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 鳥海基樹『マルセイユ・ユーロメディテラネ:文化化と享楽の衰退港湾都市再生』(美学出版、2022)読了。陣野俊史『ジダン研究』(カンゼン、2023)で参考文献に挙げられているのを目にして即座に購入し、この年末年始貪るように読んだ。

 南仏マルセイユの近年の都市再開発について詳述した専門書/研究書であり、またかなり厚い本でもあるので、一般人向けの読み物とは言い難い。しかし私はここ約30年の間、ほぼ3〜4年おきに都合8回マルセイユを訪れていることもあって、とても興味深く読んだ(テキスト量も膨大だが、写真や地図、図表もふんだんに掲載されているので、サクサク読み進む)。

 近年マルセイユは「欧州地中海派遣都市建設構想(ユーロメディテラネ)」を掲げて、再開発を大規模に押し進めてきた。旧港南部の商業施設の整備、Fiesta des Suds(南のフェスティバル)の開始、そのフェスの Le Dock から J4 への移転、ショッピングセンター横の地下遺跡の展示、欧州文化都市に選出(2013年)、中央駅(サン=シャルル駅)の整備(その前の巨大な石段の浄化)、駅に隣接するバスターミナルの建設、駅周辺のホテル建設(東横インも!)、マグレブや貧民層が多く暮らすベルザンス地区の再開発、エクス門周辺の整備(高速道路のルート変更)、トラムの整備とそのルート延伸、新港の大規模開発、旧港の観光開発(当初評判の悪かった巨大ミラーの日除け)、欧州地中海文明博物館(MuCEM)と空中回廊と地中海ヴィラの建設(前の2つは美しい建築だがヴィラは醜悪)、等々。この本の中で語られる様子は随時目撃してきたので、ある意味、定点観測してきた立場からマルセイユの近年の歩みを振り返ることができた。

 丘の頂に建つノートルダム・ドゥ・ラ・ガルド寺院がマルセイユのシンボルとして有名であるのに対して、港の脇にある巨大な大聖堂を気にすることが長年なかった。それがここ最近はマルセイユに行く度に目にとまって、それで自然と足を運ぶようになっている。このようにマルセイユ大聖堂が前景化したのには、その足元に「マジョールのヴォールト」なる広大なブティック街が出来たからで、これもユーロメディテラネがもたらしたものだったのだ(私がこの周辺を歩き回るのには Fiesta des Suds の会場とアーティストが宿泊するホテルが近いこともあるが)。

 そうした近年の大規模開発は、欧州文化都市(2013年の1年限りだが。この時テーマソングを歌った Gari Greu に Fiesta des Suds でインタビューしたことが懐かしい)の役割を果たすべく、マルセイユ自らが積極的に動いて実現させたものだと思っていた。しかし、実際は中央政府の力で動いた部分が多く、そのことが意外だった。マルセイユは長年右派と左派の対立が続き、互いの足のひっぱり合いが繰り返され、何も決められない/何も進められない「マルセイユ病」に陥っているという。マルセイユをそのような状態から救うには、外圧がどうしても必要だったということか。

 マルセイユを訪れても、距離的に近いプロバンスの周辺自治体の情報に触れることがほとんどない。例えばエクス=アン=プロヴァンスとも連携関係が全く感じられず不思議に思っていたのだが、それも実際その通りであることを今回知った。同じフランス南部同志で手を繋いで発展するよりも、互いを競争相手と見做し分断と対立が顕在化していたようだ。

 ここ20〜30年のマルセイユの文化面とスポーツ面を象徴するのは、ヒップホップとジダンだろう。この本ではジダンや Massilia Sound System(特に Tatou)をマルセイユの重要なアイコンとして描いている点も読みどころだ。

 繰り返し読んでいる深沢克己『マルセイユの都市空間 幻想と実存のあいだで』(刀水書房、2017)が、紀元前まで遡って語られるマッサリア〜マルセイユの通史であるのに対して、この本は濃密限りない現代史であり、両者を合わせて読むことでマルセイユへの理解が深まる。

 街の見た目は少しずつ綺麗になり、治安も改善してきた一方で、「マルセイユ病」に象徴されるように問題も山積。しかし、私はこの街が恋しくて仕方ない。残念なことに、ベルザンスや旧港エリアにあったお気に入りのクスクス・レストランも、同じくベルザンスに並んでいたカセット/CDショップも全てなくなってしまった。それでも『マルセイユ・ユーロメディテラネ』を読んだがために、無性にまたこの街に戻りたくなっている。







