読書メモ:カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』

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 5月1日に発売になったカズオ・イシグロの10年振りの長編小説『忘れられた巨人』を読了。

 これまでのどの長編でも全く新しいスタイルに挑戦し続けているところが、この作家の大きな魅力のひとつ。長編7作目になる今度の作品でもそれは同様。舞台は6世紀頃のブリテン島(現在のイギリス)で、鬼が出てくるは竜が出てくるはアーサー王について繰り返し語られるはで、SF/ファンタジー的な作品となっている。老夫婦が息子を訪ねる旅に出る一種のラブストーリーなのだが、もちろんカズオ・イシグロのこと、最初の方からカフカ的な雰囲気も漂って一筋縄では行かない。

 読みながら常に頭にあったのは、これは「記憶」についての物語なのではないだろうかということ。記憶に残ることと忘却してしまうことの幸/不幸について語ろうとしているのだろうかと考え続けた。人は自分の体験を選択的に記憶できない。なので、幸せな体験を忘れてしまう無念さもある一方で、忘れてしまっている方が幸せなことも多い。それを無理に蘇らせると、その結果は…。

(「記憶」の点では、プルースト『失われた時を求めて』から、ジュリアン・バーンズ『終わりの感覚』までもを連想しつつ読書。最近オリヴァー・サックスを立て続けに読み続けているから、なおさら「記憶」について考えることになったようだ。)

 随所に置かれた布石を結びつけていくことで、ラストシーンも容易に想像がついた。果たして登場人物たちが思い出したこととは? いや、そんな単純な話ではないだろう。どうも書込みが足りないというのか、肝心なことがあと少し語り尽くされていないというのか、これまでとは違ってややそんな印象も受ける。作者はもっと深いことを語ろうとしているに違いない(つい先ほど読み終えたばかりで、まだ感想が熟さない段階でもある)。

 とにかく今回も作風が大胆に変化。強いて挙げれば『わたしたちが孤児だったころ』に近い部分も少しだけあって、同様な緊張感を持って読める。けれど、この作品を再読するよりも過去の長編6作品をまた読み返したい気分だ。正直なところ短編集『夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』に続いて少し物足りない。(『わたしを離さないで』しか知らなくて、その世界を期待するとガッカリする方も多いかも知れない。)




 さて、この『忘れられた巨人』の出版に合わせて、カズオ・イシグロは全米をツアー中。そして6月には来日(帰国?)して講演会の開催も発表になった。もちろん自分も参加するつもり。さてカズオ・イシグロが何を語るかも楽しみだ。

 ・6/8(月)第19回ハヤカワ国際フォーラム 「カズオ・イシグロ講演会」




 カズオ・イシグロは自分が一番好きな小説家。毎作、発売日に買って読んでいるのは、カズオ・イシグロと村上春樹とアディーチェくらいだろうか。






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by desertjazz | 2015-05-04 16:00 | 本 - Readings

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