病の話2:ムシ

病の話2:ムシ


2000年夏、アメリカとメキシコを旅した後、キューバにしばらく滞在した。
その終わり頃、左胸、ちょうど心臓の上あたりに小さなシコリができているのに気がついた。
帰国してもそれは消えず、1cmか2cmくらいの細長い豆粒が肌の下に入っているよう。
それは微かに熱も帯びている。
そして、少しずつ移動しているような気もする。

何とも気持ちがよくないので、医者に相談したところ、慶応大学病院のA氏を紹介された。
A氏は、マラリアに関する文献もある長崎大学のB氏とともに、当時(今も?)日本に数少ない熱帯病の専門医だった。

A氏いわく、私の胸を見るなり、
「これは XXXXXX だなあ」
(と、確か漢字6文字くらいの、難しい寄生虫?の名前を挙げた。)
「生きている鶏の体の中に住んでいて、犬には移ることがある。幼虫から成虫になりたくても、寄生先の体の中にいてはそれができないので、この虫は放っておけば、いつか死ぬよ」
「胸を切開して取り出せないのですか?」
「虫のいる正確な位置が分からないので、無理してメスを入れると、筋肉組織をズタズタにしてしまうから出来ない」
「そうなんですか」
「それにしても、人間の体の中にこの虫が入っているのを初めて見た。ハッ、ハッ、ハッ、、、」

ちょっと怖くなって、その虫についてインターネットで調べてみた。
確かに慶応の医師が言ったことに近いことが書かれている。
そして「犬の心臓や脳に入ると死に至る」とも。

ハバナでは有名な鶏料理店で3度食事をした。
しっかり熱が通っていて、寄生虫の類が生きていたとは考えられない。
(余談になるが、この店の料理はとても美味しかった。反対に他は全滅だった。ハバナではこれまで世界中で最も不味い中華料理も食べた。)
本来人間の体には入らないはずの虫が自分には入り込んでしまった。
全く謎だらけだ。

いずれにしても措置なしという。
ならば、この虫くんを飼ってやるしかなさそうだ。

虫くん、その後もなかなか元気。
次第に左肩に上がっていって、数ヶ月後には背中の方まで引越してきた。
しばらくすると、今度はまた胸の方に戻ってくる。
やがては、変わったペットを飼っているような気分にさえなっていた。

そんなことが6ヶ月ほど続いた頃のこと。
虫くん、いつの間にか、消えていた。
なぜか一抹の寂しさを覚えた。

今ではその虫の名前すら忘れてしまったけれど、心臓の上に留まり続けた怪しい「熱」と、「いや〜、珍しいものを見た!」と語ったA氏の高笑いは、はっきりと憶えている。




 先日『Ice Cube』を綴っていて、今度はこの記憶が蘇ったのでした。
 (Facebook より部分転載。)






by desertjazz | 2013-07-21 03:00 | 旅 - Abroad

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