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 来月3月6日にイギリスでリリース予定の "E. T. Mensah & The Tempos : King of Highlife Anthology" (Retroafric RETRO24CD) 4CD が何故か渋谷の El Sur Records に先行入荷。一昨日26日に購入し、早速4枚のディスク(全69曲、194分)を繰り返し聴いている。

 一昨晩に4枚通し聴きした後には、メンサーの他のレコードも取り出して聴き始めた。気が向いたので、その次いでにダラダラ呑みながら E. T. Mensah のディスクグラフィーも作り始めてみた(随時更新中)。

 この CD セットにはジョン・コリンズ John Collins が執筆した "E. T. Mensah - King of Highlife" に、そのコリンズによる前文を加えた全66ページのブックレットがついている。ジョン・コリンズの著作は先日紹介したが、彼にはもう1冊 "E. T. Mensah, King of Highlife" という本(小冊子)がある。これも長年探しているのだが、どうしても入手できなかった。

 本盤の解説によるとその本は、1974年に行ったメンサーらへのインタビューに基づいて執筆したものの、ガーナ国内では出版社がなかなか見つからず、86年になってやっと Ronnie Graham の Off The Record Press から(イギリスのみで?)限定出版したという。そしてガーナでの出版(Anansesem Press)に至ったのは 1996年7月にメンサーが亡くなった直後だったそう。この本のガーナ版はすでに品切れだとも書かれている。

 しかし、今回リリースされたメンサーの 4CD のライナーはこの "King of Highlife" という本に追記・編集したものだという。これでもうガーナで出た本を探す必要はなくなったことは有り難い。


 さてそのブックレット解説、今日読み始めたら面白くて止まらない。英語は苦手なのに一気に読み通してしまった。

 個人的には興味深いことがたくさん書かれていたので、以下にその概要を整理してみた(ほぼ Tweet からのコピー)。よろしければ、ご参考まで…。




・Emmanuel Tetteh Mensah は 1919年5月31日、アクラの Asere quarter of Ussher Town の生まれ/ガ人 Ga tribe/7人兄弟?、父の妻は2人/父はギタリストで彼らから最初の音楽的影響を受けたと思われる

・兄 Yebuah とともに、教師 Joe Lamptey (Agra) が1924年に結成したスクール・オーケストラに参加、担当はフルート/ストリートを練り歩く

・1932年、スクール・オーケストラは Accra Orchestra に発展/'Gungadin'(P.7)

・1936年、Accra Orchestra → Accra Rhytmic Orchestra

・40年駐留軍人 Jack Leopard の元でバンドが組まれる Leopard and His Black and White Spots

・第二次大戦時で白人との交流が音楽面で与えた影響大/42年頃からトランペットの練習も始めた

・1947年 アクラに戻り Rhythmic Orchestra に(再)加入?/その後 Tempos に、メンサーはサックスを担当/Joe Kelly、Leonard Harriman との出会い、Tempos 結成の経緯(P.11)

・48年に自分の薬局を持つことで経済的に安定し、楽器を購入/近所の少年たちに教え始めたが、その中に Jerry Hansen(後に Ramblers を結成)もいて彼にサックスを教え始める

・初期のドラマー Guy Warren は店で白人と喧嘩となり問題化/48年頃 Warren がイギリスに滞在、それでアフロ・キューバンやカリプソなどの影響が強まった(〜P.15)

・メンサーは40年代末にはステージで喝采を浴びるまでに/50年ナイジェリア・ツアーで Bobby Benson に会う、彼はまだハイライフはやっていなかった

・帰国後バンド分裂/自身が中心に再編、密かに楽器を準備していたためにそれが可能だった/打楽器編成に工夫/52年初録音(5曲?)/ 'King of highlife' 名を拝するようになる

・クラブとの契約で意見が合わず再分裂/53年再編、若手起用、女性シンガーや Zeal Onyia が加入/同年2度目のレコーディング/同じ53年に自身もバンドもプロ化(〜P.20)

・54年またまた分裂/バンド分裂はレバノン人に騙されたから?/メンサー含む4人以外は Rhythm Aces へ(さらに→Rakers→Stargazers)/バンド維持のためにナイジェリア公演を繰り返す

・55年3ヶ月ロンドン、ステージでの客演多数、Ambrose Campbellとも共演/ロンドンでは Decca と HMV で録音。後者のために6曲作曲(P.21-22)

