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 昨年のベスト・ブックの1位に選んだ、バーニー・クラウス『野生のオーケストラが聴こえる―― サウンドスケープ生態学と音楽の起源』を再読/精読してみた。やはり凄い内容だった。自分にとっては10年に1冊クラスの本かも知れない。

 バーニー・クラウス Bernie Krause は、(ピート・シーガーのいた)ウィーバーズに加入しミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせた後、数々のレコーディングに参加(『ローズマリーの赤ちゃん』『地獄の黙示録』『スパイ大作戦』『トワイライト・ゾーン』『奥様は魔女』などの映画/TVシリーズやドアーズのアルバムなど)。またポール・ビーヴァーとの2人組 Beaver & Krause としての活動やソロとしての作品も多い(2004年の "Citadels of Mystery" あたりは日本でも人気のあるアルバム)。しかし今は、世界中の環境音を録音し分析・研究する音響生態学者としての姿が有名だろう。自分も 1996年に出た CDブック "Notes From the Wold - The Nature Recording Expeditions of Bernie Krause" (ellipsis art..., 1996) で彼の興味深い活動を知った(この作品はWAVEで購入。同様な方も多いのでは?)

 『野生のオーケストラ』の原著 "The Great Animal Orchestra - Finding the Origins of Music in the World's Wild Places" (2012) はたまたま Wired の記事で知って、発売直後に入手することができた。しかし、英語が苦手なためこの本もなかなか読み進まなかった。

 ところが邦訳が 2013年にとっくに出ていることを、昨年、分藤大翼さんの講演(イベント)で知り、慌てて買って読み、そして彼の語る世界にすっかり心を奪われてしまったのだった。

 ・・・前振りが長くなってしまった。

 クラウスがこの著書全編を通して強調しているのは、「ジオフォニー」(geophony : 風や水、大地の動き、雨と言った非生物が発する自然の音)と「バイオフォニー」(biophony : 人間以外の野生生物が発する音)と「アンソロフォニー」(anthorophony : 人間が発する音。電気機械の音、くしゃみや話し声などの生理的な音、音楽などの管理下の音、足音などの偶発的な音の4種類)という3者の関係の重要性/重大さだ。

 初読時それらの中で最も感銘を受けたのは、自然界の生き物たちの発する鳴き声は、周波数的/時間的/空間的に棲み分けているという事実だった。適当なジオフォニー環境の中で大小様々な生き物たちは、低音〜高音の間の異なる音域を使って音を発し、また互いに邪魔にならないタイミングで鳴いたり鳴きやんだりするという。かつて人間もそのような音空間を自然と十分に意識して暮らし、そうした中から歌や音楽が生まれてきたらしいのだ。ピグミーとともに暮らし彼らの録音を長年続けたルイス・サルノによると、ピグミーはそうした音環境の中で生きることで安らぎを得ている様子や原始の時代から歌を紡ぎ上げて行っただろうことがよく分かるという。

 対して現代社会はどうだろう。店頭から暴力的な音をばらまく商店街、暴走する車やバイク、無駄なアナウンスの嵐、、、。特に都会では、自己主張ばかりで、共生も譲り合いも失われている。こうしたことは単に「うるさい」という音環境の破壊であるに止まらず、人心のストレスや野生生物たちの生命の危機にも結びついているという。(例えば、クジラが沖に上がってくる「自殺」は、軍事目的で使われるソナーの超低音が耐えられないことからくる自死であることをこの本を読んで初めて知った。)

 音環境に関する様々な事実、それも人間が豊かに/野生生物たちが平和に生きていく上で必須な事柄ばかりが、次々と明かされていく。サウンドスケープ研究の嚆矢、R・マリー・シエーファーの『世界の調律 サウンドスケープトはなにか』はもちろん、スティーヴン・ミズン『歌うネアンデルタール 音楽と言語から見るヒトの進化』、プルースト『失われた時を求めて』、オリヴァー・サックス『音楽志向症(ミュージコリフィア) 脳神経科医と音楽に憑かれた人々』、クリストファー・スモール『ミュージッキング 音楽は<行為>である』、あるいはルイス・サルノやアントニオ・カルロス・ジョビンとの個人的やりとりも時々参照点にしながら論を進めている。

