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 いやぁ、久し振りに夢中になって小説を読んだ。

 グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツの『シャンタラム』が面白いという話が、年頭あちこちから聞こえてきた。その評判が気になり、さして内容は調べず書評類も読まないでページをめくり始めたら、グイグイ惹き込まれて、上・中・下3巻を実質一週間で一気に読み通してしまった。

 銀行強盗の罪で収監されたオーストラリアの男が刑務所を脱獄し、インドのボンベイ(ムンバイ)に逃れる。そのボンベイの街中やスラムで、訪れた田舎の村で、大物マフィアのもとで、様々なひとびとと出会い、運命的で稀な体験を重ねるというストーリー(これから読む人のために、具体的なことは一切書かないでおく)。

 登場人物がとても多く、各人がまるで網目のような複雑な関係性で繋がっている。そしてその多くが謎を隠しもっている。それらの謎はひとつずつ明かされていくのだけれど、その度に新たな謎が生まれる。また謎解きが繰り返され、それらは想像した通りだったり、意外なものだったり、あるいは仄めかしで止まったり。謎がすべて解き明かされるものか、次第に分からなくなってくる。だから自然と読む速度が上がっていくうちに、頭の中で推理・思考・考察することが刺激的になり興奮してくる。

 これだけの長編でありながら、ひとりひとりの人物の登場のし方やキャラクター付け、個々のエピソードの配し方が実に鮮やかだ。さり気ない挿話だと思ったものが後で重要な意味を帯びてくるし、安心したところで完全に裏切られるような驚きの展開も至るところに潜んでいる。上・中・下巻でストーリーのテンションというかフェイズといったものが大きくシフトするし、ある箇所で一気にリセットがかかる展開には息を呑むほどだ(そのポイントはツイートしたが、ここには書かない)。ここれは小説のプロットが完成した後に書き上げられたからなのだろう。

 あくまでも犯罪者を描いたフィクションなのだが、その多くの部分は著者の実体験に基づいているらしい。そのことから、著者のインドでの体験が反映されたかのような名言が全巻にわたって散りばめられている。個人的にも憶えのあるような気に入った表現(どうしてこれほどの文字表現ができるのだろう?)に出会う度にページを折っていき、気がつくと3冊の本はドッグイヤーだらけになってしまった。

 そのあたり読者によっては説教臭く感じられるかもしれない。中盤で度々繰り返される「善・悪」の問答も納得できなかった(一方で『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官」を連想して、もしドストエフスキーが『ゴッドファーザー』を書いたらこうなる?なんて妄想も)。巻が下るごとに筆が弱まっていくような印象もあり(特にハイライトになってもおかしくなさそうな第四部の後半が物足りなかった)。それでも上巻の一文一文が実に良くて、この一冊目を読むだけでも価値がある。

 全部で2000ページ近い大著(文庫版のみ)で、しかも改行少なくページが活字で埋まっている。それでいながら、結末を早く知りたくて(それと同時に終わってほしくないとも思うのだが)読み始めるともう止まらない。解説(養老孟司)でも「一週間たらずでとうとう読み終えてしまった」と書かれているが、実際そうした読み方しかあり得ないだろうと言い切りたいくらい。なので、登場人物の多さも話の複雑さも、読み進む上で全く障害とはならない。

 この上ないほどに優れた運命論であり、様々な人生哲学が詰め込まれており、人間の素晴らしさとインドの魅力について縦横に語った見事な作品だ。人間の運命が、ささやかな判断(決断にまでも届かない)によってどう決定されるかについて描かれており、そのことに現実感がある。最上級のハードボイルド小説であり、琴線が震えるラブストーリーでもある。これまでに読んだ中で最高に面白い小説のひとつだった。




(備忘録)

・インドとムンバイ、パキスタン、アフガニスタンなどについて多く知ることができた。
・民族問題や政治情勢について詳細に知り尽くしている。
・一部フィクションかと疑問に思って調べたことも事実だった。
・都市ビルの印象しかなかったムンバイの多彩な情景が美しく浮かんでくる。
・インド人ってこんなに素敵なんだ!(ホント?)
・ムンバイに行きたい、と誰もが感じるだろう作品。
・音楽やボリウッドの取り込み方が巧みで、それらの魅力も伝わってくる。
・どこまで実体験に即しているのか? スラムなどの描写はどの程度リアルか?
・映画化が決まったが遅れているらしい。この内容は1本では無理だし、連作にしないと勿体ない。
・同著者のノンフィクションを読んでみたいが出さない方がいい?
・彼が2作目の小説を書くことは恐らく不可能だろう。
・もう一度最初から読んで楽しみたい、というのが今の気分。

