2008年に記憶に残った10枚。一生ものとなりそうな傑作たる最初の3作を除くと、あとは今年のベストというよりも個人的に印象深かったもの。なので、順位づけにはさほど意味はない。

1. Abida Parveen / "Ghalib" (Pakistan)
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 第2位のカウシキと並んで年初来から変わらずのワンツー・フィニッシュ。どちらが1位か一年を通して迷い続けた。女ヌスラットと称されるように、これまでは激情ほとばしるカッワーリの歌い手という姿ばかりが先行していた。しかし、ここでの音楽は極めて暖かく、極めて静謐なもの。耳を傾けていると、どんどん心が穏やかになっていくような音楽だ。
 毎年海外で面白い音楽を見つけて紹介してきたが(ヒュー・トレイシー・シリーズ、イダン・レイチェル、復活したファタイ・ローリング・ダラー、レッガーダ、などなど)、残念ながら今年は例年のような新たな発見をできなかった。インドのコルカタでこのCDを見つけて帰り日本に紹介できたのが、ささやかな成果だったか。いや、それ以上に、自分にとっては幸せな出会いだった。

2. "Kaushiki" (India)
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 そのコルカタ在住の新進歌手による大傑作。2007年発表の3枚組をエル・スールのH店主の勧めで購入したもの。完璧なテクニックと完全なる表現力とが両立している恐ろしい作品。特に1枚目。異境から響いてくるような柔らかで細やかなヴォイスに触れる度に心が震える。
 今年は遂にインド声楽に開眼し、春先にかけて、30〜50年代のリイシュー盤をコルカタとエル・スールで片っ端から買い漁った。これらも今後も繰り返し愛でるように聴き続けることだろう。
 本業の方ではインドの映画監督たちとのプロジェクトが続いている。インドの現状にも大いに関心がある。なのに、いくら誘われてもインド旅行には興味が湧かない。だけど、コルカタでのカウシキのコンサートはちょっと観てみたい。

3. Rouda / "Musique des Lettres" (France)
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 彼の 'Donnez-moi ma Chance' を今年のベスト・ソングに選んだが、他にも捨て曲なしのデビュー・アルバム。この曲のクリップ(これも優れている)などを観て、スラムのライブにも行きたくなった。

4. Baaba Maal / "On The Road" (Senegal)
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 この選と合わせてアフリカ音楽のベスト10も選んでみたのだが、アフリカの新譜に関して言えば今年はまずまずの豊作年。そんな中、アフリカものの第1位はバーバ・マールのこのアコースティック・ギターの弾き語り作で決まり。バーバ・マールはアコースティックに尽きると思い続けているし、またこうした穏やかな音楽が今年の自分の気分に合っていたということもある。それと同時に、この結果はアフリカものに突き抜けた新作がなかったことの反映でもあるように捉えている。
 (このアルバム、現時点ではダウンロード販売しかなされておらず、私が買ったのはセネガル産のブートCD-Rのようだ。)

5. Moussu T e Lei Jovents / "Home Sweet Home" (France)
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 マルセイユ、と言うより、ラ・シオタの愛される男たちのユニットの3作目。ファーストやセカンドと同様の路線を踏襲した内容で聴き飽きない。それらと比べるとやや物足りないものの、これだけ早いペースで新作を届けてくれることは嬉しい限りだ。とにかく「好き」としか言えない音楽。
 今年はフランスには行けず、タトゥーたちにも会えなかったことが残念。

6. Randy Newman / "Harps and Angels" (USA)
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 これも、とにかく「好き」としか言えない音楽。彼の最高傑作ではないけれど、代表作にはなりうるだろう。
 今年はなぜかロックやジャズに個人的には収穫が少なかった。

7. Kuniyuki Takahashi / "All These Things" (Japan)
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 chari chari(井上薫)のフォロアー的資質を感じさせる札幌在住のアーティストによる2作目。傑出した音楽ではなく、人によっては単なるフュージョンにしか聞こえないのかも知れない。実際、独りよがりでダサくなるなるギリギリ一歩手前で踏みとどまっている危うさも感じる。それでもかなり気に入って、今年のヘビー・ローテーション盤の一枚になった。札幌で観たライブもとても好感の持てるもので、オーディエンスからの反応も良かった。それだけに全く話題にならなかったのが不思議だ。

8. Sakaki Mango & Limba Train Sound System / "Limba Rock" (Japan)
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 世界のサカキマンゴーの2作目。送ってくれたサンプル盤を聴いて批判的なことを書いたし、いまだにちょっと苦手にしている曲もあるものの、今年最も気分良く聴いたアルバムのひとつであることには変わりない。ロックした時の彼はこのアルバムよりも数倍パワフルだったし、MCの巧みさも天才的。彼の多方面にわたる活躍も眩しかった。

9. 『アイヌ・北方民族の芸能』(Japan)
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 今年は人間にとって音楽する(歌う/奏でる/聴く)意味についてますます問い続ける一年だった。そんな折に出会ったのが、1953〜76年の録音を復刻したこの3枚組。生きるという行為の過程で研ぎすまされていった音楽がダイレクトに響いてくる。それはピグミーのポリフォニーにも通じるミニマルかつ幻惑的世界。その圧倒的な魅力にただただひれ伏すのみ。

