2017年 01月 03日 ( 2 )

 2016年も世界各地で様々なライブを観たが、それらの中で圧倒的に良かったのは、ブルース・スプリングスティーンとユッスー・ンドゥールだった。

 2015年11月13日に凄惨なテロに見舞われたパリのライブハウス、バタクラン Le Bataclan が1年振りに営業を再開し、ユッスー・ンドゥールが出演すると発表された時、即座にパリ行きを決めた。新生バタクランのステージに真っ先に立とういうユッスーの心意気に惚れてしまったのだ。

 それでも一抹の不安はあった。それは、ここ何回か観たユッスーのライブを十分には楽しめなかったからだ。2007年のシンガポールの WOMAD も、最後の東京公演も(何年前だったか?)。1999年から2000年にかけてダカールのクラブ・チョサンやニューヨークのアフリカン・ボール The Great African Ball で浴びたサウンドと比較すると、欧米でのヒットナンバーを並べたインターナショナル仕様のライブはとても見劣りするからだ。

 そんな自分を後押ししたのは、3月にアメリカで観たスプリングスティーンのライブだった。先に書いた通り、彼のステージは自分の想像を遥かに超える充実振りだった。スプリングスティーンのコンディションは正に今絶頂に達している。もしかするとユッスーも? 何か良い予感を抱いたのだった。


 バタクランでの公演は11月18日と19日の2回。よく調べると、その前の15日にも同じパリで公演が組まれている。1週間にパリで3回も? パリの人たちはいったい何を考えているのだろう?(いやベルシー体育館でのグラン・バル Grand Bal では毎年数万人の観客を集めてきたのだから、これくらいはおかしくないか?)

 11月15日も含めて3回とも観に行くかは正直迷った。(この週パリで観たいライブは他にないし、パリには最近毎年訪れているので、美術館にもしばらくは行かなくていい。)3度とも同じ内容、それもインターナショナル仕様だったら後悔するだろうと考えてしまったのだった。


DAY 1 : Philharmonie De Paris (Nov. 15)

 久々のニュー・アルバム "Africa Rekk" のリリースに合わせてパリからスタートするツアー、今日がその初日。会場は現代的な建築物としても人気の高いクラッシックホールのフィルハーモニー Philharmonie de Paris。今日はステージ前の椅子席を取り払ってスタンディングエリアを設けている。音響を考えても椅子席の方が望ましいだろうと考えていたのだが、行くかどうかもたもた迷っているうちに指定席は完売になってしまった(その後スタンディングも完売)。

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 20時前に会場に着くとサバールのグループによるセッションが続いていた。それが終わって20時半、さて始まるかと思いきや、ステージに登場したのはドゥードゥー・ンジャイ・ローズ一族(今は息子が継承)。途中から Le Super Etoile de Dakar のパーカッション奏者、ババカル・フェイも加わってたっぷり30分。2015年8月に亡くなった師ドゥードゥーへのオマージュ的な内容だった。

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 20時半、ババカルの煽るような MC を受けて待ちに待ったユッスー達が登場。1曲目は "Li Ma Weesu"。かつて自分がライナーを書いたアルバム "Nothing's in Vain" の代表曲でスタートしてくれたのは素直に嬉しかった。フロアの周りはセネガル人たちで溢れていて、最初から大歓声&大合唱。ちょっとダカールでライブを観ている気分にもなる。もうこれだけで十分。

 "Set"、"Birima"、"7 Seocnds" など馴染みのヒット曲が相次いで繰り出される中、断然良かったのは "Immigres"。独特なメロディーといいアレンジといい、この曲が持つマジカルさは全く褪せていない。"New Africa" の絶唱でいったんシメ。こうした流れは以前と変わっていないようだ。

 もう1曲印象深かったのは "Hope"。静謐な歌声がひしひしと心に染み込んでくる。さりげないこの曲にどうしてこれほど心が震えるのだろう? このときは、まだその理由には気がつかなかった。何せ曲名すら浮かばず、ホテルに戻ってから Spotify で探したほどなのだから(1992年のアルバム "Eyes Open" に入っていたはず、ということだけは思い出せたので)。

 アンコールの最後にはドゥードゥー一派が再登場してまさかの "Chimes Of Freedom"(ボブ・ディランがノーベル賞を取ったからでもないだろうが)。サバール・アンサンブルが爆裂するアルバム・ヴァージョン通りのサウンドが再現された。最後の一打で興奮がマックス!