・読みながら比較対照した本が昨年読んだ中に2冊。それらの評価・評判は高いが、書いたら批判的なものになる。

 ほかにも何か思いついたんだったような…。





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by desertjazz | 2012-01-31 20:00 | 本 - Readings

週末の新刊チェック

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 現地で手帳に綴ったこと以外にも後でいろいろ思い出せるようにと考えて、ペナン滞在記を綴ってブログにあげている。忘れてしまわないうちに書き終えてしまいたいのだが、そのための時間がなかなか取れなくてまだ終われない。

 そうなっている理由のひとつは、ここ最近の読書が充実しすぎていること。今年読んでいる本、数はさほど多くないが、どれも病み付きになるほどのものばかり。(ちなみに今年の一冊目はマリオ・バルガス・リョサ『密林の語り部』だった。中盤での種明かしの衝撃!)それらを読み始めると他のことに手がつかなくなってしまうし、最近新たに読み始めた何冊かも同様。ある意味危険な状況なのだけれど、今年読んでいる本はほぼ全て大当たりだ。

 ならばと欲が出て、昨日も週末の新刊チェックに出かけたところ、気になる本、面白そうな本ばかりが目に入る(面白い、楽しい、というには、語弊のあるものもあるが)。今週はそれらの中から6冊のみ選んできた。新刊は以下の5冊。

・石井光太『アジアにこぼれた涙』
・石井光太『ニッポン異国紀行 在日外国人のカネ・性愛・死』
・ブリュノ・コストゥマル『だけど、誰がディジーのトランペットをひん曲げたんだ?―ジャズ・エピソード傑作選』
・クロード・シモン『農耕詩』
・ポール・セロー『ダーク・スター・サファリ カイロからケープタウンへ、アフリカ縦断の旅』

 このところ500〜1000ページ以上ある大著が溜まってきているけれど、なるべく写真のような横積みツンドクとならないようにしなくては、、、。


(ペナンの滞在記は入手したレコード類についての話が続いてしまったので、そろそろ別のテーマにも移りたい、、、。)





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by desertjazz | 2012-01-29 22:00 | 本 - Readings

 ペナンでマレーシア音楽を探求しようとしても無理があると思う。現在のマレーポップがどの程度面白いのかは知らないけれど、それを探るには少なくともクアラルンプールに居る必要があるだろう。

 マレーシア音楽の中で今でも個人的に興味があるのはP・ラムリーとシーラ・マジッドのふたり(最近はシティ・ヌルハリザは新作が出ても買ったり買わなかったり)。ということで、シーラ・マジッドの持っていないアイテムを探してみた。



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 まずは "Sheila Majid 25 Years"。これは2010年にデビュー25周年を記念してリリースした8枚組ボックスセット。スタジオアルバム全7作に、ニューシングル 'Dengarkanlah' を加えたもの(最新作 "Memori Aidilfitri" は2011年リリースなので、もちろんここに含まれていない)。一旦は迷って買わないことにしたのだけれど、 'Dengarkanlah' をネットで聴いてみたら彼女らしい軽やかさで、ちゃんとしたオーディオシステムで聴いてみたくなった。とても安いし、それにファーストアルバムはカセットでしか持っていないため、このボックスはあると便利かもと考え直す。帰国する間際にちょうどこれを買えるだけのリンギットが手元に残ってしまったこともあって、結局買ってしまった。(RM 99.00、日本円で2500円弱。やっぱり安い!)