・パリ、マルセイユ、アビジャン経由で帰国/ロンドンの音楽ビジネスに感化され、クラブ経営を思い立つ → 自身のクラブ Paramount

・56年 Satchmo 来訪、空港で All Fo You を演奏して歓迎/コンサートとクラブでの共演は大混乱、映画撮影はどうなった?/問題多発の中(ガーナの聴衆はサッチモのジャズを理解せず)、影響を交わし合う、St. Louis Bluesもレパートリーに(〜P.29)

・ガーナ独立目前、ダンスバンド林立/57年ガーナ独立、彼のクラブ経営に悪影響/独立を祝して Ghana Freedom Highlife を録音、事前に聴いた大統領側からクレーム、すでに英国で1枚プレスし船積み直前だったが名前2人を消して再プレス/大統領に歓迎されたが、その後もガタガタ大問題(このあたりが面白い)

・ナイジェリア公演の連続で経済的に安定 → 53年にプロ化/54年?の第2バンド Star Rockets 結成はガーナ不在を埋める目的だった

・ナイジェリア公演の影響でナイジェリアで初めてダンスバンド・ハイライフのバンドが誕生 → Victor Olayia の Cool Cats、Rex Lawson のシンガー Dan Acquaye は元テンポス、等々影響大/反対にメンサーもヨルバのハイライフをレパートリーに加えることも(〜P.35)

・58年、かつてはハイライフを演奏していなかった Bobby Benson がナイジェリアでライバルに、ライブ中止、経済的に苦しくなり出す

・58/59年西アフリカ・ツアー Grand Tour、階級意識の強いシエラレオネではフロアを二分、価格も別に/ギニアでは脱仏の影響を観察(〜P.42)

・イギリスとフランスによる統治の差について延々語られる、そのために英語圏西アフリカで先に音楽が発達した、ギニアでは白人バンドばかりだった、等々(筆者 John Collins は英系)

・コンゴ音楽を初めてライブで聴いたのは57年/50年末にコンゴ音楽のレコードがガーナに流入、それを初めて演奏したのはダオメー人 Ignace de Souza 率いる Shambros(〜P.45)

・国営バンドが続々誕生し苦境に、国外公演も激減/多くのメンバーがバンドを離れ、第2バンドを解散しそこからメンバー補充/残ったのは息子の Nii-Noi (Chris Mensah) など20歳以下ばかり、音楽の好みが対立、若者たちはハイライフよりコンゴ/メンバーの勝手な振る舞いに対する諦め

・69年渡英、10週の予定が14週に、また金の問題/LP "African Ryhthms" 録音/ロンドンではレゲエも覚えて演奏/帰国後はレゲエやアフロビートも演奏、ガーナで初めてレゲエを演奏したバンドだが、国民はすでにレコードで聴いて知っている(〜P.52)

・後年の問題(P.53から):金で引き抜かれるメンバーを引き止められないバンド・リーダー、音楽家ユニオンの結成と頓挫、Highlifeという名は英語なので Osibisaba?に変更しようという動きが → 当然失敗、新しい音楽への挑戦 → ライブでは聴衆たちから(演奏が間違っているから)レコード通り演奏するよう求められる(ローカル音楽、ハイライフ、コンゴ音楽などではそのようなことはない)/

・80年代には表舞台からほぼ消える/ユニオンの重鎮として活動/78年と82年にレゴスでLP録音/86年Retroafricaによるリイシューの際、UKとアムスでプロモーション&ライブ(知らなかった!)(〜P.60)

・長患いの後、1996年7月19日没(本文中では語られず)




 この解説、内容は音楽分析よりも伝記。詳細で、バンド・パーソネルの変遷も時系列に紹介されている。強調されているのは、ハイライフの父と呼ばれる所以(ナイジェリアでも基礎を築いた)、音楽面でも挑戦者だったこと、苦労の絶えなかったこと。


 肝心の CD の内容紹介はまた改めて。





♪ 追記 ♪

 ブックレットには E. T. メンサーの生涯についてとても詳しく書かれていますが、最も重要なポイントは・・・


 地元に古くからある音楽(フレームドラムなどを使っていた)、19世紀後半から受け継がれてきた(ギター中心の)パームワイン・ミュージック、20世紀初頭に軍楽隊を通じて入ってきたブラスバンド・オーケストラのサウンド、40年代に(駐留軍など)白人たちがもたらした西洋音楽(スウィングやジャズなど)、(主にガイ・ウォーレンによるロンドン仕込みの)アフロ=キューバンやカリプソ、これらをメンサーがブレンドしてダンスバンド・ハイライフを完成させたこと、そしてそのサウンドがガーナやナイジェリアで大人気を博したこと、さらにはガーナだけでなく周辺諸国に同様なハイライフ・バンドの誕生を促し影響を与え続けたことです。だからこそメンサーは「キング・オブ・ハイライフ」と賞賛されたのでしょう。


