Moussu T e lei Jovents in Japan

 日本公演が終わった後の雑感:


 現在自分が世界一好きなバンドのひとつ、マルセイユ/ラ・シオタのムッスーT&レイ・ジューヴェン Moussu T e lei Jovents が初来日し各地での公演を成功させて帰っていった。彼らの日本ツアーが決まったときからずっと心待ち。最初は全部観に行くと豪語していたものの、諸条件を勘案して 9/26 の福岡は泣く泣く?断念。9/27 大阪(心斎橋 conpass)9/28,29 東京(アンスティチュ・フランセ)サヨナラパーティーを兼ねた 9/30 Apéro Tokyo(渋谷 7th Floor)の4公演を観て来た。

 その4日間のことを記録しておきたいのだが、彼らの音楽が自分の周囲で響いているのは最早「日常」と化しており、冷静に分析的に客観視して綴ることは難しい。若干の雑感のみ記すことにしよう。



 各会場ともステージが終わった途端、誰もが異口同音に「こんなにいいとは思わなかった」と感想を漏らしていた。今回の彼らの演奏の素晴らしさは、ほとんどこの言葉に集約されていると言ってもいい。

 まず興味を惹いたのは、最近メンバー構成を5人に増やして、サウンドがどう変化したかということ。過去にフランスで観た3回は、基本タトゥー Tatou(vo)とブルー Blu(g, banjo)とゼルビーノ Zerbino(ds)の3人によるもの。よって、ギター&バンジョーのコンビネーション(一方をCD再生)をひとつの軸とする、かなり軽やかなサウンドだった記憶がある。対して今回は ds と per の2人にベースも加わり、サウンドがぐっと厚く力強いものになっていた。ロック的指向を強めたと言ってもいいだろう。それが象徴的に現れたのは "A La Ciotat"。ファースト・アルバムに収録されたこの曲は毎度ライブのラストで観衆たちと一緒に唱和してステージを締める。ゆったり和やかな雰囲気が持ち味の名曲だ。それが今回は、前半こそ従来通りだったものの、途中でブルーがバンジョーからエレキギターに持ち替え、タトゥーも立上がって絶唱。完全にロックしていた。

 タトゥーとブルーはかなりハイペースで作品を発表し続けているが、本当にいい曲が多いな、というのも今回改めて思ったこと。毎日聴いても飽きない曲ばかりだ。それらの中でやっぱり断然良かったのは、同じくファースト収録曲の "Mademoiselle Marseille"。ライブで聴くとますます力強くて溜まらない。他にも一緒に口ずさんでしまう曲ばかりで、こんな風に挙げていくと切りがない。

 ステージングは終始和やかで楽しいものだった。繰り返し乾杯したり、ブルーがカモメの声を模してギャーギャー叫んだり、アンコールではフロントの2人が二日酔いの演技で再登場したり、ちょっとエッチな女性ネタを繰り返したり、大阪弁でMCしたり、「Hoppy Happy」「Ariga Tokyo」といった言葉遊びしたりと、飽きさせることがない。

 タトゥーの声も表情も相変らず魅力たっぷりで、バンドの皆が心から演奏を楽しんでいることが伝わってきたのが何よりだった。



 そんな彼らのステージを見つめていて、ふと頭に浮かんできたのは、今後マッシリア・サウンド・システム Massilia Sound System(MSS)として活動することはあるのだろうかということ。今のムッスーTは本当に充実している。マッシリアの第3のMC、ガリ Gari にしても、ワイスター Oaistar とガリ・グル Gari Greu という2軸ともにスタイルを確立させている。パペットJのことは措いておくとしても、他の3人についてはマッシリアを継続する必要性をあまり感じない。

 こんなことを書くのは、昨年マルセイユの Fiesta des Suds で観たゼブダ Zebda の記憶があるからだ。再結成した彼らのステージを9年振りに観られるのをかなり楽しみにしていた。それは、ヒット曲がずらっと並ぶ贅沢な構成だったし、実際大いに盛り上がりもした。でも、何かが足りない。9年前にアングレームの大トリで2時間たっぷりパフォーマンスした内容そのままに近い印象で、どこか「懐メロ」感が拭えないのだ。これだったら、マジッド・シェルフィ Magyd Cherfi やムッスー&ハキム Mouss et Hakim の作品やライブの方がずっといい(昨年の Fiesta des Suds に関してはまだほとんど何も書いていないが、こういった感想も多々あるのです)。Moussu T と MSS に関しても、どこか同様な構図が見えるような気がする。



