Oliver Mtukudzi | Bio & Discs (17) "Sarawoga" 2012

 オリヴァー・ムトゥクジのアルバム紹介、前回の 1998年作 "Tuku Music" から一気に飛んで最新作 "Sarawoga" へ。その前に "Paivepo" (2000)、"Bvuma (Tolerance)" (2001)、"Vhunze Moto" (2002) など取り上げたいものは何枚もあるのだけれど、来日直前ということで最新作の「予習」を先にすることにしよう。

(…と言いながら、実は私はまだこの CD を買っていない。ムトゥクジの来日が決まった時に関係者からサウンドファイルが送られてきて、いまだにそれを聴いてばかりいる。春先から「国内盤もほどなく出る」と聞いていたので、なんとなく来日記念盤を買う気になって待っていたら、とうとう8月になってしまった。よって CD のインレイに掲載されているだろうデータ等も見ていない段階なので、以下は主に音の印象に基づいて書いてみる。)


60a. Oliver Mtukudzi "Sarawoga" (2012)
(1) Sarawga (2) Huroi (3) Haidyoreke (4) Unoterera (5) Matitsvata (6) Matitsika (7) Muteuro (8) Chiringa (9) Deaf Ear (10) Mutemo Wako (11) Mbodza (12) Ronga Dondo
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 公式には「61番目」のオリジナル・アルバム(枚数は数え方にもより、私のナンバリングによると今の時点で60番目)。

 ムトゥクジのバンド Black Spirits によるサウンドの骨格がしっかりしているので(ドラム、ベース、ギターによるフレームが毎度サウンド全体をきっちり支えている)、これまでの多くの作品と同様に気持ちよく踊れるトラックが揃っている。2〜4曲目 Huroi、Haidyoreke、Unoterera あたりはメロディーも良くて、いかにも Tuku サウンドらしい。続く5曲目 Matitsvata と8曲目は Chiringa は南アのズールージャイブ的なビートを強調したトラックで、ムトゥクジの汎アフリカンなサウンド指向が感じられる。よく聴くと1曲目の Sarawoga のパーカッションの使い方が東アフリカっぽい、というよりレユニオンのセガのように聞こえる。

 曲によっては初期のダイナミックさが蘇ったような力強いものもあるが、それらに挟まるしっとりしたナンバーもいい。唯一英語で歌われる(他は多分ショナ語)9曲目 Deaf Ear は「本当に子供たちのことが好きならば、彼らの希望にしっかり耳を傾けよう」といった内容を歌っているようだ(英語詩を交えているのは UNICEF のために書いたからだとインタビューで語っている。参考)。どうやら今度の来日公演、このアルバムからの曲が多くなりそう。


 こうして聴いていくと、この新作もこれまでと変わらない、明るく楽しいアルバムに思えてくる。しかし、この作品を聴く際に知っておいて欲しいことがある。それはこれがひとり息子のサム Sam Mtukudzi に捧げられた作品であるということ。

 Black Spirits のバンドメンバーでもあったサムは 2010年3月に交通事故で突然世を去った。まだ22歳という若さだった(参考)。タイトルの Sarawoga はショナ語で "to be left alone" を意味するという(参考)。アルバム冒頭、アカペラで歌われる張り裂けるような声は、息子への悲痛な呼びかけであり、また哀しみを乗り越えようとする自身への叫びでもあるのだろう( "to be left alone" には、息子のサポートもあって制作中だった楽曲をひとりで完成させなくてはならなくなった、という意味も込められているようだ。参考)。ジャケット写真で帽子を見つめるムトゥクジの視線はまるで亡き息子に向けたもののようだ。


 オリヴァー・ムトゥクジの音楽生活は一見順風満帆だったかのようだが、決してそうではなかった。90年前後に弟を含めたバンドメンバー数人をエイズで相次いで亡くし、そのことが彼を HIV/エイズ啓蒙に積極的にさせたようだ。90年代初頭にはどうやら最愛の妻を亡くした様子で、それがきっかけで聖歌アルバムを制作したらしい(参考)。そして2010年にはひとり息子の事故死。さすがにショックが大きく、活動再開が危ぶまれたほどだったと伝え聞く。それでもその大きな哀しみを乗り越えて新作を完成させ、世界ツアーに飛び立っていった。現在も続くそのツアーは彼にとって過去最大のもので、各地で大好評を博しているようだ。そしてそのムトゥクジが今度は遂に日本にやってくる。

 大きな悲劇に繰り返し見舞われながらも(実はこの春にも 2005年頃までバンドメンバーだった Kenny Nyashamba が急死している。彼も 37歳という若さだった)、毎度それらに打ち克って、明るく前向きなサウンドと希望溢れるメッセージを届け続けてくれるオリヴァー・ムトゥクジ、彼こそ本物のアフリカン・ジャイアンツだ。

 きっと日本のステージでも、アフリカ音楽の様々な要素を混ぜ込んだ魅力たっぷりの TUKU サウンドとパワウルな歌声を、たっぷり聴かせてくれることだろう。




60b. Oliver "Tuku" Mtukudzi & the Black Spirits "Sarawoga" (2013)
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 "Sarawoga" は今年6月にアメリカ盤も出た。またオルターポップが配給予定の国内盤もアメリカ盤と同仕様らしく、8月18日に発売開始といった情報も流れている(私も来週これを購入し次第、なにか情報を追記できるかもしれない)。



(つづく)





(追記)

 2009年のアルバム "Dairai" のクレジットに Daisy への謝辞がある。ということは彼女はお元気ということなのだろう。どうやら思い違いだったようで、失礼しました。

(2013.08.17)





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by desertjazz | 2013-08-11 17:00 | 音 - Africa

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