読書メモ:旅行記考/『マレー諸島』再読中

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 ミシェル・レリスの『幻のアフリカ』を文庫版で読み直している間、自分が旅行記の類に求めるものは何だろうかと考えていた。好きな旅行記の条件はいくつもあるけれど、3つだけ挙げるならば、

 1.長いこと
 2.移動し続けること
 3.思索的/考察的であること

 これら3項目になるだろうか。

 『幻のアフリカ』は項目1と2に関しては十分で、3に関しては可とも不満とも言い得る。基本的に日記そのままであるため、余分な部分が多いのだ。沢木耕太郎の『深夜特急』も同様に項目3については及第点以下(この作品は面白くて一気に読んだが、実は旅行記としてはあまり好きではない)。

 自分にとっての理想的な旅行記として即座に頭に浮かぶのは、田中真知さんの『アフリカ旅物語』、ポール・セローの『ダーク・スター・サファリ』、それにアルフレッド・R・ウォーレスの『マレー諸島 オランウータンと極楽鳥の土地』だ。先の項目3を言い換えると、旅する目的が明確であること、旅に必然性があること。3作品ともただ長い距離を移動するだけでなく、旅の動機が確固としてある。絶えずそれと向き合ったことで見事な旅として結実している様が明確に伝わってくる。

 他にも大好きな旅行記は多々あるので、ベスト10冊を選んでみても面白いかも知れない。

(反対に嫌いなのは、単に移動過程を書いただけのものや、旅先でのトラブルばかり連ねた本。現地の人びとへの悪口を読んでも旅の動機や目的が全く分からない。駐在婦人たちによる狭い世界だけを綴った本も苦手。しかし年々そうしたものは減って、日本人の書く旅行記のレベルも向上していると思う。)



 旅行記は読むだけでも楽しい。それに加えて、旅行記をたくさん読み(外国についての本や海外の小説も)、実際に遠い異国を訪ね歩き、そしてそうした土地の音楽を聴くと、それらが相互作用して理解が深まる。自分が旅を繰り返すのは、好きな音楽をもっと肌で感じて理解したいと思っている面もあってのことだろう。



 そして、良い旅行記を読むと、旅への憧れが膨らむし、次の旅へのヒントにもなる。

 実は一昨年の秋、長めの休みが取れそうになったので、久し振りに移動型の旅をしようと考えた。真っ先に検討したのは2つのプラン。

1)南アからナミビアに入りナミブ砂漠でキャンプ → サン(ブッシュマン)の古代壁画のあるツォディロヒル(ボツワナ北西部) → マウン → オカバンゴ・デルタ → セントラル・カラハリ・ゲーム・リザーブ再訪

2)インドネシアのバリ島から東へヌサテンガラ諸島を行けるところまで進む(ロンボク、スンバ、スンバワ、ロテ、チモール、キサール、アルー、テナルテ、等々)


 想定した期間はおよそ1ヶ月。しかし急なことだったので準備が間に合わず、旅が成立しない不安の方が大きくて諦めてしまった。結局別のプランを拵えて、マルセイユ → ヴェニス → マルセイユ → モロッコ周遊(フェズ、メルズーガ、ワルザザード、マラケッシュ)と何とも不思議な3ヶ国の組合せに。それでも考えていた以上に充実した旅にできたが、予想通り中途半端ともいえるもので終わった。今から考えると、思い切ってナミビアに飛んでしまえばどうにかなっただろうと思う。実際これまでの旅は全部そんな調子だったのだから。

(この時は、ナミビア、ボツワナ、モロッコ、イタリア、インドネシアなどの膨大な量の資料と格闘してプランを練ったものだから、毎日気が狂いそうな思いをした。たまには一切の計画なしに飛行機に飛び乗ってみたい。)



 アフリカまで繰り返し出かけていくのには、『アフリカ旅物語』から少なからず影響を受けている。ヌサテンガラの旅はもう20年以上昔からアイディアを暖めているが、そうさせたのは『マレー諸島』を読んだからだ。

 ウォーレスのような旅がしたい。けれども、ウォーレスが旅した時代(19世紀中頃)と比べたら、世界中どこも環境や人びとの暮らしはすっかり変わってしまった。たとえ会社勤めを辞めて長旅に出られたとしても、例えばスタンレーやレリスが旅歩いたアフリカも、ウォーレスが探索したアマゾンやマレー諸島も、今はもうない。かつての牧歌的な雰囲気は世界中からほぼ失われ、それを求めに日本を旅立ってもノスタルジーさえ生まないのではないだろうか。

 数々の旅行記を夢中になって読んでいるのは、そうした旅のことごとくが、自分が抱える条件と照らし合わせても、時代変化の大きさを考慮しても、再現不可能だと分かっているから、過去の素晴らしい旅を頭の中で追体験したいという願いが強いからなのだと思う。

 そんなことを思いながら、最近また『マレー諸島』を少しずつ読み返している。



(ウォーレスの『マレー諸島』は、単行本の新装版がカラー印刷で美しい。けれども、文庫で持っている本を6000円以上出して買い直す気が起こらなかった。でも今回折角なので、その新装版で読み直そうかと思った。しかし調べてみたら既に品切れ。古本もことごとく1万円を超えている。やっぱりある時に買っておくんだった。)

(いや、そればかりか、文庫版まで品切れになっている。これは常に入手可能であって欲しい名著なのに!)






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by desertjazz | 2014-09-24 19:00 | 本 - Readings

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