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 シーラ・マジッドの最高傑作 "Legenda" のリマスター盤が出ていることを知った。P・ラムリーの愛聴者としては、この "Legenda XVXX" (2006) は迷わず購入。オリジナル盤に2トラック追加収録していて曲順も変更されている。だけど、元のヴァージョンの方が好きだな。

(このリマスター盤について調べてみたら、以前日本でも配給されたらしい。ネットで CCCD との表記があったが本当だろうか? いずれとも未確認。)



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 シーラ・マジッドに関して今回一番の収穫は "Ratu Jazz - VCD MTV Karaoke"。カラオケというよりも、彼女のミュージッククリップ集として楽しめる。懐かしい曲が並び、時代を感じさせる(痛い)映像も多いけれど、'Bunyi Gitar' のサイケな映像とダンスなどは、なかなかの見物だ。




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 昨年、25 Years of Sheila Majid を書いた後で CD 棚をチェックし直すと、Zainal Abidin らも参加したプロジェクトのライブ盤 "IKHLAS LIVE - Stadium Merdeka 25 December 1992" (1994) も出てきた。シーラは 'Pagi' や 'Wanita' を歌っている。

 シーラ・マジッドの作品はこれで大体手元に揃ったのかな?





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by desertjazz | 2012-01-28 00:00 | 旅 - Abroad

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 ペナンではP・ラムリーについてのドキュメンタリー "P. RAMLEE" の DVD も入手した。これはラムリーの家族や関係者たちに対する多くのインタビューを中心に構成し、彼の生涯について描いた約90分の作品。James Harding + Ahmad Sarji の "P.Ramlee - The Bright Star" の映像版と言ってもよさそうな内容だ。ナレーションと字幕は英語。制作はマレーシアの Pesona Pictures と The National Film Development Corporation(2010年)。

 冒頭まずラムリーの葬列のシーンから始まる。続いて彼の生い立ちに戻って生涯を振り返っていく。父が現在のインドネシア、アチェの出身であること、日本軍によってラムリーの音楽面の素養が培われたこと、クアラルンプールに出て俳優、映画監督として活動を始めたこと、女優たちとの三度の結婚、特に最後のサローマとの夫婦生活が幸せだったこと、等々。

 その後、シンガポールに進出して映画界で活躍。セットや撮影時間の面で妥協することがなく、上質な作品を制作し続けることで、その評価を高めていった。しかし、映画スタジオのストライキに遭ったりなどして会社を移籍。そこは機材が貧弱で満足な映画を作ることが出来なかったらしい。晩年に至ってはメガホンを取る機会が奪われ、曲を録音することも少なくなってしまったようだ。しかし彼は抱えた苦難を周囲に明かすことはなかったという。そうした心労が重なったがためか、44歳の若さで心臓発作により急逝。

 息子ふたりも度々インタビューで登場するのだが、偉大な父を持ったことの苦しみを切々を語る。ラムリーはどちらも音楽界に進めたかったが、それは成功しなかった。「父はハンサムだったけれど、自分はそうじゃない」という証言は痛々しい。

(ちなみにこの DVD のパッケージ、厚さ2cm近くあるのに解説書すらついていない超上げ底で、まるで最近のボリウッド DVD かのよう。それでいてマグネットで扉が閉じる無駄な仕様になっている。だから RM 89.90 もするんだ。値段だけ見たらディスク3枚か4枚入っているかと思った。)


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 日本に帰る日にラムリーの映画作品も DVD で10本見つけたので買ってみた。(# は作品番号)

・Hang Tuah (#26, 1956)
・Sarjan Hassan (#32, 1958)
・Musang Berjanggut (#34, 1959)
・Ibu Mertuaku (#39, 1962)
・Labu & Labi (#40, 1963)
・3 Abdul (#43, 1964)
・Masam Masam Manis (#46, 1965)
・Do Re Mi (#48, 1966)
・Keluarga 69 (#51, 1967)
・6 Jahanam (#56, 1969)

 マレー語が分からないのに買った理由は、ラムリーの音楽や歌のシーンが観たかったから。実際その通りの内容で、ラムリーやサローマの歌がたっぷり堪能でき、今少しずつ観ている。ナンセンスでユーモラスな作品が多いらしく、台詞が分からなくても案外楽しめる。

 その中でとりわけ嬉しかったのは、'Bunyi Gitar' のオリジナルが聴けたこと。この曲はシーラ・マジッドのラムリー・ソング集 "Legenda" で知って好きになった曲なのだけれど、ラムリーの3枚組ベストには入っていなかった。"3 Abdul" の割合始めの方で、エレキギターを抱えたラムリーたちがこの曲を歌うシーンが出てくる。これがツイスト風味のサウンドでなかなかいい。

