読書メモ:オリヴァー・サックス『音楽嗜好症』

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 オリヴァー・サックス『音楽嗜好症(ミュージコフィリア)―脳神経科医と音楽に憑かれた人々』読了。オリヴァー・サックスは『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』『妻を帽子とまちがえた男』に続く3冊目。続けて『音楽嗜好症』も読みたかったが、単行本がやや高く、文庫版もすぐに出るだろうと待っていたら、やはりこの夏に出た。

 音楽に無関心だったのに突然音楽に夢中になる人、音楽を職業としていたのに突然音楽の存在に絶えられなくなる人、音楽を愛していたのに突然音楽を感じられなくなる人、さらには音楽によって自閉症が改善した人などなど、音楽と人間(脳)との深く不思議な関係を描いた全29章。


・ある音楽が脳内から離れなくなる体験は誰にでもあると思うが、それが病的症状になって生きていることさえ辛くなる症例があることは驚き。「脳の虫」とは巧みな表現。

・眼が見えないこと、耳が聞こえないことは大きな障害だが、耳が聞こえていても音楽を感じない(音の高低を判別できない、周囲の人が音楽を聞いて感動していることが理解できない、等々)という生き方も大きな悲劇だろう。

・人間にとっての音楽は単なるひとつの趣味・嗜好なのではなく、言語の誕生とほぼ同時に深い関係性を持ち続けてきた特別な存在であることがよく伝わってくる。そして、人間にとってのリズムの重要性も。人間はリズムに乗って動作する生き物である。

・記憶が失われていても、ある音楽がトリガーになって古い記憶が蘇ったり、話せない人が歌い出したり作曲したり、治療困難な症状を音楽の力によって軽減したり。

・過去の著名人や音楽者の多くがこの種の病を抱えていた可能性を指摘。また、『失われた時を求めて』を引き合いに出しての「プルースト現象」の指摘も興味深かった。

・音楽の感じ方は人ぞれぞれ。いわゆる健常者の聞こえ方/感じ方が正しいとも言えない。また健常者相互の間でも違いがあってもおかしくはない。

・サックスの過去の作品や、スティーヴン・ミズンの『歌うネアンデルタール―音楽と言語から見るヒトの進化』、 ダニエル・J・レヴィティン『音楽好きな脳―人はなぜ音楽に夢中になるのか』などでもそうなのだが、音楽はなぜ/どのようにして生まれたのか、音楽は脳の中でどのような働きをしているのか、音楽嗜好症のような病はなぜ起こるのかといったことについて、結局正確なことまでは分からない。そこにもどかしさを感じるのだが、人間の身体と脳はそれだけ複雑で不思議なものだということなのだろう。


 様々ことを思いながら面白く読んだが、一番強く感じたのは自分が「音楽を感じられる」脳と身体を持って生まれてこられた幸せだった。人間の脳は本当に不思議だと思う。






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by desertjazz | 2014-09-26 17:00 | 本 - Readings

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