読書メモ:エレン・リー『アフリカン・ロッカーズ』(再読)

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 鈴木裕之氏は新著『恋する文化人類学者 結婚を通して異文化を理解する』の中で、自身が翻訳したフランス人(女性)ジャーナリスト、エレン・リーの『アフリカン・ロッカーズ』(JICC、1992年/日本版は1988年の仏版に加筆)について、「マンデのポピュラー音楽をとりあげたルポルタージュだが、グリオの文化についても詳しく紹介している」(P.233)、「(ギニアの大統領だった)セク・トゥレ時代のギニア音楽についてライブ感覚豊かにレポートしている」(P.234)と書いている。この本、アルファ・ブロンディなどレゲエ系のアーティストについてが中心で、個人的にはやや物足りなかった印象があるのだけれど、そうだったかな?

 そう思って読み直してみた。うーん、面白くて一気読み。これは1990年代初頭の時点でギニアやマリ、コート・ジヴォワールなどのポップスの状況を俯瞰した見事な本だ。ベンベヤ・ジャズとデンバ・カマラ、サリフ・ケイタ、アルファ・ブロンディなどの経歴も交えながら、彼女自身が直につき合ってきた西アフリカのアーティストたちについて活き活きと綴られている。当事者たるアフリカ人たちを除けば彼女でなければ語り得ないエピソードも盛り沢山で、確かにアフリカ音楽に関する良書だと思う。

 何より個人的に一番興味を惹かれたのは、ギニアやマリの主要バンドの誕生やアーティストたちの離合集散の様についてかなり詳しく書かれていること。ベンベヤ・ジャズ、レイル・バンド、アンバサダーズ、サリフ・ケイタ、モリ・カンテ、カメルーン出身のマヌ・ディバンゴといった有名どころばかりでなく、ギニアのセク・ルグロ・カマラ(P.19)、カンテ・ファセリ(P.43)、アポロ(P.48)、ケイタ・フォデバ(P.59)、シリ・オルケストル、オルケストル・デュ・ジャルダン・ドゥ・ギネー、オルケストル・パイヨット、バラ・エ・セ・バラダン、バラ・オニヴォギ、ケレティギ・エ・セ・タンブリニ、ケレティギ・トラオレ、アマゾン・ドゥ・ギネー、ホロヤ・バンド(P.60-61)、セク・ジャバテ(P.71)、カマイェンヌ・セプテット/カマイェンヌ・ソファ(P.100-102)、マリのフォルマシオンA(P.116)、スゥペール・ビトン、ソリィ・バンバ(P.117)等々が次々と名を連ねる。さらには、エルネスト・ジェジェ(P.130)、ラバ・ソッセ、スター・バンド(P.142)、クリスチャン・ムセ(P.220)、ママドゥ・コンテ(P.221)などまでもが登場して興味津々。久し振りに読んで大変参考にもなった。

(できればセネガルに関しても詳しく書いて欲しかったところだが、この本が主にマンディング音楽に焦点を当てていることと、エレン・リーの得意領域が異なるということで、それはないもの強請りになるだろう。)

 20数年振りに読み返してこれほど面白く感じたのは、その間にギニア音楽やマリ音楽への理解が深まっていたからなのだろう。1990年代末に西アフリカを旅してギニア音楽のレーベル、シリフォンのLPの大半をコレクションし、それらを聴いて黄金期のギニア音楽の全体像を把握できたことが大きいと思う。『アフリカン・ロッカーズ』を最初に読んだ頃は、中村とうようの『アフリカの音が聴こえてくる』に掲載されたギニア音楽のレコードを眺めて「聴いてみたいなぁ」とヨダレを垂らしていたようなレベルだったので、『アフリカン・ロッカーズ』で取り上げられた諸バンドの名前を聞いてもピンと来なかったのは仕方ない。でも今はミュージシャンやバンドの名前を目にする度にそのサウンドが頭に浮かぶのだから大違いだ。

 幸いなことに最近10年ほどの間にシリフォンの CD復刻がかなり進んだ。なので、ギニア音楽に関心のある音楽ファンにとっては、それらを聴きながらこの本を読んでみることは、私にとってと同様に意味あることなのではないだろうか。





 補足


1)『恋する文化人類学者 結婚を通して異文化を理解する』と『アフリカン・ロッカーズ』はともにマンディング音楽を扱っているだけに、相補的な部分が大きい。『恋する文化人類学者』を読んだことで『アフリカン・ロッカーズ』の記述を理解できたところもあった。例えば、アルファ・ブロンディと彼の祖母が「夫婦関係」と見なされることなど。


2)現在から振り返るとセク・トゥーレの文化政策に対しては多々批判はあるだろう。しかし、1965年ころからの約20年間、中でも60年代末から76年ころまでがギニア音楽の黄金期だったと思う。シリフォンの録音の全てが傑作・名作だとは思わないが、私は今でもソリ・カンディア・クヤテやシリ・オーセンティックのレコードは大好き!






by desertjazz | 2015-01-21 00:00 | 本 - Readings

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