読書メモ:高野秀行『謎の独立国家ソマリランド 〜そして海賊国家プントランドと戦国南部〜』

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 高野秀行『謎の独立国家ソマリランド 〜そして海賊国家プントランドと戦国南部〜』読了。500ページ超のぶ厚い本だけれど、あまりの面白さにほとんど一気読み。いやぁ、凄い!凄い! 今年のベストブックスの一冊に確定。いや近年読んだノンフィクションの中でも白眉の名著だ。

 大陸東部、アフリカの角と称されるソマリアは、1991年に内戦に突入した後、欧米諸国の思惑に翻弄されて国がまとまらず、ソマリランド、プントランド、南部ソマリアに3分裂。うち北部のソマリランドは国としてまともに機能しており、通信等のインフラも整備されているものの、諸外国は彼らの独立宣言を認めない。反対に南部はいまだにグッシャグシャ状態で、外国人が入るのは困難、、、といったことくらいはさすがに自分も知っている。しかし、その大前提として持っていた基礎知識ですら、根底から覆されてしまった。色々な意味で目の覚める凄い本。

 何が凄いかというと、(1)好奇心旺盛な著者がビザが必要かどうかすらはっきりしないのに、体当たり的に旧ソマリアに向かい、分裂した3か国をとうとう無事に訪ね歩いたこと(2)現地の人々への聞き取りを重ね、鋭い閃きを加え、徹底的に調べ考察することで、ソマリの歴史と全貌に迫ったこと(3)単なる紀行ものではなく、学術レベルに匹敵するほどの調査/分析がなされていること(4)実際に行かなくては知り得ないような新事実を次々と明らかにしていったこと(5)あまりに複雑すぎてこれまで十分に理解できないでいたソマリ(ソマリア)の氏族関係/政治情勢についてすっきり説明していること(6)所属する氏族や職業の異なる様々な人々との関係の構築振りが素晴らしいこと(7)そうしたことをユーモア溢れる文章で面白く書き綴っていること、などなど。

 感想をこう簡単に書いてしまうと実にそっけないのだが、「えっ!そうなの!」という驚きの連続。破綻国家と思いきや、まっとうなロジカルで国づくりが進められている様子を紹介したり、衝撃的事実を伝えたり。例えば、犬がたくさんいて可愛いと喜んでいたら、実は、、、いや書くのは止そう。実際に読んでほしい。

 それにしても、「欧米諸国の思惑に翻弄されて国がまとまらず」悲惨な状況にある、と思い込んでいたのが、そもそも欧米経由の報道を信じ切ったことによる思い違いだったとは。もちろん負の面が多いのは間違いないが、最後の方でソマリランドの人が「日本の議会制度は意味がない」といったことを語るのには素直に納得。たしかにソマリランドの議会制度の方が優れているんじゃない? ソマリ(ソマリア)をとことん好きになってしまった著者は、とうとう最後に自分もソマリ人になってしまう(?)のだから、ますます凄い展開だ。

 人がやらないテーマをいかに見出し成し遂げるか、カート(麻薬的習慣性のある葉っぱ)を道具にコミュニケーションを深めて話を聞き出す姿などからは、学ぶ所も大きかった。

 21世紀はグローバル企業が国家というフレームを越えて(無視して)活動する時代。ビジネス拠点の置き方、税金の逃れ方、TPP戦略などを見ていると、国という縛りの意味が薄れ始めていると思う。そしてソマリアでもまた、グローバリズムとは全く対極的なあり方で、従来の国家観を越えた国が生まれつつあることも、とても興味深く感じたことだった。






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by desertjazz | 2013-05-30 00:00 | 本 - Readings

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