 目を見張る事柄の連続で、全てのページに興味深いことが書かれていると言えるほど。人間も動物も生きる上では資格情報より音声情報の方が重要なのではないかと思い始めるほどだった。(しかし耳も目も塞いで歩く現代人の姿は何と絶望的なことか。。。)綴っておきたいことがたっぷりあるので、この稿、後日追記するか数回に分けて書き続けることにします。







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by desertjazz | 2017-08-22 17:00 | 本 - Readings

最近のアフリカ音楽本


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 著名な野外録音家であり仏Occra の創設者でもある、シャルル・ドゥヴェルの豪華写真集 "The Photographs of Charles Duvelle" が話題のよう。それで思い出して、ここ最近気になっていたものを中心にアフリカ音楽書をまとめ買い。以下、軽く拾い読みしてのメモ。


Banning Eyre "Lion Songs - Thomas Mapfumo and the Music That Made Zimbabwe" (2015)
Jennifer W. Kyker "Oliver Mtukudzi - Living Tuku Music in Zimbabwe" (2016)
E. Obeng-Amoako Edmonds "Six Strings and a Note - Legendary Guitarist Aya Koo Nimo in His Own Words" (2016)

 まずはアフリカ音楽史上の偉人3人、ジンバブウェのトーマス・マプフーモとオリヴァー・ムトゥクジ、ガーナのパームワイン・ギタリスト、コー・ニモの自伝。時代背景や関連ミュージシャンのことも織り込みながら(当然か)詳述されている。いずれにも初めて見る写真がたっぷり掲載されていて、眺めているだけでも楽しい。コー・ニモのディスコグラフィーは有益なリスト。


John Collins "Fela : Kalakuta Notes" 2nd Edition (2015)

 2009年の 1st Edition は出てすぐに買った。なので 2nd Edition は不要かと思ってパスしていたのだが、両者の目次を比較すると若干だけ章立てが異なっている。2nd には近年の Felabration などについても言及しているようなので、一応取り寄せてみた。そしてビックリ! この2冊別物と言っていいほどに違う。1st がカラー写真満載の大型本で、テキストは写真の合間に挟まっている印象だったのが(全160ページ)、今度の 2nd はテキスト中心で、その量は数倍に増えている。写真も全てモノクロで数は多くなくクオリティーも落ちている(全330ページ)。ということはフェラ研究者なら両方とも必携だろう。

 ジョン・コリンズはガーナ在住の学者/ミュージシャンでフェラ・クティとも親交が厚かった人物(映画を共同制作していたことも有名)。彼の著した "Highlife Time" (1994) は最高のハイライフ研究者だと思っているのだけれど、ガーナのみでも出版だったので入手困難なのが残念(全280ページ)。今年秋には新刊 "Highlife Giants: West African Dance Band Pioneers" の出版も予告されている。

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Majemite Jaboro "The Ikoyi Prison Narratives: The Spiritualism and Political Philosophy of Fela Kuti" (2012)

 これは 2009年に出た本と全く同内容で、表紙を差し替えただけのものだった。なので買わないでいたことを、本が届いてから思い出した。これは失敗! フェラ・クティが晩年宗教に傾倒しトチ狂って経緯について詳しい、、、と以前にも紹介した記憶がある。

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 ところでシャルル・ドゥヴェルの写真集には長いインタビューが掲載されていて、彼がフェラの家(多分カラクタ)に行った話もちょっとだけ出てくる。付属CDも聴きごたえたっぷりで、トラック12 "Balante balafon (Guinea Bissaul)" のまるでスティーヴ・ライヒのような音には誰もが驚くんじゃないかな?

 これら並べて見ると古い世代の音楽についてのものばかり。新しい世代の音楽についてもまとめて読みたいところだが、最近のラップ/ヒップホップなどはネット上の情報の方が早いし役に立つ。なので出版物に頼るまでの必要はないのかも知れない。そもそもネット情報の膨大さが悩ましいのだが、、、。







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by desertjazz | 2017-08-22 12:00 | 本 - Readings

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