◆ Kaushiki Chakrabarty (6)

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Kaushiki / "Kaushiki" (Sense World Music 097, UK, 2007)

 コルカタ生まれの北インド古典音楽の若き歌い手、カウシキ(コウシキ)の第6アルバム。 これは傑作 "Pure" と並ぶ彼女の代表作/最高作である。

(私が初めてインドを訪れたのは 2008年の2月末で、滞在したコルカタで北インドの古典歌唱の魅力にハマり、帰国直後に出会ったのがこの CD だった、という点でも思い出深いアルバムにもなっている。)

 だがこのアルバムはやや特殊な作品でもある。まず(1)3枚組という大作である。そしてその Disc 1 が(2)スタジオ録音、(3)通常と異なる楽器編成、(4)北インド/南インド双方のスタイルで歌っている、(5)短めの楽曲ばかり、といった特徴をもっている。

 それぞれ補足しておくと、(1)彼女が3枚組を出すのはもちろん初めてのこと。(2)これまでほとんどライブアルバムばかり出してきたのに対して、ここではスタジオ録音である分、カウシキのより生々しい歌声を堪能できる。残る2枚はライブ録音で、毎年1月にインド・アーメダバードで開催される Saptak Festival での実況録音。こちらでは普段のスタイルのライブ・パフォーマンスを楽しめる。(3)通常はハルモニウム、タブラ、タンプーラの3者に伴奏されるが、この録音ではバイオリンやいくつかの打楽器など様々な楽器が加わることで艶やかなサウンドになっている。(4)ひとりの歌手が、北インド(ヒンドゥスタニ Hindustani)と南インド(カルナティック Carnatic)の両方の音楽を歌い分けることは余り例のないことだそうで、この点でも本盤は話題になった。

 こうした豪華で贅沢な試みがなされたのは、英レーベル Sense からの前作 "Pure" (2005) が BBC World Music Award を獲得したのに気を良くした Sense 側の意欲の現れと見てよいだろう。タイトルがずばり "Kaushiki" であることにも、カウシキ本人とレーベルの本気度が汲み取れる。南北両スタイルの様々な楽曲を歌わせることで、カウシキの圧倒的才能とその多面性を示したかったに違いない。

 注目の Disc 1 で取り上げられているのは、ドゥルパッド Dhrupad、カヤール Khayal、タラナ Tarana、ダドラ Dadra、バジャン Bhajan などの諸形式の曲。これらを聴くと、確かにインド音楽門外漢の耳にも、卓越したテクニックや多彩や表現力は十分伝わってくる。ただ、どのトラックも割合短めなために、ダイジェストを聴かされている気分にもなってくる。じっくりジワジワ熱くなる長尺トラックのないことがちょっと物足りない。どれも絶頂感に辿り着く前に終わってしまうのだ。1時間ノンストップのパフォーマンスが当たり前のインド古典に馴染みない方にとっては、最初に聴くのに相応しいアルバムとも言えそうなのだけれど。

 それでも Dhupad (1)(2) の冒頭の気怠そうで幻惑的な第一声からして、もう素晴らしいの一言。ズルズルとヤバイ世界に引きずりこまれてしまう。続く Khayal (3)(4) では一瞬いつもの昇天感に浸ることができる。天頂まで抜けていくような声に心打ち震えるばかりだ。話題になった南インド・スタイルはヴァルナム Varnam (5) やティラナ Thilana (7) で聴けるのだが、素人耳には、フォーマルな歌唱になっている分だけ硬さが残っていて、北のラーガを歌うときの伸びやかさや可憐さが足りないように感じてしまうのだがどうだろう。それでも (7) の超高速フレージングなどは神業的で圧巻だ。

 この3枚組アルバム、カウシキの歌に真剣に対峙する時間や気力のないときでも、彼女の魅力や多面性を楽しめることから、各トラックが短めの Disc 1 ばかりをついつい聴いてしまう。よって Disc 2 と Disc 3 は聴き込んでいなくて、割合印象が薄かった。だが改めてじっくり聴いてみたら、他の作品と同様に申し分のない素晴らしさだった。Disc 2 は4パート構成の1時間強で、32分を超える (2) でゆったり空気をカウシキ色に塗り込めた後、続く (3)(4) でいつものごとくたっぷり昇天させてくれる。やっぱりカウシキの神髄はこうしたライブにあり!

 Disc 3 は 23分の Thumri のみを収録。テンション極まった耳をこうしてクールダウンさせるような構成はいつも通り。こうした組み合わせが普段のライブのレパートリーなのかも知れない。


 待ちに待ったカウシキの日本公演(富山県南砺市福野、東京、大阪)まで約1ヶ月。今回の初来日公演が、Disc 1 のようにショート・ヴァージョンを並べたダイジェスト編成になるのか、Disc 2,3 のようにインド国内と同様1時間一本勝負がメインとなるのかも、今から興味津々である。




 さて、カウシキの全アルバム・レビュー、約3ヶ月振りにやっと懸案の "Kaushiki" まで辿り着いたのだけれど、やはり上手い具合に書き上げることができなかった。残るは2枚。来月に迫った日本公演までに書くことは難しいかも知れない。


(2011.08.12 追記&修正)





Kaushiki Chakrabarty (1)
Kaushiki Chakrabarty (2)
Kaushiki Chakrabarty (3)
Kaushiki Chakrabarty (4)
Kaushiki Chakrabarty (5)
Discography of Kaushiki Chakrabarty Desikan




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by desertjazz | 2011-07-17 00:00 | 音 - Music

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