旅する読書(今年のベストブックス)

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 今年はマレーシア(ペナン)とスペイン(マドリッド)に短期旅行し、国内での小旅行も繰り返している。これだけ移動する生活が続くと、さすがに読書が思ったように進まない。けれども相次いで素晴らしい作品に出会えているおかげで、読み終えた本の数は多くないものの、今年の読書生活はまずまず充実していると思っている。そして、それらの本の一部は「旅の記録」に類するもので、それらが自分が体験した現実の旅以上に、旅している気分に誘ってくれていることが楽しい。

 今年読み終えた中でとりわけ素晴らしいと感じたのは以下の4作品(これらに石牟礼道子+藤原新也『なみだふるはな』を加えると、現時点での今年ベスト5になる。ツイートした後、読後感が薄れてきているので、コメントは簡単に)。


・スティーヴ・ブルームフィールド『サッカーと独裁者 アフリカ13か国の[紛争地帯]を行く』

 アフリカの国々において、サッカーと国民や政治との繋がりがいかに強いかを明らかにしていく渾身のルポルタージュ。副題に偽りはなく、命を賭したかのような体当たり取材だからこそ抉り取れたリアリティーとサッカーに興奮する臨場感が凄まじい。サッカーが政治を動かし、また政治家がいかにサッカーを利用してきたについて、綿々と綴られる。自分が訪れた国も多く取り上げられているので、懐かしい光景も思い浮かぶ。


・ポール・セロー『ダーク・スター・サファリ』

 著名な旅行作家がエジプトから南アへと大陸東半分を列車やバス、船を乗り継いで旅する記録。国のトップやノーベル賞作家から、街中の市井の民衆、移動中に出会った人々まで、様々な対話を重ねることでアフリカの現状について思索を深めていく。単なる旅行記ではなく、自分が/世界がアフリカに対して何ができるか問い続けているところがこの作品の凄さ。読んでいて、アフリカを旅する意味はあるのだろうかと迷わせる厳しい現実が示されるが、本当に読み応えのあるアフリカ旅行記を久々に読んだ。


・ダニエル・L・エヴェレット『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観』

 アマゾンの奥にピダハン(ピラハ)という少数民族がいる。著者は彼らのもとでピダハン語の聖書を作ろうとする。しかしピダハンは、数、左右、色、過去、未来、神、等々といった概念を持たず、自分たちこそが最高だという信念から約200年間外からの影響を受けないできた。世界で一番笑いの絶えない幸せな彼らの暮らし振りに感銘を受け納得した著者は、反対にしまいにはキリスト教も神や天国の存在も否定することになる。序盤はかなり冗長だが、現代人の生活スタイルを見直したくなる力がある。


・パスカル・メルシエ『リスボンへの夜行列車』

 スイスの作家/哲学者による小説。定年間際の言語教師が突然教壇を捨ててリスボンへと旅だってしまう。小説中である「書物」が絶えず参照されるのだが、これは読み手に対して生き方/死に方を問い続けるもの。読んでいると、列車や車で移動する主人公や作中のキーパーソンと自分とが重なってくるほど。極めて密度の高い作品であり、小説であると同時に読み手の人生観さえ左右しかねない哲学書でもある。現在、劇場版が撮影中で、来年公開予定とのこと。


 他にも印象に残った作品がいくつか。マリオ・バルガス・リョサ『密林の語り部』にもアマゾンに誘われ、アイザック・ディネーセン『アフリカの日々』とサラーム海上『21世紀中東音楽ジャーナル』でもアフリカを旅する気分になり、グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ『シャンタラム』ではかつてのインドのムンバイのディープな世界に引きずりこまれ、ブルース・チャトウィン『ソングライン』ではオーストラリアのアボリジニに、ダニー・ラフェリエール『帰還の謎』ではハイチに心が持っていかれる。

 
 なかなか先に進まないでいる、あるいは最近読み始めた本は、木村大治+北西功『森棲みの生態誌』、渡辺公三『アフリカのからだ』、イライザ・グリズウォルド『北緯10度線 ─ キリスト教とイスラームの「断層」』、野町和嘉『サハラ、砂漠の画廊 タッシリ・ナジェール古代岩壁画』、ニコラ・ブーヴィエ『世界の使い方』、ポール・セロー『ゴースト・トレインは東の星へ』など。アフリカ関係の研究書が多い。


 どうやら旅する読書をまだしばらく堪能できそうだ。




(5/11 微修正)





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by desertjazz | 2012-05-05 05:05 | 本 - Readings

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