大傑作。2013年作でなければ1位でもおかしくない(彼はシェイク・ローの新作にも、間もなく出るナターシャ・アトラスの新作にも参加している。どうしてこれまで彼をスルーしてきたのだろう。今一番ライブで聴きたいひとり)。

 アフロ・ポップは新作もリイシューも熱心に聴いたものがあまり思い浮かばない。そんな中ほとんど唯一の例外と言えるのは、これまたパリで見つけたアディウーザ嬢のアルバム。年末の今でも冒頭2曲だけ繰り返し聴いている。2015年のベスト PV もアディウーザの "Ndaanane" です。

 スフィアン・スティーブンスは久々の快作。でもアルバム出す前に全曲無料で配信した音を聴き過ぎてしまったためか、CD の音で聴いた印象が希薄。ベイルートはタイトル曲の朴訥とした雰囲気がなんともいい。スフィアンとベイルートのメランコリックな暖かさに惹かれた。

 結構な豊作年の印象だったのに、7位以下は大迷い。The Dø は10月にライブを観てからヘビロテ中。モロッコの歌姫はライブを観たウムの "Zarabi" よりもインディ・ザラの新作の方が良かった。ウムのマネージメントからは「日本でライブをやりたい」と連絡があり、インディ・ザラの関係者からは「日本盤を出したい」と相談を受けたが、どちらも話が進まず。でも来年以降もフォローし続けます。

 残る2枠はブラジル勢の争いに。最後に落としたのは Celso Fonseca "Like Nice"。最初は5位に入れたのだが、入手できたのが年末で聴き込みがまだ足りない。今年のスキヤキ組の中では9位に入れたティガナ・サンタナ(チガナ・サンタナ)が良かった。セウ・ジョルジの美味しいアルバム第2弾も最高!(でもどうしてこれが10位なんだ? セウ・ジョルジもライブを観たいな。)


 ・・・ということで、時代を象徴するとか、歴史に残るとか、未来を予見するとかいったことは一切抜きに、今年自分が好きでよく聴いたアルバム10枚です。


 次点を挙げるなら、こんなところかなぁ。

・CELSO FONSECA / LIKE NICE (Brasil)
・JALAL EL HAMDAOUI / REGGADIATES 2013 (Morocco, 2013)
・TIGRAN HAMASYAN / YEREVAN STATE CHAMBER CHOIR/HARUTYUN TOPIKYAN (Armenia)
・REDA TALIANI / BLADI (Algeria)
・D'ANGELO AND THE VANGUARD / BLACK MESSIAH (USA)
・COUMBA GAWLO / 23ANS DE SUCCESS (Senegal)


 ここで、「あれっ? "Bladi" がベスト10に入っていない」と思う方がいるかも知れない(いや、いるはずないか。"Bladi" は確かに良い作品だけれど、自分のベスト10には入らないなぁ)。

 私がフランスで見つけてきて、渋谷のエル・スール・レコーズに紹介したレダ・タリアニの "Bladi" とファーダの "Gospel Journey" が『ミュージック・マガジン』ベスト・アルバム 2015 のワールド・ミュージック部門で1位と5位だって!

 ひとりの音楽ファンが趣味で探してきた CD がベスト5に2枚も入るなんて、それだけワールド・ミュージックのマーケットが縮小しているのかだとか、日本に入るべきアイテムが届いていないのだろうかだとか、マガジン内輪関係の限界が露呈しただけか、などなどいろいろ考えるところ多い。まあ誰もが言っている通り、合議制に無理があるのだろう。

 今年は音楽を聴く時間がさらに少なくなり、レコードの入手枚数もまた減った(過去30年間で最低かも)。実際、音楽を聴くより、本を読んでいる時間の方がずっと長い。ブログで音楽について語る余裕もほとんどない。それでも自分の感性にひっかかる音楽が確実に捉えられているし、その感覚を誰かと共有できていることは嬉しく思う。自分が日本に紹介した2枚がマガジンでこうして取り上げられたことについても、取りあえずは自分のやっていることもわずかながら世間の役に立っているのだろうと考えることにしよう。


(2016.01.02 07:50 追記修正)









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# by desertjazz | 2015-12-31 12:01 | 音 - Music

【回顧2015 - Part 2】


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 今年はこのカメラとレンズの組合せで飛び回った。

 ・Canon EOS 7D Mark II
 ・Canon EF-S17-55mm F2.8 IS USM
 ・Canon EF70-200mm F2.8L IS II USM

 APS-C サイズとしては、恐らく最も贅沢な組合せだろう。



 わざわざ日本からやってきたからなのか、知り合った音楽関係者たちが裏で口添えをして下さっているからなのか、例えばフランスの各音楽フェスでは自由に写真を撮らせてもらっている。ステージやバックステージの写真を撮るようになったのは、自分のサイトやブログでフェスを紹介する際、写真はないよりあった方がいいだろうと考えてのこと。

 5年ほど前にスキヤキに通い始めたころには、(失礼ながら)まともなステージ写真が全くネットに上がっていなかった。運営スタッフが忙しい合間にケータイで撮ったらしきものがわずかに見られる程度。ならば自分で撮影してリポートしようと思い立った。

