Youssou N'Dour - Lives in Paris 2016

 2016年も世界各地で様々なライブを観たが、それらの中で圧倒的に良かったのは、ブルース・スプリングスティーンとユッスー・ンドゥールだった。

 2015年11月13日に凄惨なテロに見舞われたパリのライブハウス、バタクラン Le Bataclan が1年振りに営業を再開し、ユッスー・ンドゥールが出演すると発表された時、即座にパリ行きを決めた。新生バタクランのステージに真っ先に立とういうユッスーの心意気に惚れてしまったのだ。

 それでも一抹の不安はあった。それは、ここ何回か観たユッスーのライブを十分には楽しめなかったからだ。2007年のシンガポールの WOMAD も、最後の東京公演も(何年前だったか?)。1999年から2000年にかけてダカールのクラブ・チョサンやニューヨークのアフリカン・ボール The Great African Ball で浴びたサウンドと比較すると、欧米でのヒットナンバーを並べたインターナショナル仕様のライブはとても見劣りするからだ。

 そんな自分を後押ししたのは、3月にアメリカで観たスプリングスティーンのライブだった。先に書いた通り、彼のステージは自分の想像を遥かに超える充実振りだった。スプリングスティーンのコンディションは正に今絶頂に達している。もしかするとユッスーも? 何か良い予感を抱いたのだった。


 バタクランでの公演は11月18日と19日の2回。よく調べると、その前の15日にも同じパリで公演が組まれている。1週間にパリで3回も? パリの人たちはいったい何を考えているのだろう?(いやベルシー体育館でのグラン・バル Grand Bal では毎年数万人の観客を集めてきたのだから、これくらいはおかしくないか?)

 11月15日も含めて3回とも観に行くかは正直迷った。(この週パリで観たいライブは他にないし、パリには最近毎年訪れているので、美術館にもしばらくは行かなくていい。)3度とも同じ内容、それもインターナショナル仕様だったら後悔するだろうと考えてしまったのだった。


DAY 1 : Philharmonie De Paris (Nov. 15)

 久々のニュー・アルバム "Africa Rekk" のリリースに合わせてパリからスタートするツアー、今日がその初日。会場は現代的な建築物としても人気の高いクラッシックホールのフィルハーモニー Philharmonie de Paris。今日はステージ前の椅子席を取り払ってスタンディングエリアを設けている。音響を考えても椅子席の方が望ましいだろうと考えていたのだが、行くかどうかもたもた迷っているうちに指定席は完売になってしまった(その後スタンディングも完売)。

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 20時前に会場に着くとサバールのグループによるセッションが続いていた。それが終わって20時半、さて始まるかと思いきや、ステージに登場したのはドゥードゥー・ンジャイ・ローズ一族(今は息子が継承)。途中から Le Super Etoile de Dakar のパーカッション奏者、ババカル・フェイも加わってたっぷり30分。2015年8月に亡くなった師ドゥードゥーへのオマージュ的な内容だった。

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 20時半、ババカルの煽るような MC を受けて待ちに待ったユッスー達が登場。1曲目は "Li Ma Weesu"。かつて自分がライナーを書いたアルバム "Nothing's in Vain" の代表曲でスタートしてくれたのは素直に嬉しかった。フロアの周りはセネガル人たちで溢れていて、最初から大歓声&大合唱。ちょっとダカールでライブを観ている気分にもなる。もうこれだけで十分。

 "Set"、"Birima"、"7 Seocnds" など馴染みのヒット曲が相次いで繰り出される中、断然良かったのは "Immigres"。独特なメロディーといいアレンジといい、この曲が持つマジカルさは全く褪せていない。"New Africa" の絶唱でいったんシメ。こうした流れは以前と変わっていないようだ。

 もう1曲印象深かったのは "Hope"。静謐な歌声がひしひしと心に染み込んでくる。さりげないこの曲にどうしてこれほど心が震えるのだろう? このときは、まだその理由には気がつかなかった。何せ曲名すら浮かばず、ホテルに戻ってから Spotify で探したほどなのだから(1992年のアルバム "Eyes Open" に入っていたはず、ということだけは思い出せたので)。

 アンコールの最後にはドゥードゥー一派が再登場してまさかの "Chimes Of Freedom"(ボブ・ディランがノーベル賞を取ったからでもないだろうが)。サバール・アンサンブルが爆裂するアルバム・ヴァージョン通りのサウンドが再現された。最後の一打で興奮がマックス!