(2015.03.03)






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by desertjazz | 2015-02-28 21:00 | 音 - Africa

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- 78rpm -

1) Nkebo Baaya / The Donkey Calypso (Decca WA.701)
2) All For You / St. Peter's Calypso (Decca WA.703)
3) Munsuro / Essie Nana (Decca WA.704)
4) Odofo / The John B Calypso (Decca WA.705)
5) Wiadzi / ? (Decca WA. 726)
6) Agriculture / ? (Decca WA. 727)
7) Fomfom / ? (Decca WA. 737)
8) Club Girl / Akpanga "Volture" (Decca WA. 768)
9) The Tree and The Monkey / ? (Decca WA. 805)
10) Sambra / ? (Decca WA. 806)
11) Kwame Nkrumah / ? (Decca WA. 899)


 and more?


- 7inch EP -

1) "Ghana Rhythms" Hweyie / Menye Wo Bowu / Ngele Wae Wae / Auntie B (Decca WAX 101)
2) "Mensah Melodies" unknown 4 tracks ? (Decca WAX 104)
3) "Ghana High Life" Bashia / Novinye / Calabar O / Nyeme Gale Dzio (Decca WAX 106)


 and more?


- 10inch LP -

1) "Decca Presents E. T. Mensah and his Tempo's Band" (Decca WAL 1001, 1952)
2) "Decca Presents E. T. Mensah and his Tempo's Band - No.2 : More Tempos" (Decca WAL 1002, 1956)
3) "A Star of Africa" (Decca WAL 1003, ? )
4) V.A. "Ghana Festival" (Decca WAL 1004, ? )
5) "Tempos on the Beat" (Decca WAL 1009, 1959)
6) "A Saturday Night" (Decca WAL 1013, ? )
7) "Tempos Melodies" (Decca WAL 1022, ? )


 and more?


- 12inch LP -

1) V.A. "Stars of West Africa : High Life Hits!" (Decca WAP 20, 1961)
2) V.A. "Stars of West Africa : High life Hits! Volume 2" (Decca WAP 23, 1963)
3) "Mensah's African Rhythms" (Decca WAPS 27, 1969)
4) "E. T. Mensah" (Decca WAP 283, ? )
5) "E. T. Mensah Back Again" (Afrodisia DWAPS 2013, 1976)
6) E. T. Mensah & Dr. Victor Olaiye "Highlife Souvenir Vol.1 : Highlife Giants of Africa" (PolyGram ROLP 102, 1984)

7) "All For You" (Retroafric RETRO 1, 1986)


 and more?


- CD -

1) "All For You : Classic Highlife Recordings From the 1950's" (Retroafric RETRO1CD, 1990)
2) "Day By Day : Classic Highlife Recordings From the 1950's and 1960's" (Retroafric RETRO3CD, 1991)
3) "All For You : Classic Highlife Recordings From the 1950's" (Retroafric RETRO1XCD, 1998)
4) "E. T. Mensah & The Tempos : King of Highlife Anthology" (Retroafrica RETRO24CD, 2005)

5) V.A. "Giants of Danceband Highlife" (Original Music OMCD001, 1990)
6) V.A. "Telephone Lobi/Telephone Lover" (Original Music OMCD033, 1995)
7) V.A. "Highlife - High Up's : La Musique du Gold Coast des Annees 60" (Original Music NDCD025, 1996)
8) V.A. "Highlife Time Vol.2" (Vampisoul, 2011)


 and more?






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by desertjazz | 2015-02-27 23:00 | 音 - Africa

Dupain 2003

Dupain 2003 (Angouleme, France / June 6, 2003)

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 Dupain の新作 "Sorga" を繰り返し聴き続けている。彼らのライブをまた観たいと思い、昔一度だけ観た時に撮影したステージ写真を眺めたり。

 FESTIVAL MUSIQUE METISSES 最終日(なぜ月曜日)。この日のメインステージは、Dupain、Daara J、Zebda の順で、深夜1時10分終了。

http://www.asahi-net.or.jp/~xx3n-di/02-topi/02061.html


(この時はまだ Dupain も Zebda も知らないに等しかった。だからなのだろう、Dupain のステージ写真はわずかに5枚のみ。安い一眼レフで撮った写真だけれど、ネガをスキャンしておこうと思った。しかし、どうしても上手くいかない。今夜は諦めてプリントからスキャン。)