 でも、新作リリース・ツアーと言いながら、新曲は1曲もやらなかったな??

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DAY 2 : Le Bataclan (Nov.18)

 ロンドンに2泊だけして(ソナ・ジョバルテ Sona Jobarteh のライブを観てきた)パリにとんぼ返り。ユーロスターに初めて乗ったが、パリ〜ロンドン間を約2時間で移動できるのは便利だ(チケットも早く買ったのでとても安かったし)。

 レピュブリック Répubulique のかつての常宿にチェックイン。その後まずバタクランに向う。道行く人たちは相次いで入口前で足を止めて、それぞれが複雑な想いに浸っているらしい様子が見られた(その一方で、レピュブリック広場には飾られる花やロウソクも少なくなり、テロから1年が過ぎて街はかなり落ち着きを取り戻しているようにも感じられた)。

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 夜。19時40分、ややゆっくり目に会場に到着。チケットは完売で、手書きのカードを持って余っているチケットを求める人たちが立ち並んでいるほどだった。やはりユッスーはセネガルの同胞たちからの人気が高い。

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 場内に入ると最前列に空きスペースがあり、ここを確保。セネガルの男性たちは身長があるので、スタンディングだとステージが見えにくい。なので、これはラッキーだった。

 ユッスーとババカル・フェイとジャン・フィリップ・リキエル(長年ユッスーと共演してきた盲目のキーボード奏者)の3人だけで3曲。静謐な "Yakaar (Hope)"、優しい旋律の "Fital (Useless Weapons)"、そして新曲 "Food For All"。冒頭この並びにまずビックリ。取り分け3日前に聴いて以降頭から離れない "Hope"。こんな穏やかな曲を最初にもってくるとは予想外だ。

 続いてゲストのアンジェリーク・キジョーが登場し、レエゲ・カバーの "Get Up Stand Up" を共演。場内はもうフィルハーモニーの時以上の盛り上がりだ。"Money Money" や "Be Careful" といった新曲でも大合唱になる。セネガリーズはみんな早くも歌詞を覚えてしまっているんだね。

 いつも通りに "New Africa" の高らかな声でシメた後のアンコールは大ンバラ大会。これが凄まじかった! 特に "Senegal Rekk" は最高だね!(この曲、2016年春頃に EP でリリースされた時点では "Begg Naa Leen" というタイトルだった。)しばらく政治活動が中心で本格的な音楽活動から離れていたユッスーだけれど、ステージ・パフォーマンスに関しては完全に復活している。地元ダカールでのライブも継続(再開?)しているのだろうか?

 最後は、これも今年の新曲 "I Love You"(不思議なことにインターナショナル盤には未収録)。曲名をコールした瞬間の反応の何とも大きかったこと。それほど良い曲だとは思えないのだが、これが人気を得ているのには何か特別な理由があるのに違いない。いまだに謎なのだが…。

 およそ1時間50分のライブ。ワイワイ、ガヤガヤ、大興奮のセネガル人たちとの一体感が楽しい。3日前に観たものよりはるかに良かった。( "Immigres" をまた聴きたかったけれど…。)やっぱりンバラは凄いね!

[ Set List ]

 1. Yakaar
 2. Fital
 3. Food For All
 4. Get Up Stand Up
 5. Li Ma Weesu
 6. Set
 7. Jeggel Nu
 8. Baykat
 9. Birima
 10. Seven Seconds
 11. Song Daan
 12. Money Money
 13. Be Careful
 14. New Africa

 15. Serigne Fallou
 16. Xaajalo
 17. Senegal Rekk
 18. I Love You

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DAY 3 : Le Bataclan (Nov. 19)

 バタクラン2夜目もチケット完売。2ステージ観てすっかり満足したから、今夜は後方でのんびり楽しもう。そう思って開演ギリギリに行く。しかしセキュリティーの前で長蛇の列が出来ていて、これならもう少し早く来るべきだったと反省。それでもPA席の真後ろにぽっかり空きスペースがあり、迷わずここを確保。ステージが最も見やすい絶好のポジションだ。