 でも、新作リリース・ツアーと言いながら、新曲は1曲もやらなかったな??

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DAY 2 : Le Bataclan (Nov.18)

 ロンドンに2泊だけして(ソナ・ジョバルテ Sona Jobarteh のライブを観てきた)パリにとんぼ返り。ユーロスターに初めて乗ったが、パリ〜ロンドン間を約2時間で移動できるのは便利だ(チケットも早く買ったのでとても安かったし)。

 レピュブリック Répubulique のかつての常宿にチェックイン。その後まずバタクランに向う。道行く人たちは相次いで入口前で足を止めて、それぞれが複雑な想いに浸っているらしい様子が見られた(その一方で、レピュブリック広場には飾られる花やロウソクも少なくなり、テロから1年が過ぎて街はかなり落ち着きを取り戻しているようにも感じられた)。

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 夜。19時40分、ややゆっくり目に会場に到着。チケットは完売で、手書きのカードを持って余っているチケットを求める人たちが立ち並んでいるほどだった。やはりユッスーはセネガルの同胞たちからの人気が高い。

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 場内に入ると最前列に空きスペースがあり、ここを確保。セネガルの男性たちは身長があるので、スタンディングだとステージが見えにくい。なので、これはラッキーだった。

 ユッスーとババカル・フェイとジャン・フィリップ・リキエル(長年ユッスーと共演してきた盲目のキーボード奏者)の3人だけで3曲。静謐な "Yakaar (Hope)"、優しい旋律の "Fital (Useless Weapons)"、そして新曲 "Food For All"。冒頭この並びにまずビックリ。取り分け3日前に聴いて以降頭から離れない "Hope"。こんな穏やかな曲を最初にもってくるとは予想外だ。

 続いてゲストのアンジェリーク・キジョーが登場し、レエゲ・カバーの "Get Up Stand Up" を共演。場内はもうフィルハーモニーの時以上の盛り上がりだ。"Money Money" や "Be Careful" といった新曲でも大合唱になる。セネガリーズはみんな早くも歌詞を覚えてしまっているんだね。

 いつも通りに "New Africa" の高らかな声でシメた後のアンコールは大ンバラ大会。これが凄まじかった! 特に "Senegal Rekk" は最高だね!(この曲、2016年春頃に EP でリリースされた時点では "Begg Naa Leen" というタイトルだった。)しばらく政治活動が中心で本格的な音楽活動から離れていたユッスーだけれど、ステージ・パフォーマンスに関しては完全に復活している。地元ダカールでのライブも継続(再開?)しているのだろうか?

 最後は、これも今年の新曲 "I Love You"(不思議なことにインターナショナル盤には未収録)。曲名をコールした瞬間の反応の何とも大きかったこと。それほど良い曲だとは思えないのだが、これが人気を得ているのには何か特別な理由があるのに違いない。いまだに謎なのだが…。

 およそ1時間50分のライブ。ワイワイ、ガヤガヤ、大興奮のセネガル人たちとの一体感が楽しい。3日前に観たものよりはるかに良かった。( "Immigres" をまた聴きたかったけれど…。)やっぱりンバラは凄いね!

[ Set List ]

 1. Yakaar
 2. Fital
 3. Food For All
 4. Get Up Stand Up
 5. Li Ma Weesu
 6. Set
 7. Jeggel Nu
 8. Baykat
 9. Birima
 10. Seven Seconds
 11. Song Daan
 12. Money Money
 13. Be Careful
 14. New Africa

 15. Serigne Fallou
 16. Xaajalo
 17. Senegal Rekk
 18. I Love You

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#

DAY 3 : Le Bataclan (Nov. 19)

 バタクラン2夜目もチケット完売。2ステージ観てすっかり満足したから、今夜は後方でのんびり楽しもう。そう思って開演ギリギリに行く。しかしセキュリティーの前で長蛇の列が出来ていて、これならもう少し早く来るべきだったと反省。それでもPA席の真後ろにぽっかり空きスペースがあり、迷わずここを確保。ステージが最も見やすい絶好のポジションだ。

