New Disc : Gari Greu "Camarade Lezard"

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 思い返してみると、2006年にマルセイユの Fiesta des Suds で観たワイスター Oai Star のステージには、フェス全体の主役の感があった。盟友 Moussu T & Le Jovents がサブステージだったのに対して、彼らはメインステージでの堂々たるアクト。Coldcut に続いて登場した彼らは力強いオクシタン流ラガロックを聴かせてくれた。プレスリーなのかスーパーマンなのか分からない格好の大男まで従えて、飛び回り踊り回り、オーディンスを煽り遊ばせて、正にやりたい放題。お待ちかね最新アルバム "Va A Lourdes" (2005) からの大ヒットナンバー 'And I Smoke...' では「I smoke marijuana every day」の大合唱。こちらもつられて、笑いっぱなしで、一緒に歌い楽しんだ実に素晴らしいステージだった。

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(Fiesta des Suds 2006, Photo by D)

 知られているように、ワイスターはマッシリア・サウンド・システム Massilia Sound System の追っかけだったガリ Gari とリュクス B Lux B、それに同じくマッシリアのギタリスト、ブルー Blu らによって結成されたバンド。言うなればマッシリアの弟分だ。私が彼らのライブを観た時点ですでにブルーは脱退していたものの(バックステージで、マッシリアのタトゥー Tatou、ブルー、マネージャーのマニュ Manue さんらと話をした際、「忙し過ぎて」ワイスターでの活動を継続できなくなったとのことだった)、ガリとリュクスというフロント MC 2人が率いるワイスターはますます走り続けることだろうと思えた。

 しかしそうした期待は悲劇的に打ち崩されることになる。リュクス B が難病に倒れ(2007年にトゥールーズで会ったタトゥーが語ってくれたところによると、予期せぬ悪性の院内感染だったらしい)、闘病のかいもなく他界。その後、ガリたちは何とか新作 "Manifesta" (2009) をリリースするも、的を外したエレクトロなサウンドは見事に空振り。結局、ワイスターは解散してしまう。

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 最近も本体マッシリア・サウンド・システムの活動が絶えず伝わってくるので、ガリも元気でやっていることだろうと想像していた。そんな折、メールで送られて来た今年の Fiesta des Suds のアーティスト・リストを見て驚いた。ガリが単独でエントリーされているではないか。慌てて調べてみると、ソロ・アルバム "Camarade Lezard" も今年2月にすでにリリース済みだ。全然気がつかなかった。情報をどこにも見かけた記憶がないな。

 そのようなことで早速このアルバムをフランスから取り寄せて聴いてみた。最初に抱いた感想は、ワイスターと比較するとかなり穏やかなサウンドだなということ。冒頭のギターがあまりにダークな音色だからだろうか、ガリの切々とした歌を聴かせるアルバムだからだろうか、それとも相棒を失ったという事実が聴く方の頭にこびりついているからだろうか。元々ガリはそんなに上手い歌手じゃない。なのでこうした歌ものを聴くと、どうにも彼の歌に無理が感じられてしかたない。

 それでも繰り返し聴くごとに印象が改まって、実に味わい深い作品集であることが伝わってきた。まず認められるのはガリの卓越したソングライティングのセンス。バラエティー豊かな曲が集まってもいる。ワイスターゆずりの楽しいメロディーも散りばめられてる。曲によっては音が弾んでとても陽気な気分になる。一度聴いたとき、どうしてあれほど悲しく感じられてしまったのだろうか?(ちなみに1曲目はゼブダ Zebda のマジッド・シェルフィー Magyd Chefri との共作)

 ワイスター時代よりもロック色が薄まったアコースティックなサウンドが多い。その核となっているのは、Moussu T がそうであったように今回もブルーだ。アレンジに、ギターとバンジョーの演奏にと、とても大きな役割を果たしている(Moussu T のときと同様にバンジョーがいい。個人的には本当に好きだな)。そうした作用からか、Moussu T 的なサウンドにも聞こえてくる。ガリの歌を様々な楽器やコーラスが取り囲んだときサウンドは最高だ。これは絶対ライブで盛り上がるに違いない。

 タイトルを訳すと「ともだちトカゲ」とでもなるのだろうか? ブックレットには熱帯を連想させるヴィンテージな写真がたくさん収められている。かなりノスタルジックな雰囲気で、ガリのポートレートもどこか虚ろな表情(最初にこのブックレットを見たから、悲しいアルバムに聞こえたのだろう)。一体どんなことを歌っているのだろう。全曲歌詞が掲載されているが、私はフランス語を解さないので、残念ながら分からない。フランス語に長けた方の解説を拝読したいところだ。

 ところでマルセイユは来年 EU の首都の役を担う。恐らくそれに向けてだろう、ここ何年も続いた都市整備もそろそろ完了するはず。Marseille-Provence 2013 というウェブサイトも立上がって、関連イベントも順次発表になっている。そして伝えられるところによると、そのアンセムをガリが歌うらしい。どうしてマッシリアじゃないの?といった疑問も浮かぶのだが。いや、写真に映る姿を見ても、歌声を聞いても、歳を重ねた味や風格といったものが感じられるようになった。今回のソロ作も正に味で聞かせるといった趣だ。かつてマッシリアやワイスターのステージでやんちゃに弾けていたころとは大違い(いや、それは今も変わらないのかな?)。

 今一度ブルーという力強いサポートを得たガリが、再びマルセイユの顔役へと堂々と戻ってくれること、ガリ自身も私たちファンもリュクス B を失った哀しみを乗り越えて、彼の新しいサウンドを楽しく分かち合える瞬間を、本当に心から待っている。ガリの元気な姿を早く観たい!






(追記)

1)このソロでの新作。聴けば聴くだけよくって、どんどん楽しくなってくる。このレビューも書き直した方がよさそうなくらい。

2)"Manifesta" を久し振りに聴いてみた。曲そのものは決して悪くない。問題なのはやはりあのピコピコサウンドなのだろうか?

3)フランスの音楽関係者に問い合わせてみたところ、残念ながらこのアルバム、フランスですら余り話題になっていないそう。不思議だ。

4)MP 2013 のテーマ曲について新たな情報が入ってきたのだけれど、検索してもまだどこにも公表されていない。このブログで取り上げることもしばし保留中。

5)"Camarade Lezard" がやっと渋谷 El Sur Records に入荷した模様。ホントいいアルバムです。聴いてください!


6)6年前の Fiesta des Suds、Coldcut と Oai Star はそれぞれ別の日のステージだった(どうでもいいレベルのことですが、後で直します)。


(2012.09.28)





by desertjazz | 2012-08-19 17:00 | 音 - Music

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