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 演奏曲は昨日とほぼ同じ順。"Get Up Stand Up" でアンジェリークが加わったのも一緒。ただ、次は "Set" だと待ち構えていたら、それはやらずに "Jiggel Nu" へ。なぜ?と戸惑っていたら、終盤でアンジェリークが再登場し、"Set" でも共演した。煽られて彼女も踊りまくっていたが、正直なところ彼女なしの方が良かったな。

 ユッスー、基本的には昔と大きく違わない。特別新しい試みもなかった。しかし、もうベテランの域なのでそれで構わないと思う。懐メロ大会に陥ることなく、活き活きしたサウンドで誰もを楽しませてくれたのだから。

 フィルハーモニーが欧米向けヒット曲のオンパレードだったのに対して、バタクランは "Senegaal Rekk" と "Africa Rekk" の新曲を折り込みながらのセネガル人たちをより煽るステージ。それぞれ良さがあったので、両方を観られて良かった。トラックリストを改めて見ると、メッセージ性の強い曲が多く並んでいるとも思った。

 フランスは相次いで悲惨なテロに襲われた。そのことで、観光業も飲食店もライブハウスも軒並み大打撃を受けた。エッフェル塔やルーブル美術館の周辺でさえ閑散としているという話すら耳にした。しかし、バタクランという最悪の悲劇を被った場にも、たくさんの人々が集い、笑顔に溢れているのを見られたのはとても良かった。人々は音楽を求めてまた集まり、そして勇気と活力を得ている。これが今回の3公演を通じて一番強く感じたことだった。

 (ただし、これが和解の象徴だという風に安直に考えることはできない。話が複雑になるので、今日は触れないでおく。)

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 ユッスー・ンドゥールのライブを観たのはそろそろ20回になるだろうか。記憶しているのは、ダカール4回、ニューヨーク1回、シンガポール1回、東京6回?、横浜1回。あとどこで観ただろうか? セネガル人が多く暮らすパリでもセネガル人たちに取り囲まれて観てみたいと思い続けてきたが、今回それがようやく叶った。

 "Immigres" のもつ独特なムード、"Set" での大盛り上がり、"Senegal Rekk" の熱いンバラ。どれもをたっぷり堪能したが、中でも一番だったのは "Yakaar (Hope)" と "Fital (Useless Weapons)" だった。とにかく素晴らしかった。

 過去観たユッスーのライブの中で最高だったのは 1999年ダカールのチョサンでのもの。Le Super Etoile de Dakar がインプロビゼーションを徹底的に追求している印象で、そのインタープレイが長いものだから、確か2時間で8曲くらいしか演奏しなかったはず(翌年もチョサンで観たが、今度はポールダンス風のダンスなどエロチックな要素が多く、随分ユルい雰囲気だった)。次いで(もしかするとただ一度だけ行われた?)2000年11月ニューヨークでのグラン・バル。何と3部構成3時間半に及ぶ大パーティーだった(そういえばこの時も最前列で観ることができたのだった。2時間過ぎた頃にはさすがに辛くなって、3階席に移動して遠くからのんびりステージを眺めていたが)。

 そして3番目は 2003年の Tokyo Jazz。日中炎天下行われたユッスーたちによるステージはヒット曲を並べたもので、まあいつも通り。持ち時間も約1時間と短く、特別な印象も残っていない。このステージの後、ミュージックマガジンとワーナーミュージックから依頼を受けて、ユッスーに20分間だけインタビュー。それをどうまとめようかと思案しながら、夕方のスーパーセッションを観て、、、ぶっ飛んだ! この手の顔合わせはとかく企画倒れになりがち。事前情報を何も持っていなかったので、観ないで帰る気でいた。危なかった!

 ハービー・ハンコック Harbie Hancock を中心にスピーチ Speech などが絡むのだろうとてっきり思っていたら、ユッスーが歌いだしたのだ。1曲目は "Fital"。続いて "Yakaar"。どちらも 1992年のアルバム "Eyes Open" に収録されたナンバーだが、スタジオ録音とはあまりに印象が異なるものだから、しばらくどの曲なのか浮かばないほどだった。

 "Eyes Open" はサウンドが穏やか過ぎて滅多に聴かないアルバム。その中でもこれらの2曲はさほど目立たない。それがライブではこれほど素晴らしいとは。Joshua Redman とのバトルも凄まじくて、ユッスーにとってのベスト・アクトのひとつに挙げたいくらいだ。ユッスーの歌声は正しく絶唱。歌っている時間が短いのと、スピーチたちがハマっていないのが残念だが、この映像は入手して繰り返し観てきた。