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by desertjazz | 2015-02-26 21:00 | 音 - Festivals

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 輪島裕介『踊る昭和歌謡―リズムからみる大衆音楽』を読了。

 懐かしい歌曲(主に70年代のもの)が並ぶ中に、前著『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』での演歌に対するのと同様、ほとんど誰もが疑問を持たずに信じ切っていた神話を打ち壊し、新たな視点を提示する面白さがある。途中度々挟まる私事は余計だけれど、それらも笑えて、やや硬い文章の中でアクセントになっている。

 私の保守的な頭に定説が染み込んでいるからなのか、昭和歌謡で踊った経験がないからなのか、個人的には無理ある推論に思える部分も随所にあった。多分、日本の音楽よりも「洋楽」を好んできたことも影響しているのだろう。

 例えば今からドドンパを聴き直したいとも思わないが、この本の中で指摘されている通り、音楽が根元で踊りと結びついていることは確か。なので、音楽と踊りの関係性を世界の音楽に拡張してより深く検証してみることにも意義があるのかも知れない、などとも思った。

 ただ、日本人の脳裏にすりこまれた「演歌」誕生のイメージを打破した分、前著の方がインパクトがあったな。


 (・・・たまには新書も読みます。)






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by desertjazz | 2015-02-25 18:00 | 本 - Readings

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 トマス・ピンチョンの『重力の虹』を読了。読んでいる間に強く感じ続けたのは、ピンチョンという人間がこの巨大な作品を生み出すために集約し、そして解き放った膨大なエネルギーだった。


 「ピンチョン全小説」もいよいよ最終作品。先に書いた通り、昨年末に『逆光』2冊(ピンチョン最長の作品)を2週間ほどで読み終え、続けて『ヴァインランド』に突入したものの思うように進まず、これ1冊に2週間も費やすことに。それでも勢いに乗ってそのまま『重力の虹』までゴールしてしまおうと思ったものの、これがさっぱり進まず。

 ピンチョンを1ヶ月で3冊も読んだ疲れが出たのだろうか。読書していて久し振りに怒りとイライラがピークに。いくら丁寧に読み進めても書いていることがさっぱり頭に入ってこないのだから。ここまでイライラしたのは、カズオイシグロの『充たされざる者』以来かも知れない。

 いや、これは『重力の虹』が彼の他の作品よりも数段難解度が高いからなのだろう(読み終えた今はそう思う)。第一部から全然進まないものだから、何度も途中で放り出したくなってしまった。

 それでも「第二部から読むと読みやすい」という訳者のことばをどこかで目にして、それで第二部に入るまでは頑張ってみることにしたのだった。結局第一部340ページを読み終えるのに実に2ヶ月もかかってしまった(その間他にも何冊もを同時に読んでいたからでもあるのだが)。

 それで結果どうだったかと言うと、確かに第二部〜第三部は(第一部より)分かりやすく、いくらかは楽に読み進む。最後の第四部で再び「何だこれ?」と意味不明な展開が待ち構えているのだけれど、もう最後は勢いでどんどん読めてしまう。休日が多かったことも幸いして、1日ほぼ100ページというペースで駆け抜けた。


 ピンチョンの作品には、歴史、地理(主にアメリカ、ヨーロッパ、アフリカ)、社会、政治、宗教、物理、化学、数学、航空力学、文学、音楽、映画、等々、常人には遠く及ばないレベルの多種多様な知識が組み込まれている。それらの情報の量と深度は想像を絶するまでのものなので(確かに常識はずれに「ものを知り過ぎている」)、彼の作品を完全に理解することは(書いている本人以外には)不可能だろう。正しくこの『重力の虹』こそ、その最たるものだ。しかし、予備知識を持たない文章内容には拘らなくても一向に構わない(し、そうするしかない)。

 内容が多岐に渡り、まるでいくつもの作品を重ね合わせたかのような構造も持ち合わせている分、自然とテキスト量も莫大になる。しかしそれでいてひとつひとつの文章の密度が尋常じゃない。もう信じられないくらいに濃い。濃すぎて辛い。比喩表現だけとっても、これでもか!というくらいに休みなく繰り出してくる。

 それでいて、これだけ書きまくっているのに、文章としては極めて不親切だ。ただでさえ馴染みない言葉が相次ぐというのに、場所や日時や話者を明示するような描写が大胆に省略されている。なので、どの場面での話なのか、文中どの箇所で場所と時間を話者が変わったのか迷うばかり。