 折角撮って披露するなら多少なりともまともな写真の方がいい。しかし、自分は写真に関しては全くの素人(・・・と断言するには誤謬があるだろうか。プロ仕様のビデオカメラに関しては一通りのことを勉強しているので)。なかなか思ったような画が撮れない。

 機材面で限界を感じたのは4月にパリに行ったときのこと。EF-S17-55mm は APS-C 最高のレンズ。なので、あとはどこまで被写体に近寄れるかが勝負だ。ところが、接近戦が許されないシチュエーションが続く。しかも暗い。またネットでの使用を考えると、今はもう動画の時代だとも感じる。メインで使っている EOS 50D に動画機能が備わっていないだけでなく、ずっと違和感(初期不良?)を感じでいたこともあって、スキヤキ前にボディとレンズを新たに購入することにした。

 まず迷ったのはフルサイズに移行するかどうか。心の内ではフルサイズが欲しくて仕方なかったのだが、APS-C 専用の EF-S17-55mm が使えないのは痛い。軽い方がいいし、予算も限られているので、最後にはキャッシュバック・キャンペーンに乗せられて?7D Mark II に決定。しかし、これはステージ撮るにはあまりにオーバースペック。連写毎秒10コマって、笑っちゃうくらいに速い。やはりこれは、鉄道、飛行機、動物を撮るのに特化したカメラなのだろう。

(後で分かったことだが、フルボディと APS-C とではボディに重量差はなく、画素数にも差がない。ということは望遠については後者に歩がある。なので、フルサイズ不要論さえ出ているのかも知れない。)

 EF-S17-55mm はワイド域のみなので、明るい望遠レンズの入手も必須。EF28-300mm F3.5-5.6L IS USMか、EF70-300mm F4-5.6L IS USMか、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMかと迷ったが、人気で数ヶ月待ちだったり、何よりステージを撮るに暗そうだ。そこで思い切って Canon EF70-200mm F2.8L IS II USM に決めた。これもキャノンで一番人気のレンズなために量販店は全滅。何とか秋葉原で安いブツを見つけてゲット。このレンズを一度使ってみたかったし、キャンペーンで3万円のバックがあったし。結局今年一番高価な買い物になってしまった。このレンズ、確かにスゴイ。静かだし、多少暗くても瞬間でピントが合う。



 さて初めての本使用となった8月のスキヤキ。動画撮影の出番も望遠レンズの出番もほとんどなし。EOS で動画を撮るには無理がありすぎる。ズームもボディを1台しか持っていかなかったので、レンズ交換が面倒。それでもティガナ・サンタナの静寂ステージとクアトロ・ミニマルの暗闇ステージとでは威力を発揮してくれた。

 続く10月のパリとマルセイユ、迷った末に昔から持っているものも含めて望遠レンズは置いていった。CD買付けもあったし、フランスの後はイタリアに飛ぶ予定でもいたので、少しでも荷物を軽くして行きたかったから。もう一度ワイド1本で勝負することに決めた。

 しかし 55mm までというのは厳しい。あとちょっと寄りたいのに寄れない。動画も全く撮らず仕舞。

 それより何が厳しいかと言えば、頭3曲縛りだ。Fiesta des Suds は既に勝手知ったるもので、ステージ下手に5分前に集合し、そこでフォトブースに通じるゲートが開けられる。一応パスのチェックがあるのだが、一度もパスを見せなかった。それでも問題なし。そして3曲終わったところで全員退場させられる。

 最初の3曲までだと、アーティストたちもまだ探り状態だし、照明も退屈。なので良い写真など撮れっこない。機材やポジショニングやタイミング以前に限界がある。そんな中で(耳栓しながら)撮っているカメラマンたちはプロなんだな。(耳栓している)彼らと同じ写真を撮っても意味がないので、少しでもフェスの雰囲気を伝えられるものをと思ったものの、やっぱり頭3曲縛りがキツかった。



 スキヤキやマルセイユでの撮影を通じて感じたのは、このレンズの組合せだと 55-70mm という美味しい範囲が抜けていること。どうやらもう1本レンズが必要なようだ(良い接写レンズも欲しいのだが)。

 その一方で、もう一眼レフの時代ではないような感触も抱き始めている。ズーム域の広いレンズのついたミラーレスの方がメリットがありそう。けれども、被写体深度がどれだけ取れて、ボケをどれだけコントロールできるのかも分からない。



 1年間試行錯誤しながら1万枚くらい撮ったが、納得できる写真は1枚もなかった。やっぱり写真は難しい。フェスではカメラの電源切ってビール片手に踊っている方がずっと楽しかった。ブログをやっていなかったら、きっと写真なんて撮っていなかったかと思う。



 それでも、ちょっとだけ写真の楽しさを感じ始めてきたかな。どの会場でも「また会ったね」といった風に多数のカメラマンたちから挨拶されたし。



 子供の頃は本ばかり読んでいて、中学校に入ってもビートルズすら知らなかった自分が、今音楽について語っている。学生時代はレコード至上主義で、コンサートやライブには滅多に行かなかった自分が、フェス通いをしている。カメラには全く興味を持っていなかったのに、海外の巨大フェスでオフィシャル・カメラマンとしてステージを撮影している。考えてみると不思議なことばかり。










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# by desertjazz | 2015-12-30 22:00 | 美 - Art/Museum