 それをもう一度(いや二度?三度?)パリで観られた。オーバープロデュースだった "Eyes Open" から時を経て、"Fital" と "Yakaar" は熟成され完璧な音楽として生まれ変わった。パリでは、シンプルな伴奏はこの上なく美しく、ユッスーの歌は気合い入りまくりで正しく入魂の絶唱。音塊から伝わってくる説得力が凄まじい。"New Africa" のラスト・フレーズ、あるいは "No More" と同レベルと言えば幾分想像がつくだろうか。

 2003年にも2016年にもこの2曲を続けて歌った(順は逆だが)。この組合せは自分が知らなかっただけで、ユッスーにとっては定型化されたものなのだろうか? ライブ映像をネットで探しても見つからないので、これは久々のパフォーマンスだったのだろうか? "Yakaar (Hope)" は 2002年の "Live at Union Chapel" でも歌い、DVD化されているが、全然次元が違う。パリでのパフォーマンスは Tokyo Jazz と比べても数倍感動的だった。この連曲ライブは是非とも正式な形で映像作品を残して欲しいと願う。

 アフガン紛争からほどなく来日したユッスーは Tokyo Jazz で "Yakaar (Hope)" と "Fital (Useless Weapons)" を歌った。今また世界中至る場所で対立が激しくなるこの時代、ユッスーは再びこの2曲を歌う。優しく語りかけるように歌い始める "Yakaar"、湾岸戦争やベトナム戦争を折り込みながら戦争と武器に異を唱える "Fital"。そこにユッスーからの特別なメッセージを読み取ろうとするのは間違いだろうか?

 自分が体験した中で最高クラスのユッスーの絶唱がいつまでも脳内から離れない。ユッスーの歌声が毎日毎日頭の中で響き続けている。自分にとってこれはとても幸せなことだ。

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(補足)

1.
 当初バタクランに取材申請することを考えたが、一切受け付けないという。プロ用カメラの持ち込みも禁止だが、コンパクトカメラやスマートフォンはOKとのこと。なので一眼レフとレンズはホテルの部屋に置いていき、コンパクトカメラで少しだけ撮ったが、やっぱり限界がある。でも雰囲気くらいは伝わるかな?

2.
 11月18日も19日もオフィシャル・カメラマンはひとりも入っていなかった。なぜなのだろう?

3.
 11月18日には6カメ収録を行っていた。探してみたところ1曲分だけ公開されているのを見つけた。バタクラン再開最初のステージとなったスティングはフルで公開されたので、ユッスーのビデオも全編公開して欲しい。

 ・ Youssou Ndour & Angelique Kidjo - Get Up, Stand Up - Bataclan 2016 LIVE HD

4.
 11月19日の公演はほぼ全編 YouTube にアップされている。(特に 1h08m33sからの、スピード感に溢れエキサイティングな "Senegal Rekk" は必見!)ただ冒頭3人で演奏した3曲は撮っていなかったようで挙っていない。なので "Yakaar" も "Fital" もなし。残念。


5.
 Tokyo Jazz の映像は "Fital" から "Yakaar" の途中まで YouTube で観ることが出来る。


6.
 Le Super Etoile de Dakar と E Street Band はよく似ていると改めて思った。中央にとてつもないスーパースターがいて、それを支えるバンドは大人数で強者揃い。そしてそのリーダー格にはちょっとひょうきんなところがある(ババカル・フェイとマイアミ・スティーブのこと)。おまけに今 Etoile de Dakar には、ESB の Jake に似た若いサックス奏者もいるし。

7.
 Youssou N'Dour et Le Super Etoile de Dakar の Singapore Jazz Festival への参加が決定。出演するのは 4月1日。観に行きたいなぁ。でも無理だろうなぁ。


8.
 書き漏らしたので追記するが、ユッスーの喉の調子がとてもいい。ライブでこれだけ艶やかに響く声を聴いたのは記憶にないくらい。しばらく政界にいた分、喉を休めることができたのだろうか?