 本作の登場人物は何と400人!? それが数百ページも間が空いて誰だったかすっかり忘れた頃に再登場することもしばしば。ひとりひとりをそんなに覚えていられるはずはない。今回特に参ったと思ったのは、ある主要人物が途中で別の名前になっていたこと(P.612)。後で読み直して、やっとそのことに気がついたのだった。そんな具合にさりげない一文が後で意味をなしてくるので、一行たりとも気を抜けないとも言える。が、それにも限界がある。

 途中で思ったのだが、ピンチョンは読者に理解してもらおうという考えなどハナから放棄しているのではないだろうか? ピンチョンはレーモン・ルセールにように大金持ちなので、道楽として自分のためにだけ書いているのではないかといった疑念さえ浮かんできた。

「解説」を読んでなるほどと思ったが、あまりに多くの内容を入れ籠み過ぎたがために収拾つかなくなって放り出した感もある。

 そうした特質を持っているが故に、この作品は容易な読解を拒否するかのようである一方で、神話的であり、長い詩を読んでいるようでもある。それが『重力の虹』が醸し出している魅力の一端ではないかと感じた。

 <かれら>とは?<ホワイト・ヴィジテーション>とは? そのような謎解きを楽しむ小説でもあった。ただ、今回もいくつかの謎は解消しなかったのだが。

 ピンチョンの長い小説は毎作そうなのだが、読み終えた瞬間に全体像や伝えたかったメッセージがほんわりと見えてくる(それは勝手な解釈なのかもしれないが、読書は自由なのでそれでいい)。それが読後の心地よさとなっている。それで、もう一度読み返したくなるだろうか?(「3回読めば理解できる」らしいのだが…。)

 改めて<かれら>とは?と問うと、第二次世界大戦の背後で経済原理に基づいて蠢いていたもの、ピンチョンが真に危惧したものが浮かび上がってくる。またそれは、今現在、日本で軍需産業、武器輸出をなりふり構わず拡大させようとする動きへの警告、予言としても響いてくる。だとすると、ピンチョンは理解されることを放棄しているのではなく、理解されることを求めているのだ。


 ・・・ただ、これほどまでのエログロの連発振りは辛かったな。理解不能。


  それにしても、30代半ばにしてこんなトンでもない作品を書き上げたってのは、やっぱり凄すぎる!




 思うに『重力の虹』の大きな魅力は百科事典並の情報の組合せにあるのだろう。それも平面的/ウェブ的というよりか、立体的に。

 レベルは違うものの、ピンチョン的に博学な小説として思い浮かぶのは、高野和明の『ジェノサイド』。アフリカを舞台にした小説はついつい買ってしまうので、この作品も出版されてすぐ一気に読んだ。最初の方はとても面白い。でも、著者自身の持つ知識や調べたことをプロット上都合良く並べただけなことに気がついて段々飽きてきてしまった。援用されている科学も非科学的だし。どうせ書くならば、伊藤計劃くらいにぶっ飛んだ切迫感も欲しかった。

 何が言いたいかというと、『ジェノサイド』は単線的だということ。情報が一直線に並んでいるだけで、深みに欠ける(そして、読む前にエンディングが分かってしまうというのも大きな欠点。昔、横山秀夫の『半落ち』のエンドに全く落ちなかったことを覚えているけれど、『ジェノサイド』の誰もが分かってしまうエンドには身体がずり落ちた)。

 そんな『ジェノサイド』が「このミス1位」なったことになるほどと思った。要するに「分かりやすい」作品ほど受けるし、最大公約数的な評価を得るということなのだろう(最近だと同じく「このミス1位」のピエール・ルメートルの複線的な『アレックス』にも似た傾向がある。友人のひとりも書いていたが、暇つぶしにしかならなかった)。それは例えば音楽についても同様だろう。賞やランキングの類は所詮は最大公約数的な評価になりがちなのだから仕方ない。なので、個人的にはグラミー賞などにも昔から全く興味がない。

 話が脱線してしまったが、『重力の虹』はプロットが単線的でない。全く反対で、その小説の中の化学描写と呼応するかのように、分子的な立体構造を持っている。そんな複雑を堪能できることがピンチョン小説に共通する大きな魅力となっていると思う。

 読書に分かりやすさを求めるのであれば、ピンチョンは真っ先に避けるべきだろう。反対に知識と情報の密林の中に入り込んでイメージを膨らませることを喜びとする読者なら、ピンチョンの作品群にも大いに惹かれることだろう。ただし万人向けとは思わないけれど…。




 これにて「トマス・ピンチョン全小説」を完読。

 トマス・ピンチョンの小説は歴史ものとポップなものとの振れ幅がある程度ある。それら2タイプに無理矢理分けてみたら(ホント無理矢理勝手だけれど)、ほぼ交互に書いていることに気がついた。これって、村上春樹が長編出したり短編集出したりを繰り返しているのに似ている??


