New Disc : The Idan Raichel Project "Quarter to Six"

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 とってもナルシスティックなジャケット写真で話題沸騰中?のイダン・レイチェル(イダン・ライヒェル)の新作。今回も The Idan Raichel Project 名義の下でのアルバム・リリースである。

(3/13に発売になった瞬間にイスラエルにオーダーしたら、ちょうど10日で届いた。最初の300枚はイダンのサイン入りとのことだったが、残念ながら日本からの Pre-Order はできなかった。最近サイン盤がまた100枚追加されたので、ツキのある人は手に入れられるかも?)


 オリジナル・スタジオ録音盤としては 2009年の "Within My Walls" 以来4年振り。全16トラックの前半/後半8曲ずつで2つのコンセプトを持っているようなのだが、ブックレットはほとんどヘブライ語なので不明(大胆に推測すると、「夜」と「昼」。全く根拠ないけれど)。


 以下、そのブックレットを可能な範囲で解読して新作をレビューしてみたい。

 7年前の2006年秋にイダンが世界デビューした正にその日に、パリで彼に会ってインタビューした際、Idan Raichel Project にそれまで参加したミュージシャンは70人ほどと語っていた。様々なシンガーやプレイヤーとの共同作業を通じて音楽を作り上げていくこのプロジェクトのあり方は変わっていないようで、今作も最近4年間で地元イスラエルはもとより、ドイツ、ポルトガル、ギリシャ、スペインでも録り溜めた録音から成っている(イダン本人が「My 6th album is here!:)after 4 years of writing and recording in and out of Israel! we are all very excited here…」とツイートしている)。曲ごとに異なるシンガーを起用していることなど、Cumbancha と契約してからさらに広まった人脈/ネットワークを最大限に活かして、やりたいことをとことんやり尽くそうといった姿勢が感じられる。

 1曲目 'יורד הערב' はほとんどアコースティックギター1本のみをバックにした歌で意表をつかれる。フォークロック風の静かな小品。

 より意表をつかれるのはベルカント唱法による2曲目 'In Stiller Nacht'(英訳すると 'In Silent Night' )で、17世紀初頭にドイツで活動した Friedrich von Spee の聖歌/宗教詩?に基づくもののようだ。前半はほぼイダンのピアノ演奏のみで、後半はダイナミックに盛り上がる。

 冒頭2曲の静謐さから一転、この後は美メロ/泣きメロの連続でイダン節が炸裂する。男性シンガーの3曲目と女性シンガーの4曲目は、いずれもしっとりとした曲調で、過去のアルバムに入っていても違和感がないくらい。声の雰囲気にも聴き憶えがある感じなので、シンガーたちは初期からのメンバーなのではないだろうか。

 続く5曲目(英語題は公式サイト上で 'At Night' となっている)も同傾向のトラックで、これもほぼパーマネント・メンバーのみによるレコーディングだと推測。まるで映画音楽のようなシンフォニックな導入部が実に美しくて印象に残る。

 6曲目 'Sabe Deus' は To Zé Brito 作のファドで、リード・シンガーはポルトガルの Ana Moura。一緒に歌っている男性は誰だろう?

 7曲目 'انا انا وانت انت' (英訳すると 'I'm and You Are' かな?)。今度はストレートなアラビック・ロック。Vasil Milchev Vasilev、Todor Penchev Bakoev、Vladimir Kanchev Vladimirov らが参加と書かれている。

 8曲目は、明るいのだけれど、どこか切ないという、いかにもイダンらしい美しいメロディーの曲。イダンのピアノもたまらなくいい。こうした演奏を耳にすると、現在もツアー継続中の Vieux Farka Touré とのライブも観たくなる(実際ヨーロッパで観て来た相方の話によると、相当いいらしい)。

 ここでAサイド(夜サイド?)が終了。大満足しつつ、そのままBサイド(昼サイド?)へ。


 9曲目は、これもまたイダンらしい泣きのバラード。でもやや普通っぽいかもしれない。

 10曲目 'Mon Amour' は Cumbancha を通じて出会ったマリの Vieux Farka Touré との共演。曲は Boureima Touré の作? デザート・ブルースというより、ちょっとメランコリックなマンディング・ブルースといった感じのトラック。

 11曲目、12曲目と再びイダン・ワールドが展開。切々となぞられる切ないメロディーがとても美しい。シンセによるパッド/エフェクト/ストリングスと生楽器との響き具合もイダンらしい。

 13曲目 'Detrás De Mi Alma' は南米コロンビアの女性歌手 Marta Gómez の作で、彼女自身が歌っている。イダン節にずぶずぶ沈み込んだ心に、突然切り込むスネアとシンセの音。これがもうカッコ良すぎ! このアレンジと流れの作り方は上手いなぁ。カウントしてみると10拍で(Take Five!)、このリズムがスライドしていくような独特なノリを生み出す肝になっている。ラテン・フレイバーたっぷりな歌と演奏がもうたまらなくて、気がついたら自然と踊り出している。アルバム中でのキラーチューンのひとつ。Marta Gómez は前作 "Within My Wall" でも2トラックに参加(楽曲提供も)しているが、全然印象にないな。8枚あるらしいオリジナルアルバム含めて再チェックしてみたい。