(多分 YouTube などで検索すると容易に見つかるのかも知れないが、自分はこうしたアナログ的な方法が好きだ。)



 まとめ買いしたもうひとつの理由は、とにかく安いこと。VCD だともっと安く RM 10.90(約270円)。DVD と重複しないタイトルが10作ばかりあったものの、昔シンガポールかジャカルタで買った VCD が持っているプレイヤーで再生できなかったことを思い出し、VCD は1本だけにした。選んだのは、ジャケットから察するにラムリーとサローマの歌のシーンがたっぷり詰まっていそうだったこれ。

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・Ragam P. Ramlee (DAMAQ) (#45, 1965)

 2枚組で1枚目の途中までは2人による歌謡ショーが延々と続いて楽しい。ラムリーの振り付けは観た途端に頭から離れなくなってしまう(その後は普通の映画作品に切り替わってしまうのだが)。けれども、ふと思い立って CD 棚をチェックしてみたら、、、やはり既に持っていた。一体いつどこで買ったのだろうか?

(2セット持っていても仕方ないので、一方は誰かに差し上げよう。でも欲しい人はいるかな? それより、こうした2度買い、3度買いはなるべく減らしたい。)




 ペナンのショップにはラムリーの CD がさっぱり置いていなくて、ドキュメンタリー "P. RAMLEE" でも晩年の活躍が乏しかったような語られ方がされている。そうしたことから、彼も現在では過去の人なのかとも感じられた。しかしドキュメンタリーの終盤でシーラ・マジッドとシティ・ヌルハリザがラムリーの曲を歌うシーンが登場し、そしてシティが笑顔でインタビューに答えている。

 このドキュメンタリーによると、ラムリーの楽曲の著作権は彼の親族が所有するという。ラムリーのギャラリーを訪れたとき、ここが無料で開放されているのがちょっとした疑問だったのだけれど、もしかしたら楽曲使用料が安定収入となっていて、そうしたことが影響しているのかも知れない。ラムリーのギャラリーには毎日、若いひとも含めて多くのマレー人たちが訪れている様子だった。P・ラムリーと彼の作品はいまでも多くの人々に愛され続けているのだろう。





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by desertjazz | 2012-01-27 19:00 | 旅 - Abroad

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 昨日はチャイナタウンのことを書いた。そう来たら、次はリトルインディアだ。3日にガーニーのホテルに入った後、翌日最初の遠出先に選んだのがリトルインディアで、早速ジャランジャランしてきた。

 昨年5月ペナンに滞在した帰りにシンガポールにも立ち寄って2泊する計画だった。目当てはそこのインド人街(というよりもムスタファセンター)。この旅行は結局キャンセルしてしまったこともあって、今度のリトルインディア散策はちょっと楽しみにしていた。

 まず向かったのは CD/DVDショップ。どの店先からもタミルやボリウッドらしき音楽が大音量でガンガン流れてきて、とても気持ちがいい。どれもがっちり耳を捉えるサウンドばかりで、やはりインドの音楽は力があるなと瞬時に感じた。

 けれど中に入ってみると、タミル映画のDVDやVCDがとにかく多い。ガザルやカッワーリー、南インドの声楽なども若干あるが、心がそそられることはない。それにどの店でも置いているのはコピーばかり。9割以上が安っぽい印刷のコピー盤のようだった。(パートナーが「どうしてコピーばかりなの?」と訊ねると、「どこがコピーなんだ、どこから見たってちゃんとした正規版じゃないか!」と言い返されたそう。さすがはインド人!)

 店に入るごとに店員が「なにが欲しいんだ?」としつこく身を寄せる「密着商法」で追いまくられるのだけれど、タミルの映画も音楽もほとんど知らないために、買いたいと思うものがなかなかない。無理に買っても日本に帰って自宅で聴いたら印象が全く違っていることだろう。今耳にしている音楽は、ここリトルインディアの中で流れているのを堪能するのが一番なのに違いない。ビートの効いた曲やポップな映画音楽が溢れるこの雰囲気はたしかに気持ちがいい。



 リトルインディアでのもうひとつの楽しみは食事。6日の夜に再訪したときに、この界隈でベストの店(というよりペナンで一番のインドレストランらしい)Woodlands Vegetarian Restaurant で食べてみた。

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 インドが本店の有名レストランの支店だそうで、完全なオールベジの料理ばかり。久し振りに美味しいプーリが食べられた。

