Oliver Mtukudzi | Bio & Discs (8) Going to the World 1988-90

 1980年代中頃、セネガルのユッスー・ンドゥール Youssou N'Dour やマリのサリフ・ケイタ Salif Keita が世界デビューを果たし、ジンバブウェのトーマス・マプフーモも欧米から注目を集め始めた。彼らに続けとばかり、オリヴァー・ムトゥクジも世界進出へと踏み出すことになる。これは彼自身の積極的姿勢というよりは、ワールドミュージック・ブームの下で欧米の音楽業界や知識層の中に生まれた需要や好奇心に引き寄せられたものだったのだろう。

 その端的な例が Amnesty International Concert for Human Rights への出演である。1988年秋に世界各地で行われたアムネスティー・インターナショナル主催のこのベネフィットコンサートには Bruce Springsteen and the E Street Band、Sting、Peter Gabriel、Tracy Chapman、Youssou N'Dour らがステージに立ち、ハラレ公演ではオリヴァー・ムトゥクジがアフリカを代表するアーティストとして登場している。

Wikipedia | Human Rights Now!


 ムトゥクジの名前がアフリカの外でも認知度が高まる中、続く89年にはアルバム "Sugar Pie" が英国で初めてリリースされる(LP のクレジットは1988年となっている)。つまりはこれが彼にとって初の国外リリース盤だ。

23. Oliver Mutukudzi "Sugar Pie" (CSA CSLP 5001, 1989)

A: (1) Rongai Mhuri (2) Tenda Ishe (3) Sugar Pie (4) Nhaka
B: (1) Chipembenene (2) Sons Of Africa (3) Unenge Paneni (4) Paida Moyo

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 このアルバム、ジンバブウェ盤では Mtukudzi と表記されていたのに対して、ここでは Mutukudzi となっている。さらにジンバブウェ盤では(自分の?)子供2人との写真がフロントカバーに使われたようだが、イギリス盤ではそれより解像度の低いポートレイト写真に変更されている。両者でフロントとバックを入れ替えたのだろうか。恐らくこれらの措置は欧州向けに分かりやすいようにとなされた配慮なのだろう。

 'Sugar Pie' や 'Sons Of Africa'など2拍のビートを立てた曲がいくつか。特に 'Sugar Pie' は思わず身体が反応するようなダンサブルな曲。だが、全体としてはやや大味な印象。

YouTube | Oliver Mutukudzi 'Sugar Pie'
YouTube | Chipembenene (with translated lyrics)


 翌1990年には英国盤2作目 "Psss Psss Hallo!" をリリース。

31. Oliver Mtukudzi "Psss Psss Hallo!" (CSA CSLP 5005, 1990)

A: (1) Strange, Isn't It? (2) I Don't Wanna Lose You (3) Zindoeda (4) Tarirai (5) Ngwarai Vana Vangu
B: (1) Munoshusha (2) Nditendereiwo (3) Psss Psss Hallo (4) Pwere Never Lie (5) Rugare Rwamangwana

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 これは Tuku レーベルからの最初の2枚 "Strange, Isn't It?" (TKLP 1, 1988) と "Nyanga Yenzou" (TKLP 2, 1988) からそれぞれ5曲ずつ収録した編集盤。CD も出たので、これが彼の最初の CD だったのかも知れない。

 録音メンバーがクレジットされていて、担当は以下の通り。

 Oliver Mtukudzi : Bass, Acoustic Guitar
 Gilbert Zvamaida : Lead Guitar
 Robert Mtukudzi : Keyboards
 Picky Kasamba : Drums
 Fanyana Dube : Saxphone
 Fabian Rubaya : Bass
 Idan Banda : Rhythm Guitar
 Busi Ncube : Backing Vocal

 Tuku からの第1号ソング 'Strange, Isn't It?' はシンセや女性ヴォーカルも交えて全体の調和を重視したようなゆったりしたナンバー。「Strange isn't it, how people talk about subjects they don't understand. Like ones about witches and giants walk and some that concern the music man's stand. Do you believe in fairy tales? The music man's message is for the nation. It's the truth. He tells no fairy tales...」といった内容のメッセージ。自分が歌うことのスタンスを宣言するかのようだ。シンセのパッセージがンビーラのフレーズやズールーパターンを醸し出している 'Psss Psss Hallo' や 'Rugare Rwamangwana' が楽しい。