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 演奏曲は昨日とほぼ同じ順。"Get Up Stand Up" でアンジェリークが加わったのも一緒。ただ、次は "Set" だと待ち構えていたら、それはやらずに "Jiggel Nu" へ。なぜ?と戸惑っていたら、終盤でアンジェリークが再登場し、"Set" でも共演した。煽られて彼女も踊りまくっていたが、正直なところ彼女なしの方が良かったな。

 ユッスー、基本的には昔と大きく違わない。特別新しい試みもなかった。しかし、もうベテランの域なのでそれで構わないと思う。懐メロ大会に陥ることなく、活き活きしたサウンドで誰もを楽しませてくれたのだから。

 フィルハーモニーが欧米向けヒット曲のオンパレードだったのに対して、バタクランは "Senegaal Rekk" と "Africa Rekk" の新曲を折り込みながらのセネガル人たちをより煽るステージ。それぞれ良さがあったので、両方を観られて良かった。トラックリストを改めて見ると、メッセージ性の強い曲が多く並んでいるとも思った。

 フランスは相次いで悲惨なテロに襲われた。そのことで、観光業も飲食店もライブハウスも軒並み大打撃を受けた。エッフェル塔やルーブル美術館の周辺でさえ閑散としているという話すら耳にした。しかし、バタクランという最悪の悲劇を被った場にも、たくさんの人々が集い、笑顔に溢れているのを見られたのはとても良かった。人々は音楽を求めてまた集まり、そして勇気と活力を得ている。これが今回の3公演を通じて一番強く感じたことだった。

 (ただし、これが和解の象徴だという風に安直に考えることはできない。話が複雑になるので、今日は触れないでおく。)

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 ユッスー・ンドゥールのライブを観たのはそろそろ20回になるだろうか。記憶しているのは、ダカール4回、ニューヨーク1回、シンガポール1回、東京6回?、横浜1回。あとどこで観ただろうか? セネガル人が多く暮らすパリでもセネガル人たちに取り囲まれて観てみたいと思い続けてきたが、今回それがようやく叶った。

 "Immigres" のもつ独特なムード、"Set" での大盛り上がり、"Senegal Rekk" の熱いンバラ。どれもをたっぷり堪能したが、中でも一番だったのは "Yakaar (Hope)" と "Fital (Useless Weapons)" だった。とにかく素晴らしかった。

 過去観たユッスーのライブの中で最高だったのは 1999年ダカールのチョサンでのもの。Le Super Etoile de Dakar がインプロビゼーションを徹底的に追求している印象で、そのインタープレイが長いものだから、確か2時間で8曲くらいしか演奏しなかったはず(翌年もチョサンで観たが、今度はポールダンス風のダンスなどエロチックな要素が多く、随分ユルい雰囲気だった)。次いで(もしかするとただ一度だけ行われた?)2000年11月ニューヨークでのグラン・バル。何と3部構成3時間半に及ぶ大パーティーだった(そういえばこの時も最前列で観ることができたのだった。2時間過ぎた頃にはさすがに辛くなって、3階席に移動して遠くからのんびりステージを眺めていたが)。

 そして3番目は 2003年の Tokyo Jazz。日中炎天下行われたユッスーたちによるステージはヒット曲を並べたもので、まあいつも通り。持ち時間も約1時間と短く、特別な印象も残っていない。このステージの後、ミュージックマガジンとワーナーミュージックから依頼を受けて、ユッスーに20分間だけインタビュー。それをどうまとめようかと思案しながら、夕方のスーパーセッションを観て、、、ぶっ飛んだ! この手の顔合わせはとかく企画倒れになりがち。事前情報を何も持っていなかったので、観ないで帰る気でいた。危なかった!

 ハービー・ハンコック Harbie Hancock を中心にスピーチ Speech などが絡むのだろうとてっきり思っていたら、ユッスーが歌いだしたのだ。1曲目は "Fital"。続いて "Yakaar"。どちらも 1992年のアルバム "Eyes Open" に収録されたナンバーだが、スタジオ録音とはあまりに印象が異なるものだから、しばらくどの曲なのか浮かばないほどだった。

 "Eyes Open" はサウンドが穏やか過ぎて滅多に聴かないアルバム。その中でもこれらの2曲はさほど目立たない。それがライブではこれほど素晴らしいとは。Joshua Redman とのバトルも凄まじくて、ユッスーにとってのベスト・アクトのひとつに挙げたいくらいだ。ユッスーの歌声は正しく絶唱。歌っている時間が短いのと、スピーチたちがハマっていないのが残念だが、この映像は入手して繰り返し観てきた。