・『V.』 V. (1963年):歴史小説
・『競売ナンバー49の叫び』 The Crying of Lot 49 (1966年):ポップ
・『重力の虹』 Gravity's Rainbow (1973年):歴史小説
・『スロー・ラーナー』 Slow Learner-Early Stories (1984年):短編集
・『ヴァインランド』 Vineland (1990年):ポップな歴史もの
・『メイスン&ディクスン』 Mason & Dixon (1997年):歴史小説
・『逆光』 Against the Day (2006年):ポップ(やや歴史的)
・『LAヴァイス』 Inherent Vice (2009年):ポップ


 ピンチョンを読んでみたいけれど長い作品を読み切る自信のない、そんな方にはまずポップな作品から入ることをお薦めしたい(どの作品とも、アメリカ歴史上の細かな事実や、ネイティブなアメリカ人でないと分からないような言い回しやジョークも多いのだが、ポップ作の方がそうした部分に頭を痛める負担が幾分か薄いのではないかと思う)。

 個人的感想として、

 ・一番読みやすかったのは『LAヴァイス』
 ・最高作を選ぶなら『重力の虹』
 ・一番好きなのは『メイスン&ディクスン』

 ・・・と思います。





(もうちょっとじっくり書いてみたい気分でもあるけれど、『重力の虹』巻末の「解説」が大変充実しているので、素人による長い感想は不要だろうし、読みたい本が増えるばかりなのでザックリと。今はガルシア=マルケス全集に戻っていて、これが面白くて溜まらない! 『逆光』と『ヴァインランド』も読後に感想をメモしたものの、殴り書き状態なのでさすがに公開不可。)






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by desertjazz | 2015-02-24 00:00 | 本 - Readings

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 デュパン Dupian 10年振りの新作 "Sorga" が凄い!!!

 大傑作 "Les Vivants" (2005) 以来の3作目("L'usina" のリミックス盤も含めると4枚目)。

 フランスでは 3/16 リリース予定が、2/21 に渋谷 El Sur Records に奇跡?の先行入荷。そして即(即日?)完売!

 Dupain の大ファンを自認する自分も運良く手に入れて、今繰り返し聴いている。

 Sam Karpeinia の激情ヴォイスとマンドーラは相変らず強力。前作で通奏音のように響いていたヴィエル・ア・ル vielle à roue(ハーディーガーディー)は控え目。なので、"Sam Karpienia" トリオのサウンドをベースにした新生 Dupain といった印象も。ドラムが(もうひとりの)Sam から Francois Rossi に変わった影響も感じる。

 トラックが進むに従ってサウンドは過激に。11曲目などは、イタリアの Mascarimini 風なプログレ感もあり。これはライブで聴いたら気絶しそう!

 うーん、早くライブが観たい! Dupain のステージはもう12年も観ていない。まだ発表になっていないが、新作発表ライブは 4/14 にパリで行う予定と聞いた。4月にパリに飛んでいくか、また迷い始めてしまう。

 2009年10月に台北で Sam に会った時「Dupain は再結成しないの?」と質問したら「みんなに訊かれるんだけれどね(でもやる気はない…)」とはぐらかされた。

 でも10年待ってて良かったよ。このサウンドをずっと待っていたんだ!







 以上、速報ということで。後日、冷静に書き直します(この記事も消す予定)。

 今夜は、トマス・ピンチョンの「読書メモ」も書いているところ。間もなく(24時頃に)アップできると思います。






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by desertjazz | 2015-02-23 21:30 | 音 - Music

John Collins "Highlife Time"

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 今年3月に興味深いハイライフのリイシューがいくつか控えている。そのタイミングに合わせて、ハイライフ関連の文献を読み直してみようという気になり、まずはジョン・コリンズの "Highlife Time" からじっくり読み始めた。

・John Collins "Highlife Time" (Anansesem Publications, 1994)


 ジョン・コリンズはガーナ在住のミュージシャン/音楽研究家で(白人)、かつては Bokoor Studio の経営も行っていた。フェラ・クティとも親交が厚く、一緒に映画制作に取り組んだこともあったほど。