 14曲目はアコースティック主体のしっとりしたナンバー(このアルバム、前半のインパクトが強い分、正直後半になるとタームが浮かびにくい)。

 The Idan Raichel Project(のライブ)は、女性シンガーふたり/男性シンガーひとりが基本型のように思っていたけれど、このアルバムではゲストを除くと何故か男の歌い手が多いのでは? そう思っていたところに、15曲目でやっと女声に戻る。これもダイナミックなチューン。

 最後の16曲目はラジオノイズっぽい響きのエフェクトを背景に男性シンガーの歌が立上がる。この物悲しい心地よさったらない。そして終盤、ピアノの美しいリフレインに女性の語りが乗って、ゆっくりと消えていく。


 こうして聴いていくと、イダンの音楽にはまず歌とメロディーがあって、それを暖かく包み込むサウンド造りに最大限の工夫が凝らされていることが伝わってくる。切なくてノスタルジックでセンチメンタルで、そして心暖まるような珠玉のメロディーと、繊細で柔らかな音の数々の響き合いは今回も変わっていない。

 ちょっと残念だったのは、ファースト・アルバム当時にあったエチオピック/ジューイッシュな、日本人からしたら妖艶で独特なメロディー感と、宅録オタク的な世界観が薄れてしまったことだろうか。初期作にあった ♪坊ぉいぃ〜 'Bo'ee (Come With Me)' や ♪南野南野〜 'Mi'Ma'amakim (Out of the Depths)' のようなレベルの秀でた楽曲もない。

 それでも、ヨーロッパ、アラブ、南米から、ロックやアンビエンスまでも引き寄せて、誰にも真似にできないイダン・ワールドを展開する様には圧倒されるばかり。IRP のライブはまた観たいなぁ!!


(ところで、"Quarter to Six" というアルバムタイトルの意味は? 新譜について書かれたページはまだひとつも読んでいないので不明。なんだか Chicago の '25 or 6 to 4' みたいだ。彼とはこれまで2度話をしたけれど、久し振りに会ってまたインタビューしたくなった。)


(イスラエルは、アラブ料理もワインも世界最高レベルに美味いし、エルサレムとベツレヘムにはまるでテーマパークみたいな面白さがあるし、死海周辺の景色にも独特な美しさがある。いつかこの地に平和が戻り、再び訪ねてゆっくり旅する機会がやってきて欲しいと切に願う。)

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= Discography of Idan Raichel =

1) Idan Raichel's Project "Idan Raichel's Project" (Helicon, 2002)
2) Idan Raichel's Project "Out Of The Depths" (Helicon, 2005)
3) The Idan Raichel Project "The Idan Raichel Project" (Helicon/Cumbancha, 2006)
4) The Idan Raichel Project "Within My Walls" (Helicon/Cumbancha, 2009)
5) The Idan Raichel Project "Traveling Home" (Helicon, 2011)
6) The Touré-Raichel Collective "The Tel Aviv Session" (Cumbancha, 2012)
7) The Idan Raichel Project "Quarter to Six" (Helicon, 2013)


 イダンのアルバムについて簡単におさらい。

 1) はイスラエル国内オンリーのイッシュー。そして最高傑作! どのミュージシャンについてもその音楽は「ファーストアルバムに全てが表現されている」と度々語られるが、イダンもそうしたひとりなのかもしれない。DVD 付きもあり(ただしすでに完売)。2) も国内向けのアルバム。1) と等質ながら、やや落ちる。3) は 1) と 2) の珠玉のナンバーばかりを集めたベスト盤 & 世界デビュー盤。大抵のベスト盤に対して不満の残るように(そして、オールスターメンバーによる試合が退屈なように?)1) を聴いた後ではどうしても物足りない。常々言っているように、1) を聴かない限りイダンの凄さも真価も分からない(と、たまには断言)。ちなみに 3) からは名義が微妙に変更されている。4) は Cumbancha を通じて初のオリジナル盤。外からのコントロールが強かったからなのか、ワールドマーケットを視界に入れ過ぎたからなのか、1) と 2) にあった異世界に導かれるかのような不思議な魅力がそっくり削ぎ落とされているかのように聴こえる。だが、収録曲が最初の方に並ぶライブ盤のヴァージョンを聴いて、このアルバムも悪くないと思い始めた。最新作 7) との比較が難しいくらい。これはじっくり聴き直したい。5) はこれまでのキャリアを俯瞰し集大成するような母国イスラエルでのライブ録音に新たなスタジオ録音を加えた3枚組(この 3CD はデラックス・ヴァージョンとされていて、2CD の通常盤もあり、3枚目は "From Here and There" というタイトルでシングル・イッシューされている可能性あり)。6) はマリの Vieux Farka Touré とのデュオアルバム。イダンはファルカ・トゥーレにピアノで寄り添っているだけの印象だったが、ライブでは結構対等な関係でイダン自身のアルバムに近いサウンドも披露しているらしい。そして今回の 7) なのだが、これも Cumbancha から世界配給されるかどうかは、まだ確認していない。

(イダンが「My 6th album…」とツイートしているのは、共作の 6) を除外してのことだろう。)

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 …と、長くなってしまい失礼(まだまだ書きたいが、続きはまたの機会に)。話は冒頭のジャケット写真に戻るのだけれど、イダンは長かったドレッドを切ってしまったのだろうか?





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by desertjazz | 2013-03-27 00:00 | 音 - Music

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