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 ただカレーは肉や魚介類、大きめに切った野菜がたっぷり入ったものをガッツリ喰いたいという思いも(カレーだと食欲が普段の3倍くらいに増してしまう)。この店のような穏やかな味わいもいいのだけれど、食べていて何だか力が湧いてこないような気にも。

 食後にまたジャランジャラン、雑貨屋に入って食材やスパイス類をまた大量買いしてしまった。

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 ペナン滞在中、インド音楽のショップには何度か行ったものの、買ったのはとうとう1枚のみ。Kuberan Tharisanam の "Om Mahakuberaya Varuga" というアルバム(↑ この記事のトップに写真を掲載)で、タミルの devotional song なのだろうと思う。タブラや打ち込みのシンプルなビートに乗って、クールで呪術的な男女のヴォイスの似たようなフレーズが延々繰り返させるだけの曲。これが店先で低音がブーストされた音で聴くと、瞬時に虜になってしまうカッコよさだった。

 これなら土産にできるかとも考えたのだけれど、ネットで簡単にフル試聴/ダウンロード(58分48秒!)ができるので見送った。興味のある方にはまず実際聴いてもらうのがいいだろう(→ ここなど)。

 今度DJをやる機会があったら、このトラックひとつのみというのもありかな? タミルの音楽も掘り下げると、まだまだ面白いものに出会えるに違いない。





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by desertjazz | 2012-01-21 14:00 | 旅 - Abroad

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 ジョージタウンの観光スポットは割合狭いエリアに集まっている。昼飯や晩飯を食べに出かけたついでにブラブラ歩いてみると、ガイドブックに載っているような有名なポイントは大概観終えてしまった。今回ジョージタウンでは観光よりも、ひたすら食を楽しむことにしていた。そのため時間つぶしのジャランジャランという感じだったのだが、それでも訪れたのは、数々の中国寺院・ヒンドゥー寺院・ビルマ寺院・モスク・教会、コーン・ウォリス要塞、チョンファッツィ・マンション(ブルーマンション)、ペナン・プラナカン・マンション、リトルインディア、チャイナタウン、アルメニア・ストリート、などなど(一番有名なクー・コンシーや博物館など行かなかったところもあったけど)。これくらいなら2日程度で観てまわることも可能だろう。

 世界遺産の写真などでよく目にする華人のショップハウスの類もずいぶんあちこちで観た。けれど、痛み切っていたり、中途半端に補修されていたり、広告看板がケバケバしく据え付けられたりで、世界遺産の街の象徴といった有り難さはない。そうしたことはジョージタウン全体にも言えるようで、どう整備していくかはこれからの重要問題であると感じた。

 ペナンという街の面白さは個々の建物よりも、街が全体として持っている特殊性にあるのではないだろうか。仏教・ヒンドゥー教・イスラム・キリスト教を信じる人々がごちゃ混ぜになって住んでいる。街の人と話す時にも、英語、中国語、マレー語のどれがいいのかと迷ってしまう。(映画を観に行ったら、台詞が広東語の吹き替え、字幕が北京語とマレー語だった、かな?)複数の民族が混住しながらも、概ね仲良さそうにくらしているのは好ましいことだろう(今の時期はそれぞれの新年を一緒に祝うそうだ)。

 少し歩いただけで、ビルマ寺院やらモスクやら中国寺院やら教会やらと続けざまに出会い、なんとも不思議な気分になってくる。人種や宗教が入り交じる土地は、もちろん世界中にある。真っ先に思い出したのはイスラエル、それもエルサレムではなくてベツレヘムだった(キリストが生誕した(亡くなった?)教会の真正面にモスクが建っていた情景をいまだに強烈に記憶しているからだろうか)。それでも、どの民族/宗教が主要であるか分かりにくいまま、これだけ平和的に共存している例は意外と少ないのではないだろうか。

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 やっぱり異国への旅はガイドブックお薦めポイントを辿るよりも自由気ままな散策の方が面白いと、個人的には考えている。今回もピンク色にキレイに塗られた学校を見つけて眺めたり。

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 チャイナタウンでも何気なく市場に入ってみた。すごい店の数。何があるのかと2階に上がってみると、古本屋が並び、大量の書物で歩けないほどになっていた。ここで数年前に訪れたインドのコルカタの書店街をちょっと懐かしんだり。