 彼のハイライフ・レコード(大量のSPを含む)のコレクションは恐らく世界一。そして、自分の知る限りでは、この "Highlife Time" がハイライフという音楽について最も詳しい文献である。イントロダクションでは 'concert party'(ミンストレルなどに影響を受けてチャンプリン風に白黒に顔を塗った演者による出し物もあったという)をひとつの軸に、それがハイライフに与えた影響/歴史的関係について語られている。約300ページの本で、ここまで詳しく知る必要もあるかと迷うところなのだが、まあ頑張って読み通してみたい。

(残念ならがこの本はコピーしか持っていない。ガーナ国内でのみ出版されたらしく、アメリカなどのサイトを検索してもどうしても見つけられない。そこで10年以上昔に、ジョン・コリンズ本人にコンタクトを取って購入したい旨を伝えたものの時遅し、すでに入手不可ということだった。どうにかして手に入れたい書物ではあるのだが…。)


 ジョン・コリンズの著書のうち以下の2冊はどちらもアメリカで出版されたものなので、今でも割合容易に入手できる。

・John Collins "Musicmakers of West Africa" (Three Continents Press, 1985)
・John Collins "West African Pop Roots" (Temple University Press, 1992)

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 ジョン・コリンズに関しては、以下も改めて読んでおきたい。

・ジョン・コリンズ「西アフリカのポピュラー音楽 ハイライフ、パームワイン・ミュージックの歴史」(『季刊ノイズ 1』P.131〜15)・・・ハイライフに関してはこれで十分と言えるほどの基礎資料

・深沢美樹+中村とうよう「再考・パームワイン〜ハイライフの展開 ージョン・コリンズ提供の音資料を分析する」(『季刊ノイズ 8』P.109〜124)

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 ガーナのハイライフに関してはこんな本も買ったけれど、大量に掲載されたレコード・ジャケットを眺めただけで全然読めていない。

・Florent Mazzoleni + Kwesi Owusu "Ghana Highlife Music" (Le Castor Astral, 2012)

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(以上、ざっと個人メモも兼ねて。)






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by desertjazz | 2015-02-23 00:00 | 本 - Readings

M.anifest & Obrafour from Ghana

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 ガーナ出身のラッパー、マニフェストのアルバム2枚を繰り返し聴いている。

m.anifest
wiki | M.anifest
The sound of Africa in 2015


 第3作 "Immigrant Chronicles: Coming to America" (2011) の方は、特段耳に残るトラックは少ないかな。後半の何曲かは気に入ったけれど。

 やっぱり第4作 "Apae: The Price of Free EP" (2013) の方がいい(「アパイ」と発音するらしい)。"Someway Bi" や "Mind Games" などキャッチーでコンテンポラリーなグッド・トラックが揃っている。

 その中で突出した出来なのが "No Shortcut to Heaven (feat. Obrafour)"。正しくキラー・チューンで、もう涙が溢れそうになるくらいに美しい。「今年の1曲」はもうこれで決定かも?

 先日も取り上げたけれど、この曲のビデオ・クリップが実にいいんだよな。毎晩繰り返し観ているので、一体これまで何回観たことか。多分ダンスをリードしているのだと思う女性ダンサーの身のこなしがとても魅力的。ハイスピード・カメラを多用した撮影と編集も効果的で計算し尽している。

M.anifest - No Shortcut to Heaven ft. Obrafour (Official Video)

 このトラックはガーナのヒップ・ライフ・シンガー Obrafour との共演で、このコンビによる "Odasani" も気に入っている。ビデオもあって、クレーン・ショットなんかは贅沢な使い方。このコンビ、今後も要チェック!

Obrafour - Odasani ft. M.anifest (Official Video)

 調べてみると、マニフェストはガーナのアクラとミネアポリスを往復する生活をしており、南アのヒップホップとも関係を持っているらしい。ガーナ以外にアメリカなどにも拠点を置いてネットワークを構築し、資金面でも豊かな分、従来のアフリカものビデオより遥かにクオリティー高い作品を造れる環境にあるのだろう。

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 今夜?ガーナではマニフェスト主催の Madina Block Party なるイベントも行われるらしい。うーん、ガーナが俄然気になり出した。

Madina Block Party Hosted by M.anifest. 1st Edition


(マニフェストの代表曲はどれも YouTube で聴けるので、ほとんどの人はそれで十分だと思います。)




 ガーナと言えば、最近キング・アイソバ King Ayisoba が日本で評価され、人気もあるようだ。彼は3月にフランス公演が4カ所で予定されていて、うち 3/7 の Le Blanc-Mesnil は Sally Nyolo と共演。

 マニフェストが来日することなんて考えられないけれど、キング・アイソバならいつか日本でも観られるかも?(特段根拠なし。)