 (若干記憶に自信がないところもあるので、後日、一部追記/微修正するかも知れない。)






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by desertjazz | 2017-01-03 17:00 | 音 - Africa

巻頭言 2017

 新年明けましておめでとうございます。気まぐれに時々個人メモをアップする拙ブログですが、よろしければ本年もどうぞおつきあいください。

 昨年の反省点のひとつは、アウトプットが少なかったことです。幸いなことに本業の方では、1年を通して評判作/話題作ばかりでした(『シン・ゴジラ』には関わっていないよ)。でも音楽に関する発信はあまり出来ませんでした。書きたいことが次々浮かんだものの、ほとんどどれも完成にまで辿り着けず。頭の中で最終形のイメージができていても文章にできなかったり、実際書き始めるとどんどん長くなって書き上げられなかったり、余りにパーソナルな内容だったり。必ず公にすると決めている論考もいろいろあるので、それらを今年こそはきちんと書き上げてブログなどで公開できればと思っています。

 新春なので、酒の勢いで?それらの中からひとつを紹介。呑みながら書いているうちに(酒が入らないと文章を書けないのです)収拾がつかなくなった予稿。なので、前半と後半で文体が違っているのです。全く知り切れトンボだし、自伝 "Born To Run" を読んでの感想も加えるべきなのですが、取りあえずは未完成のまま公開することにします。


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Bruce Springsteen 2007/2016(極め付きの個人メモ)


 今年3月、ブルース・スプリングスティーンの "The River" Tour がどうしても観たくてアメリカに飛んだ。そこでは予想もしなかった大きな感動が待っていた。"Stolen Car" を聴いて、どうしてあれほど感動したのだろう。その理由をずっと考え続けている。



 スプリングスティーンのライブを前回観たのは 2007年11月のワシントン。この時はフランスを旅行中で、オーケストラ・バオバブ Orchestra Baobab、マジッド・シェルフィ Magyd Cherfi (Zebda)、マッシリア・サウンド・システム Massilia Sound System、レユニオンのゾング Zong などのライブを観るべくフランス各地を駆け回っていた。(バオバブは新作 "Made In Dakar" の発表ライブで、メンバー達と再会。こっそりサウンドチェックを観ていたら、サックス奏者のイッサが私の存在に気がつき、サウンドチェックを中断し歩み寄ってハグしてくれたり、バルテレミのギターを運ぶ役目を任されたり。彼らに楽屋で聞いた話も交えて、ライブを観た直後の深夜に新作CDのライナーを書き上げてメールで日本に入稿。マッシリアのライブではパスティス・ガールのサポートを頼まれ、気がついたらステージの上。打ち上げにも参加し、タトゥーたちと語り合う。そんな日々で、とても充実したフランス滞在だった。懐かしい。)その合間にスプリングスティーンのワシントン公演のチケットが取れたので、3泊の強行日程で仏〜米を往復することにし、ワシントンの Verizon Arena へ。

 しかしこのライブ、正直なところ、かなり期待はずれのものだった。スプリングスティーンをアメリカで観たら、それは素晴らしい体験で、きっと興奮を抑えられなくなるだろうとえ想像していたのだが。スタジアムの音が悪いからなのか、半数ほどの曲は楽しめた一方で、残りの半数は乗り切れない。どうにもサウンドが重くて、次第に心が冷めて行ってしまったのだった。それでも、ファースト・アルバムとセカンド・アルバムが特に好きな自分としては、"Growin' Up" (tour debut!) と "Kitty's Back"、それに "American Land" を聴けただけでもフランスから飛んで来て良かったと思ったのだった。


 余談になるが、このワシントンで一番強く印象に残っているのはライブが終わった後のこと。幾分余韻に浸りながらスタジアムの裏手をブラブラ歩いていると、前方からパトカーのサイレンが聞こえてきた。もしやと閃いて車道に駆け出すと(後で気がついたのだが、交通は完全に遮断されていた)すぐ目の前をパトカー数台が通り過ぎ、その後から、、、スプリングスティーンの乗った車が。彼は笑みを浮かべ手を振りながら瞬く間に通り過ぎて行った。その距離数メートル。咄嗟に車道に駆け出したので、自分の周りには誰もいない。こんな幸運ってあるのだろうかという信じられない思いを抱く。それと同時に、パトカーの一群に先導される「スーパースター」という余りにも巨大な存在。リアルさを感じない不思議な感覚。同じ人間でありながらも自分との違いの余りの大きさに圧倒されもしたのだった。

(さらに余談になるが、しばらく歩いて行くと、今度は全米ツアー中のイスラエルのイダン・ライヒェル Idan Raichel と路上でばったり。前年パリで会いインタビューしたことを憶えていてくれたようで「次のニューヨーク公演に招待するよ」と誘われる。皆から度々言われるが、自分が出かけると、ホント何かが起こる!!)