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 残念ながら CD店のようなものはなかった(デパート以外でCDを置いているところにはほとんど出会えず)。暇ばかり持て余しているので、当てもなくもう少しチャイナタウンを歩いてみる。

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 すると古道具屋らしき店があった。入ってみると、そこでレコードの山を発見。ボックスものは全て中国歌劇?だった。

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 その隣には SP盤の箱が。何かが見つかるわけもないので、期待せずにチェックしてみる。けれども、収穫のないことが分かっていながら、こうして1枚1枚めくる作業が楽しいんだなぁ。「Franco の SPがあるんじゃないか」「ET Mensah があるんじゃないか」なんていつも妄想してしまって、それだけで気分が高揚する。だから何かが見つかるかどうかなんてことは重要じゃない。

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 それでも Jo Stafford や Dinah Shore、それに Don Azpiazu などのラテン盤を見つけたので、記念に買ってきた(他にハワイ盤の7インチや中国製のレコード袋なども購入)。


 海外で SP盤を買ったのは、ジャカルタで MS Subbulakshmi を見つけて以来かななんて思いながら、再びジャランジャランに戻ると、今度はタミル映画館が。チャイナタウンの中ほどにこんなものがあるのが面白い。ちょっと中を覗いてみようかな〜?

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by desertjazz | 2012-01-20 20:00 | 旅 - Abroad

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 ペナン滞在中に是非とも訪問しようと考えていたところがある。それはP・ラムリーの生誕地と彼に関するギャラリー。ガーニードライブのホテルからはかなり離れた場所にある(5km以上で、ジョージタウンの目印コムタから歩いても裕に30分以上かかる)のでタクシーに乗り、その名も Jalan P. Ramlee(ラムリー通り)で下車すると、そこが目的地。ラムリーの遺族がその生誕地に彼にまつわる品を展示するギャラリーを建てて、月曜日を除く毎日、無料で開放している。

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 ギャラリー自体はさほど規模の大きいものではないが、ラムリーの写真やユーモラスなイラスト、彼が演奏した楽器、映画出演時の衣装などがたくさん展示されていて、眺めているだけで楽しい。ただし土産コーナーは貧弱で、彼のCDすら売られていないのは残念だった(市内のショップでも彼のCDは思いのほか少なかった)。Tシャツやバッチなどは大量に残っていただけれど、どれもダメダメなデザインなのでパス。記念にラムリーのポートレート・カードだけ買ってきた。

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 先に取り上げたラムリーの研究書に収められたたくさんの写真、出演映画などの映像、そしてこのギャラリー内の写真を見ていて連想したのは、コンゴのフランコのことである。若い頃の痩せた体躯と精悍な眼差しにも、後年貫禄がついた頃の笑顔にも、誰もをひきつける魅力を感じる。フランコにしてもラムリーにしても、ムチャクチャにモテたんだろうなぁ〜。

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 ラムリー・ギャラリーの割と近く場所で蚤の市 Lorong Kulit Flea Market が開かれている(8時〜14時)ことを知ったので、ついでに出かけてみた。ジャックフルーツを買ったりしながらレコードを見てまわったものの、マレー音楽盤はほぼゼロだった。まあ簡単に見つかる時代ではないのだろう。

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by desertjazz | 2012-01-19 00:00 | 旅 - Abroad

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 マレーシアで滞在したペナン島は P.ラムリーの出生地としても有名なところ。ラムリーは1950年代〜70年代に活躍した歌手/作曲家/作詞家/楽器演奏者/映画俳優/映画監督で、一言で形容するならマレーシア史上最大のエンターテイナー。自分も昔からラムリーが大好きなので、少しでも彼の名残りに触れたり、関連する資料に出会えたら嬉しいと思っていた。山中のマリホムから移動した1月3日にガーニーのモールの書店を覗いたところ、早速最初の収穫あり。ラムリーの研究書を2冊入手できた。

・Ahmad Sarji "P.Ramlee - Erti Yang Sakti"
・James Harding + Ahmad Sarji "P.Ramlee - The Bright Star"