 それをもう一度(いや二度?三度?)パリで観られた。オーバープロデュースだった "Eyes Open" から時を経て、"Fital" と "Yakaar" は熟成され完璧な音楽として生まれ変わった。パリでは、シンプルな伴奏はこの上なく美しく、ユッスーの歌は気合い入りまくりで正しく入魂の絶唱。音塊から伝わってくる説得力が凄まじい。"New Africa" のラスト・フレーズ、あるいは "No More" と同レベルと言えば幾分想像がつくだろうか。

 2003年にも2016年にもこの2曲を続けて歌った(順は逆だが)。この組合せは自分が知らなかっただけで、ユッスーにとっては定型化されたものなのだろうか? ライブ映像をネットで探しても見つからないので、これは久々のパフォーマンスだったのだろうか? "Yakaar (Hope)" は 2002年の "Live at Union Chapel" でも歌い、DVD化されているが、全然次元が違う。パリでのパフォーマンスは Tokyo Jazz と比べても数倍感動的だった。この連曲ライブは是非とも正式な形で映像作品を残して欲しいと願う。

 アフガン紛争からほどなく来日したユッスーは Tokyo Jazz で "Yakaar (Hope)" と "Fital (Useless Weapons)" を歌った。今また世界中至る場所で対立が激しくなるこの時代、ユッスーは再びこの2曲を歌う。優しく語りかけるように歌い始める "Yakaar"、湾岸戦争やベトナム戦争を折り込みながら戦争と武器に異を唱える "Fital"。そこにユッスーからの特別なメッセージを読み取ろうとするのは間違いだろうか?

 自分が体験した中で最高クラスのユッスーの絶唱がいつまでも脳内から離れない。ユッスーの歌声が毎日毎日頭の中で響き続けている。自分にとってこれはとても幸せなことだ。

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(補足)

1.
 当初バタクランに取材申請することを考えたが、一切受け付けないという。プロ用カメラの持ち込みも禁止だが、コンパクトカメラやスマートフォンはOKとのこと。なので一眼レフとレンズはホテルの部屋に置いていき、コンパクトカメラで少しだけ撮ったが、やっぱり限界がある。でも雰囲気くらいは伝わるかな?

2.
 11月18日も19日もオフィシャル・カメラマンはひとりも入っていなかった。なぜなのだろう?

3.
 11月18日には6カメ収録を行っていた。探してみたところ1曲分だけ公開されているのを見つけた。バタクラン再開最初のステージとなったスティングはフルで公開されたので、ユッスーのビデオも全編公開して欲しい。

 ・ Youssou Ndour & Angelique Kidjo - Get Up, Stand Up - Bataclan 2016 LIVE HD

4.
 11月19日の公演はほぼ全編 YouTube にアップされている。(特に 1h08m33sからの、スピード感に溢れエキサイティングな "Senegal Rekk" は必見!)ただ冒頭3人で演奏した3曲は撮っていなかったようで挙っていない。なので "Yakaar" も "Fital" もなし。残念。


5.
 Tokyo Jazz の映像は "Fital" から "Yakaar" の途中まで YouTube で観ることが出来る。


6.
 Le Super Etoile de Dakar と E Street Band はよく似ていると改めて思った。中央にとてつもないスーパースターがいて、それを支えるバンドは大人数で強者揃い。そしてそのリーダー格にはちょっとひょうきんなところがある(ババカル・フェイとマイアミ・スティーブのこと)。おまけに今 Etoile de Dakar には、ESB の Jake に似た若いサックス奏者もいるし。

7.
 Youssou N'Dour et Le Super Etoile de Dakar の Singapore Jazz Festival への参加が決定。出演するのは 4月1日。観に行きたいなぁ。でも無理だろうなぁ。


8.
 書き漏らしたので追記するが、ユッスーの喉の調子がとてもいい。ライブでこれだけ艶やかに響く声を聴いたのは記憶にないくらい。しばらく政界にいた分、喉を休めることができたのだろうか?



 (若干記憶に自信がないところもあるので、後日、一部追記/微修正するかも知れない。)






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by desertjazz | 2017-01-03 17:00 | 音 - Africa

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