 来日した彼らから伝わってきたのは、タトゥーを中心とした全員のプロフェッショナル性だった。そして、タトゥーという男の凄さとタフさを強く感じ取った。タトゥーは男でも惚れる本当に凄い男だと思う。

 すでに知っている方も多いと思うが、今回の来日スケジュールは相当にタイトなものだった。連日移動と取材とライブの繰り返しで、多分毎日3〜4時間程度しか寝ていなかったのではないだろうか。それでもタトゥーは常に明るく元気で、疲れた顔を一瞬でも見せることはなかった(単にハイになっていたせいなのかも知れないが)。ステージに立たない時間帯もファンらと乾杯しながら言葉を交わし合い、カメラを向けられる度にポージング、打ち上げ&夕食は深夜1〜2時に及びながらも最後まで美味そうに酒を飲み続けていた(先日ブログの件以外にも、彼の見えないところでいくつかのことをしたのだけれど、タトゥーはそうしたこともいつの間にか知っていて、その都度礼を言ってきた。忙しい中で全体を把握しつつ、細やかな気配りも欠かさないことにも驚かされた)。

 タトゥーという存在は自分の中では「南フランスを代表するスーパースター」。MSS でのタトゥーはビッグステージが似合う。2007年にトゥールーズで観た MSS も大興奮のオーディエンスを前にしてのもの。そして、打ち上げでまたタトゥーたちと飲みながら語らっていたら、深夜の2時くらいに「それじゃ」と一言残して彼は去って行った。消えた先には巨大なツアーバス。中にはメンバー各人用のベッドも備え付けられていて、眠っている間に次の公演都市に移動するのだという。MSS のツアーはそんな極めて快適な移動システムに乗ったものだった。

 それに比べると今回の日本公演は「手弁当」的な一面さえあったものだった。タトゥーが荷物抱えて東京の街を歩いているくらいなのだから。しかし、こうした姿こそが本来の彼らなのだろう。ステージもファンたちとのやりとりも、地元ラ・シオタでのパーティーを再現しているようにも思えた。つまりは彼らのコミュニティー・パーティーをそのまま日本に持ってきたのが今度の来日ツアーだったのかも知れない。

 ムッスーTを日本に居ながらにしてかなり小規模のスペースで(最終日に至ってはわずか1000円で)観られたことは、ひとつの奇跡であり、また同時に彼らにとっては日常の一面でもあったのだと思う。



 振り返ってみると、今回タトゥーたちとは全くとまともに話をしていなかった。一緒に写真を撮ることもなかったし、サインももらわなかった。折角の機会だったのに、インタビューすら申し込まなかった。それと言うのも、彼らにとっても願い叶っての来日だったので、彼ら自身のための時間を大切にして欲しかったし、私よりも他の日本のファンとの交流を楽しんでも欲しかったから。そう思ったこともあって、写真撮影など少しだけ裏方に回ってみた。後は何も難しいことは考えずに、ただただ飲んで踊って笑いながら彼らの音楽を楽しんでいた。

 マルセイユなどで一緒に飲んだのに続いて、タトゥーやブルーと会うのが今度で4回目。やっと名前を憶えてくれたらしく、名前で呼んでくれるようになった。昔から好きだった彼らが普通に目の前にいる。もうそれだけ十分だったな。大好きなマニューさん(タトゥーの奥さん兼マネージャー)ともまたお会いできたし。

 願いが叶うならば、今度は彼らの暮らすラ・シオタで再会し、そしてライブも観たい。マルセイユから路線バスに乗ること1時間、ラ・シオタはとても静かで穏やかで美しい港町。こんな環境の中でムッスーTの音楽が生まれ暖められている。青い地中海を眺め、ブイヤベースやパスティスを味わいながら、ムッスーTに耳を傾ける。いつかそんな日が訪れてほしい。

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(東京に加えて大阪にも行くことにしたのは、大阪が最も盛り上がるだろうと思ったから。その読みはズバリ当たった。彼らのライブに久し振りに接してレコーディング曲の細かな工夫の数々にも気がつくことができた。そうした話はいつか別の機会に…。)


(ほぼ1時間で一気に書き上げました。おかしな部分は後で修正します。)





by desertjazz | 2013-10-07 17:00 | 音 - Music

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