 それぞれ、1999年と 2002年に出版された書籍なのだが、幸いなことに昨年末 MPH Publishing からペーパーバック版が出たばかりらしく、MPH の書店で面出し展開されていた。両方の著者の Ahmad Sarji はかつて Johari Salleh と供に、P.ラムリーの音楽面での成果を3巻の本(もしかするとCDか?)"Irama Lagu" (1993)、"Gelora" (1995)、"Air Mata di Kuala Lumpur" (1996) としてコンパイルした人物らしい。(*1)

  "P.Ramlee - Erti Yang Sakti" はラムリーに関するエンサイクロペディアである。ちょうど400ページある大著。マレー語ながら、写真(カラー版も多数)がふんだんに収められているため、パラパラ捲っているだけでも楽しい(かつてバリ島に通っていたころ1年間だけインドネシア語を勉強したのだが、それとマレー語がほとんど一緒なので、部分的には類推しながら読んでみた。結局全くと言ってよいほど読解できなかったのだけど)。

 "P.Ramlee - The Bright Star" の方は英語で綴られたラムリーの伝記。ペナン滞在中少しずつ読んでいたのだが、彼の父はインドネシアのアチェ出身で、家族問題が生じ両親から離れるためにペナンに移り住んだことから詳しく書かれている。出演した映画63本と歌った/書いた曲356曲がリスト化されているのも貴重な資料だ。




 ラムリーに関しては他にもいくつか収穫があったので、数回に分けて書く予定。。




*1) ペナン滞在中は 1991年にリリースされたベスト盤CD3枚組 "Kenangan Abadi Vol.I - Getaran Jiwa"、"Vol.II - Yang Mana Satu Idaman Kalbu"、"Vol.III - Dimana Kan Cari Ganti" を iTunes でずっと聴いていた。Ahmad Sarji はこれらのコンパイラーかと思ったのだが、帰国してから確認したところ、どうやら違っていたようだ。




(2012.1.13 記、修正して再アップ)





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by desertjazz | 2012-01-18 00:00 | 旅 - Abroad

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 1月3日の昼、ガーニードライブからすぐ近くのホテルにチェックインした後、今日のところは遠くにでかけかないことにして、まず向かったのは隣接する大きなモール。中にはCDショップも数店入っていたので、早速チェックしてみた。最も多いのは中華圏の音楽で、この国のマジョリティーが中国人であることが伝わってくるようだ。テレサ・テンやフェイ・ウォンの見たことのないようなボックスがいろいろある。それに対して、マレーシア音楽は案外少ない。自分は中華ポップもマレー音楽も詳しくないせいか、欲しいと思うものが全然ない。やはりペナンで音楽探しをしても徒労に終わるだろうことが分かってきた。

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 実際その後も数度、他のエリアも含めてショップに足を運んだのだが、買ったCDはとても少なかった。その中で拾いものと言えそうなのは、鄧麗君(テレサ・テン)の『淡淡幽情』の K2 HD Mastering 盤。24-bit/100kHz という Over Sampling Rate でマスタリングがなされている。なかなか欲しいものがないことでもあり、高い(RM 148、約3700円)が試しにこれを買って聴いてみることにした。

『淡淡幽情』は鄧麗君の最高傑作だとか、中華ポップの大名盤だとか言われ続けてきたが、自分自身はそうした評価に頷けないできた。だけど今回このCDで聴き直して、この作品の凄さが初めて分かったような気がする。これまで聴いてきたのは20年くらい昔に買ったCDなのだけど、録音のクオリティーが違いすぎて、聴いた印象が全く異なるのだ。

 このリマスター盤を聴くと、1曲目冒頭のアカペラからスタジオの空調音がはっきり聴こえるほどの生々しさ。この後もテレサの息づかいや楽器の音の微細な部分まで全部伝わってきて、とにかく素晴らしいの一言に尽きる。他のCDやアナログ盤を聴いたことがないので、今まで聴いていたCDの音が悪かっただけなのか、それともリマスター盤の音が良すぎるのかは分からないが、ディスクによってこれほど音楽の印象が違うという体験は少ない。

 データによると「音色更接近模擬(Analogue)聲倣」(字体は若干異なる)と書かれているので、オリジナルLPの音に近づけることを狙ったマスタリングなのだろう。香港盤だが、制作は日本(ビクターの系列会社)で、マスタリング・エンジニアは袴田剛史とのこと。2010年に1000枚限定でリリースされている。同仕様のリマスター盤は、他にもフェイ・ウォンの『天空』など数10タイトルがリリースされているようだ。