 ワシントンで観た2公演、不満が大きかったので、スプリングスティーンのライブはもういいかなとずっと思っていた

 けれども、今回心変わりしてスプリングスティーンを観に行こうと決めたのは、"The River" のフルセット20曲が聴きたかったから。The River Tour が始まって以降、毎ステージのセットリストをチェックすると、必ず前半はアルバム "The River" の全曲(レコード2枚分)をアルバムの曲順に演奏している。

 スプリングスティーンのアルバムの中で自分が好きなのは、ファースト "Greetings…"、セカンド "The Wild,…"、サード "Born to Run"、その次が5作目の "The River" だ。もう一枚選ぶとすれば、"The Rising" よりも "Nebraska" だろうな(4作目の "Darkness…" は個人的にはある意味過渡期の作品と捉えていて滅多に聴かない)。とにかく、"The River" は猛烈に好きなアルバムだ。その全曲を、今年アメリカに行けば生で聴ける!

 しかし、そんな時間があるのだろうか? 1月はブラジル取材(マンゲイラなど)と北海道旅行、2月は中国取材とインドネシア旅行。そんなことで他の面倒な仕事が溜まりに溜まり、3月はとても身動きの取れる状況にはならないはず。・・・だったのだが、奇跡が起きた。3月中旬に数日なら休みが取れそう。しかも、サンフランシスコで重要な打合せも持ち上がった。

 思い返せば、昨年のこと。スプリングスティーンの "The River Tour" のチケット発売日、一応チケット購入にトライしてみようかと考えたのだった。ところが肝心のその日、急病にかかり、仕事も休んで寝込んでしまった。発売開始時刻が日本時間の未明だったので、当然ネットで手配することなどできず。結果チケットは瞬く間に完売。スプリングスティーンのライブにはやっぱり縁がないのかと諦めていた。

 しかし、サンフランシスコに行けば、ロス公演は無理でもオークランドならば可能性がある。これはもしかすると、アメリカが、スプリングスティーンが呼んでいる? そう勝手に信じ込んでサンフランシスコへ。3月にして今年5回目の旅行(出張含めて)。会社に申告したら「また行くの !?」などと、さすがに周囲からは呆れられたが…。


 そんなワケで?気がついたらサンフランシスコ。そして3月13日、サンフランの隣町、オークランドへ。音楽ファンには Tower Of Power で知られるこの街に来るのも3度目かな。会場の Oracle Arena まで往復する交通手段が心配だったのだが、サンフランとを繋ぐ鉄道駅が隣接することが分かりひと安心。終電時間もチェック。(でも終演ギリギリになりそう。乗れるのか?)サンフランシスコで公演がないのは、スプリングスティーンが演奏できるような大きな会場がないからなのだろうか?なんとことも考えながら。

 公演当日までチケットは未入手。アメリカまで来ながらも「まあ観られなくても仕方ないや」と思っていた。実のところ、そんな手抜き状態だった。それでも夕方に正式なチケットをネットで購入。なので、さすがに GA のチケットは取れなかった。残念。(そう言えば、2007年ワシントンの2日目は当日に GA を定価以下で買ったな。チケット発売時点で完売でも、後々買う方法はいろいろあるのです。)


 前置きがとっても長くなった。さてそのオークランド公演。

 お馴染みの「ぶる〜〜〜す」の大歓声による呼びかけを受けて、スプリングスティーンとメンバー達がほぼ定刻通りにユルユル登場し、3時間半ノンストップで全35曲。


 その前半21曲は待望の "The River" Set。さすがにレコード2枚分の曲の演奏を通して聴くと、アルバム後半には地味な曲も多いので、少しは飽きがくるかなとも覚悟していたのだが。それがどうして、全くもって素晴らしい絵巻物語りを見せてもらった。

 名曲揃いのアルバムの中でも特に好きな "The Ties That Bind" や "Ramrod" といったロックンロール・チューンは最高だった(勿論一番はタイトル曲の "The River" なのだが、ライブを観終えた夜に Facebook に書いた通り、こねくり回すような歌い方がどうしても好きになれない。この1曲に満足を得られなかったことは悔しい)。