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by desertjazz | 2015-02-22 00:00 | 音 - Africa

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 プリンスのビデオ "Sing o' the Times" が Blu-ray で再リリースされないだろうかとずっと考え続けていた。ところが、そのリマスター版がとっくに(昨年)発売されていたことを最近になって知った。雑誌を読んだり、ネットで新作チェックしたり全然しないので、全く気がつかないでいた次第。

 と言うことで、遅ればせながら早速購入して繰り返し鑑賞。まずはオープニングでリズムボックスのビートが鳴り始める瞬間、「カッコいい〜」と思わず小声で叫ぶ。もう何十回も観ているのに。その後もプリンスがキメル瞬間の度に「カッコいいなぁ〜」と何度も口をついてしまう。正に傑作!

 個人的には、プリンスの作品は "Sign o' the Times" (CD とビデオ)と "Lovesexy" だけあれば十分です(実際この2作しか聴かない)。




 でもよく見るとどこか不自然。プリンスの歌とリップとがシンクしていなし、ギターやドラムも度々ずれているし、カットごとのトーンも違いすぎる。一番ビックリしたのは、シーラEがドラムキットから降りてきたときピンヒールを履いていたこと! あり得ないでしょ!

 この作品はコンサートを収録した映像と音声に最低限度必要な素材をインサートしたものだとずっと思っていた。しかし、ほぼ全面的に疑似ライブ形式で素材収録したもののよう。昔 VHS で観ていたときには、ボケたトーンのせいもあって不完全な部分は大して気にならなかったが、高精度な Blu-ray だと粗な部分や細かい点に意識が行くようになってしまうのだろうか。

 それでも、何度観てもまるでプリンスのライブを実体験している気分にさせられるのだから、やっぱりこの作品は傑作だ!

(余談だけど、一度だけ直に観たプリンスのライブは、メンバーたちの踊りの振り付けがきっちり揃っていて、まるで学芸会を観ている気分になってしまった。)


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(残念なのは、不要な/価値ゼロなおまけがたくさんついてくること。ディスクだけで十分!)





 思いつきで、自分の好きな音楽ビデオを10本選んでみた。どれも内容は申し分ないが、それよりとにかく観た回数の多いものを並べてみた。

・ Talking Heads "Stop Making Sense"
・ Prince "Sign o' the Times"
・ U2 "Zoo TV, Live From Sydney"
・ Pete Townshend "White City Live"
・ Bruce Springsteen with the Sessions Band "Live In Dublin"
・ Caetano Veloso "Un Caballero de Fina Estampa"
・ Zebda "Live"
・ Rokia Traore "Live"
・ Frank Zappa "Does Humor Belong in Music?"
・ Rolling Stones "Let's Spend The Night Together"


 やっぱりロックのライブ・ビデオが多いな。ジャック・ブレルのパリ、オリンピアでのライブなども飽きるほど(いや決して飽きていない)観た。FZ かストーンズと入れ替えてもいいくらい。

("Stop Making Sense" も冒頭のナンバーのリップシンクが思いっきりズレている。Blu-ray では補正されているかと思って買ったのだけれど、なぜか再生してくれない。リージョンは合っているはずなんだけれど…。)






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by desertjazz | 2015-02-21 16:00 | 音 - Music

St. Vincent in Tokyo

 今夜のセイント・ヴィンセント St. Vincent(渋谷クアトロ)最高だった!

 前売りチケット完売で超満員の中、彼女の正面かぶりつきになってフロアで踊りながら聴いていたら、このところのモヤモヤが全部吹き飛んだ!

 チョー可愛いお姫様人形ロボットが動き出して爆裂ギターかき鳴らすって感じ。歌も良かったけれど、何よりギター中心の爆音に大興奮! 

 5曲目くらいまでは歌いながらのギターは硬かった。けれど、完全ソロになるともう完璧快感。やっぱりいいギタリストです。何てったってギターのトーンがいいんだよな。アンコールでは客席にダイブ状態で弾きまくって大盛り上がり。楽しかった!

(クアトロにはコンソール持ち込みでライトマンもツアー帯同だったそう。サウンドも照明もその効果がたっぷり出ていた。)


 先日のフアナ・モリーナ(2/5 恵比寿リキッドルーム)も思いっきり楽しかったけれど、今夜はホント最高すぎ! 余計なこと書かずにただ余韻に浸ることにします。




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 またしばらくヘビロテになりそう…。






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by desertjazz | 2015-02-20 22:22 | 音 - Music

DJ