 歌も録音もあまりに素晴らしいものだから、日本に帰ってきてからはほとんどこればかり大音量で聴いているような気がする。


(参考)

Universal Music Hong Kong
FLAIR




(追記)

1.いくつかレスをいただきました。日本にもう入っているかどうか分からないながら、土産にできるかもとは考えました。ですが、目にしたのは1枚のみでした。

2.1000枚限定ながら、まだ品切れにはなっていないようです。ただしインポートするとなると、かなりの高額になるらしいです。

3.このハイサンプリング盤は「母版直刻1対1CD」という呼び方もあるそうです。

4.このアルバム、何度聴いても素晴らしい。そのことを力説され続けてきた方々に感謝いたします。





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by desertjazz | 2012-01-17 00:00 | 旅 - Abroad

 ラクサといえばマレーシア/ペナンが本場(?)。実はこれまで本格的なラクサを食べたことがほとんどなかった。当然のごとく今回の旅ではラクサを食する機会が多くなった。




 まず最初の一杯は、31日の夕方、クアラルンプールの国内線ラウンジで。まあ見た目通りの味でした。本物はペナンに着いてから。

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 2杯目は2日の昼に宿泊先のマリホムで。山をバイクで降りて近所の店で買ってきてくれたもの。

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 麺とスープを追加しておかわり。たっぷり食べた直後、ココナツミルク入りのものも届いた。オーソドックスなアサム・ラクサの酸味と甘みの混ぜ合わさった味も申し分ないが(パイナップルの味がアクセントになっている)、ココナツミルクによって微かにまろやかさが加わった味もいいな。

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 マリホムからすぐ近くにバリク・プラウ Balik Pulau という街がある。ここのラクサを食べることも楽しみにしていた。というのは、『地球の歩き方 マラッカ ペナン 世界遺産の街を歩く』でこう紹介されていたから。

「現地の食通においしいラクサがある、と言われ同行した先はジョージタウンから車で約40分のバリク・プラウというのどかな町にあるフードコート。ここは自家製のラクサ麺が絶品だ。粗めに挽いた米粉の少々ざらりとした食感が、魚がたっぷり入った風味豊かなスープに絶妙な塩梅でからむ。」(P.96)

 3日の午前、絶味なるモヒンガーを食しながら、胃にわずかに余裕を残していることを確認し、宿のチェックアウトを済ませて下山。バリク・プラウに向かう。運転手にはガイドブックで紹介されていた店をお願いしたつもりが、「ここが有名」と連れてこられたのは全然違う屋台店。失敗したかなと思いながらも、運転手はバリク・プラウの出身ということなので、彼を信用することに。ガイドブックばかり頼っていても詰まらないしね。

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 12時過ぎに仕込みの済んだ食材一式を持って店主が到着。待っていた息子?が無言で素早く薬味などを並べていく。彩りがきれいだ。

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 ラクサを拵えて行く店主の手際もいい。

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 完成したラクサ。刻み野菜などがどっさり載っている。

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 掘り返すと白い米粉麺が。スープをたっぷり絡めていただきました。一杯 RM 3(約75円)、安いよなぁ。

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 たしかに(この後ジョージタウンで食べることになるラクサに較べると)麺に若干の腰がある。ただし期待を超えるような味覚ではなかったかなぁ。マリホムで食べたラクサの方がスープが澄んでいて美味しかったような感じもする。

 先のガイドブックには、こうも書かれている。

「もうひとつ必ず食べて欲しい幻のラクサがルマ・ラクサ(別名サイアミーズ・ラクサ)。アサム・ラクサのスープにわずかにココナッツミルクを加えたもので、コクのあるやわらかな酸味が忘れられないすばらしい味だ。」(P.96)

 訪ねて行った屋台にはルマ・ラクサはなかったようだけれど、昨日の昼食で最後に出てきたのもルマ・ラクサなのだろう。それを思い出した途端に満足した気分。楽しみにしていた味をすでに体験していたのだ。ルマ・ラクサはバリク・プラウ界隈で特徴的なテイストなのかもしれない。




 腹ごしらえを終えたところで、ペナンの本丸、ジョージタウンへと向かう。





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by desertjazz | 2012-01-16 12:00 | 旅 - Abroad

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