10. Jupiter Bokondji & Various Artists / "Jupiter's Dance" (Congo) (DVD)
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 キンシャサのストリートで新たな音楽が生み出されていることを捉えたドキュメント。音楽的にはかなり稚拙なところがあるので、この作品をもう一度観直すことは恐らくないだろう。しかし、同じコンゴのコンゴトロニクスや、ナイジェリアに行って知ったカラバリ・ミュージックとの同質性が直に伝わってきた。上記のアイヌの録音群と同様に、人間が音楽する意味を記録したものでもあると思う。半世紀昔にヒュー・トレイシーがコンゴで未知の音楽と邂逅した情景も連想させられた。

 ♪

 今年はレコード(CD)の購入枚数が例年の半分以下になり、聴いた量もピークと比べたらおよそ10分の1程度だったのではないだろうか。なので、この10枚は音楽シーンを客観視して純然たる今年のベスト・アルバムを選出したものではなく、例年以上にパーソナルな結果となっている。
 音楽をあまり聴かなくなったのには、猛烈に忙しくなったこと、音楽を聴くことよりも読書を優先させたこと、音楽の本質について思案するうちに自分が音楽に対して求めるものが自身の中で変質してしまったこと、さらには多くの方が指摘する通り今年のワールドミュージックが全般的に不作だったことが、その理由として考えられる。恐らくこれら全てが絡み合っており、さらには海外を旅することで新たな刺激を得る機会が激減したことも影響していることだろう。
 こうした状態の下、無理して新作をフォローする必要を感じなくなり、そうした時間を昔から愛聴してきた作品ために傾けるようになった。つまりは出来のあまりよくない新作を聴くために自分が最も愛する音楽を聴く時間が奪われていることに耐えられなくなったのだ。さらには、ここ数年進めている「生活のダウンサイジング」という自身のテーマとも密接に繋がりながら、音楽受容の形がどんどん変化していった一年だった。(このことについては、改めて綴ってみたい。)
 限られた時間の中で、自分にとって本当に上質な音楽ばかりに耳を向ける日々。そのため、上のリストに掲げた10枚はだれにでも推薦できる音楽とは言い切れないし、自分自身見逃してしまってリストから漏れてしまった作品も多いことだろう。しかし、こうした音楽とのつきあい方をしたおかげで、今年の音楽生活はとても豊かなものとなったと感じている。

(※ 時間切れにつき、以降、追記&修正の予定。<アフリカ音楽のベスト>などの各部門は FB/DJ のサイト内にて発表中。)
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by desertjazz | 2008-12-31 12:04

今年の3冊 - Best Books 2008

『日本語が亡びるとき 〜英語の世紀の中で〜』(水村未苗、筑摩書房)

 内容の衝撃度や問題性は数々論評されている通り。個人的には説得力を感じており、著者の推測にも可能性を認める。このところ美味い和食をいただく度に日本に生まれた幸せを噛み締めているのだが、この本を読んで、極めて特殊な言語である日本語を操るという体験をして日々過ごしていることにも、感謝する気持ちが膨らんだ。文章の驚くほどの読みやすさにも関心させられた。

『コンゴ・ジャーニー』(レイモンド・オハンロン、新潮社)

 アフリカの奥地を訪ね歩くことなど数え切れない理由から無理なので、この突拍子もない不思議な旅行記をただただ羨ましく読む。知人の田中真知さんの『孤独な鳥はやさしくうたう』(旅行人)にも旅心がくすぐられた。

『アフリカの印象』(レーモン・ルーセル、平凡社)

 作品としての着地点も読んで得るものも何らない奇想天外な書。冒頭そうした特殊性を突き破れず、昨年出版後からしばらくは寝かしたままだったが、中盤からは面白くて病み付きに。『ロクス・ソルス』も続けて読破してしまった。その『ロクス・ソルス』に着想を得た映画 "The Pianotuner of Earthquake" が登場したシンクロニシティーには驚いた。
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 小説を読み出すと他のことに費やす時間がなくなるので、長年「小説は読まない」ようにしてきた。しかし、一度読み出すと止まらなくなり、今年はカズオ・イシグロ、オルハン・パムク、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ、スコット・フィッツジェラルド、レイモンド・カーヴァーなどを立て続けに読み漁ることになった。音楽を聴く時間が激減したのには、このことも大いに影響している。来年は時間があれば、谷崎潤一郎、夏目漱石、さらにはチママンダ・ンゴジ・アディチェあたりまで再読したいと思う。



d0010432_2351081.jpg(余談)

 大晦日の午後、たまたま押し入れを漁っていたら、『コンゴ・ジャーニー』の原書がやっぱり出て来た。以前探したときには見つからなかったのに。自宅の蔵書の整理も必要だと改めて反省。
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by desertjazz | 2008-12-31 12:03

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