YouTube | Oliver Mtukudzi 'Psss Psss Hallo'


 どちらのアルバムとも、タイトルソングのようにキャッチーなフレーズを含んだポップな曲があるものの、ミディアムテンポでシンプルなフレーズを繰り返すだけの曲が多い。一部の曲を除くとンビーラのリズムやポリリズム感は薄く、70年代から80年代前半に特徴的だったエネルギッシュさや荒削りな感じは影を潜めてしまった印象を受ける。ハスキーな歌声には変わらず力強さがあるが、初期の作品のような激しさやライブで示す躍動感といったものを詰め込むことには成功していない。こうしたサウンドになったのには、キーボードを多用したことも影響しているように思う。

 この2枚は英国盤とあって発売直後に日本にも入ってきた("Sugar Pie" は WAVE で購入)。しかし個人的には Youssou や Cheb Khaled などの音楽から受けたほどのインパクトは得られず、そのことから、当時はオリヴァー・ムトゥクジに夢中になることも、彼の作品をさかのぼって熱心に集めることもなかったのだろう。(89/90年といえば、それぞれ Youssou N'Dour の "Set" と "The Lion" がリリースされた年だ!)


 同じく90年(91年?)には、さらに世界の眼がオリヴァー・ムトゥクジに向けられることになるもうひとつの出来事があった。それは映画 "Jit" へ出演である。ジンバブウェのポップサウンド Jit を冠したこの映画は、そのサウンドにナビゲートされながら社会問題を扱った内容?のようで、ムトゥクジは本人役で出演。サントラ盤も制作された。(→ ビデオは持っていないだろうな? 後日確認。)

IMDb | Jit (1992)
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- V.A. "6 Essential Songs From Jit - The Movie : Plus 6 Other Smash Hits" (Earthworks 3-1023-2, 1991)

(2) Right Direction (4) What's Going On (7) Under Pressure (9) Mumweya

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 全12トラックで、ムトゥクジが4つ。他には Robson Bnada & The New Black Eagles、Leonard Chiyangwa、 Jonah Sithole & Deep Horizon、 John Chibadura & The Tembo Brothers、Mandebvu、Fallen Heroes (with Solomon Skuza)、 Tobias Areketa & The Shazi Band を収録。

♪ Right Direction
'Why am I travelling rd cass on the train. But you're travelling 1st class. Does that mean you'll get there befor me? / If you run it doesn't mean that you'll get there first (you may trip). Sitting by the window doesn't mean that you see things better than others do. Travelling 3rd class doesn't mean that I don't court. / Slow down, slow down, you'll on a wrong direction.'

♪ What's Going On
'I wanna know what's going on. I wanna know who you are.
Everybody knows how much I care. Everybody knows how much I love my wife. Tell me now who you are.'

♪ Under Pressure
Depresed depression I'm under pressre.
I've lost a friend and I'm under pressure. I've got to live a life, while you still have one to live. Life is so short, I've lost a friend and I'm under pressure.

 いずれも生きることの苦しみや悩みが伝わってくるような歌詞。それが心地よいビートに乗って歌われる。そんな気分が明るい 'Mumweya' で解き放たれる。いやぁ、どのトラックも素晴らしい。とりわけ 'What's Going On' は、メロディーもギターやシンセが幾重にも重ねられたアレンジもいい曲だなぁ。アメリカのボニー・レイット Bonnie Raitt が彼のことを気に入り 'What's Going On' を 'One Belief Away' の題名で1999年に発表している。




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 "Sugar Pie" のバックカバーの写真。「You are my sugar pie...」 もしかして、シュガーパイとは自分の子供のこと? 写っている子供うちのひとりは事故で亡くなった Sam なのだろうか?



(つづく)






by desertjazz | 2013-05-15 00:00 | 音 - Africa

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