 最後の "Wreck on the Highway" を演奏し終えた後、スプリングスティーンの深々と頭を下げる姿がとても印象的だった。ひとつの物語を真剣に聴いてくれてありがとうと感謝を伝えるかのようだった(そしてこれがもうひとつのショーをスタートさせる区切り)

 しかし、振り返ってみると、この夜、最も感動したのは "Stolen Car" だった。
 ロイ・ビタンのピアノとスプリングスティーンの歌とギター。
 美しく、切なく、圧倒的な説得力。
 完璧な名曲だ。
 そのことにこれまで気がつかないできた。
 これまで約40年間、自分は一体何を聴いてきたのだろう?


 そう思って、帰国後スプリングスティーン関連の文献を読み返し続けている。
 読みまくることで、彼のことをいろいろ思い違いしていたこと、誤解していたことも分かってきた。
 彼のキャリアを振り返る時、まだまだ凄い作品を残せたはずという忸怩たる思いも抱く。
 彼はずいぶん勿体ない道を歩んできてしまったようにも思っていた。
 しかし、今ではスーパースターの彼も、あくまで弱さをもった一人の人間であることを理解できた。

 幾多の文献を振り返って一番の収穫は、デビュー前の面白さだ。
 キャスティールズ、スティール・ミル、スプリングスティーン・バンド、等々。
 片っ端から音源を探して聴きまくった。
 The Who や Led Zeppelin のようなハードなロック・バンド/ギタリストになる可能性も持っていた。
 しかし、スプリングスティーンはそれを捨てた。
 そのことは、デビュー以来続き繰り返される変化の予兆でもある。

 ここ半年ほど、彼の作品群を聴き直している。
 聴いても聴いても彼の全貌を捉え切れない。


 "The River" Tour のセットリストを時々チェックしている。
 欧州〜全米2周目は "The River" 全曲の括りを外し、目玉であるはずの "The River" や "Hungry Heart" を演奏しなかった日もあるようだ。
 地元ニュージャージーでは4時間に及ぶ驚愕のセット。
 "Rosalita (Come Out Tonight)"、"New York City Serenade"、"Jungleland" という3大名曲/長曲が並ぶセットなんてあり得ない!
「あー、今年もう一度観に行くべきだった」と後悔。
 しかし、自分としては "The River" のフルセットをライブで聴けたことの方に満足している。

 ツアー終盤になって、ステージの始めの方にファーストとセカンドの曲をずらっと並べている。
 自身のキャリアを振り返るかのごとく、どんどん回顧的になってきている印象がする。
 これは今の自分とシンクロしている?(と勝手な一言。)
 そんなことを思っていたら、今度は新譜 "Chapter and Verse" と自伝 "Born to Run" を発表。
 これにはさすがに驚いた。
 自伝の内容に沿った選曲のアルバムには、デビュー前に録音された未発表曲が5曲。
 これらはここ半年狂ったように聴き続けてきたもの。
 やっぱりシンクロしているなー!


 スプリングスティーンがなぜ今 "The River" 全曲をライブで演奏したのだろう?
 自分がなぜ "Stolen Car" という曲にあれほどまでに感動したのだろう?
 その理由についてずっと考えて続けている。
 恐らくその答えにもう辿り着いているのではないだろうか。
 一言でまとめると、それは "The River" という作品が大人への分岐点だったから。
 その意味合いを象徴する1曲が "Stolen Car" だったのだろうと思う。

 ブルース・スプリングスティーンの自伝がいよいよ世界同時発売。
 自分がここ半年ずっと考え続けてきたことへの答えも明かされているに違いない。

 ブルース・スプリングスティーンを聴き続けたくて、ここ半年間 CD はほとんど買わず。
 この偉大なミュージシャンと同時代に生きてこられたことを心底幸せだと思う。
 彼は2016年をフルスロットで走り続けている。
 そのスプリングスティーンのライブをもう一度観たいと願う。


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(以上が、3月に頭の中にメモしたことへ10月に書き加えた未完成原稿。その後、自伝を読んで「やっぱりそうだったんだな」と思ったのでした。)







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by desertjazz | 2017-01-03 00:00 | 音 - Music

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