# by desertjazz | 2024-03-30 17:03 | 本 - Readings

読書メモ:パオロ・ジョルダーノ『タスマニア』_d0010432_16053887.jpg


 素晴らしいデビュー長編『素数たちの孤独』ですっかりハマってしまったイタリアの小説家、パオロ・ジョルダーノの新作『タスマニア』を読了。

 今回のテーマは原爆? 気候変動? そのようなことは予想していなかったのだが、物理学者らしく、興味深い科学情報が随所に折り込まれ、ストーリーの中で微妙に結びついていく面白さがあって、今回も楽しませてもらった。

 舞台はフランスやイタリア、カリブ、さらには日本へと行ったり来たり。やたらと地名、通り名、店名、ホテル名、料理名などが出てくるので(まるでウエルベックの小説みたいだ?)、その度にネット検索/Google Map 検索。そのためか、次第に旅行日誌を読んでいるような気分にもなってくる。いつもと比べて何かおかしいと感じていたら、最後にネタ明かし。やはりそうだったのか(ネタバレになるのでこれ以上は書かない)。ただし、その分だけ小説としての味が削がれているようにも思うのだが。

 そのような作品なので、『素数たちの孤独』や『天に焦がれて』のような、ある種の切なさのようなものを求めて読むと、その期待は裏切られるかもしれない。

 この作品は著者の新たな挑戦であり、世界的なパンデミックの中で『コロナの時代の僕ら』を著した影響も大きく作用していることだろう。また著者自身が心の避難場所を求めているようにも感じられた(しかしどうしてタスマニア?)。

 全体的に不要と思われる細かな記述が散見され、また最終章は弱いとも感じた。しかしそれらは彼の挑戦の結果であり、また著者の真摯さと生真面目さの表れでもあるのだろう。


(全くの偶然なのだが、オーストラリアでタスマニアのワインを堪能して帰国し、友人がタスマニアを旅行中(トレッキング中)に、この小説を読み終えた。)




 余談になるが、パオロ・ジョルダーノの出身地トリノには昔、1996年に一度だけ滞在したことがある。憶えているのは、雪をいただいたアルプスの美しい眺めと、薄焼きのピザが美味かったことと、あるレストランのこと。

 美味い店がどこにあるかはドライバーに訊けという格言の通り、土地勘のないトリノでも乗ったタクシーで「美味いレストランは?」と訊ねた。紳士風のそのドライバーが薦める店に予約を入れ開店時刻に行くと、入り口付近のテーブルに全く同じ赤ワインが50本ほど並べられ、しかも全て栓が抜かれている。それだけ店が自信を持っているワインということなのだろう。実際、その後にやってきた客は誰もがそのワインを飲んでいたし、迷わずそのワインを選んだ私たちも本当に美味しいと感じた。もちろん料理も抜群に美味しかった。ドライバー氏に感謝!

 レストランの名前は La Capannina、ワインの銘柄は Dolcetto D'alba。ネット検索すると公式サイトがすぐに見つかった。この店は今も続いているようだ。







# by desertjazz | 2024-03-30 17:02 | 本 - Readings

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 先月、作業の間に蔵書を整理していたら、細野晴臣+北中正和『細野晴臣インタビュー THE ENDLESS TALKING』が出てきた。買った記憶がなく、読んでもいないはずと思いながらページを捲り始めたら面白くって、オーストラリア旅行中にずっと読んでいた。

 それで、その後に出た、細野晴臣+鈴木惣一朗『分福茶釜』と『とまっていた時計がまたうごきはじめた』も図書館で借りてきて一気読み。『分福茶釜』はまだ次への準備段階といった半端さだが、続編の『とまっていた時計がまたうごきはじめた』では、『THE ENDLESS TALKING』と同じくらいに語り合いが深まっている。

 これまで細野さんと仕事をしてきた人たちから話を聞いて受けた印象は「気難しい人」。でも、これらのインタビューを読むと、細野さんはとてもフランクで正直な人であることが伝わってきた。どうやら誤解していたようだ。そして、自分も老いて語る当時の細野さんに近い歳になったからか、読んでいて納得し共感するところが多かった。余生は細野さんのように自然体に飄々と生きていきたいなとも思うのだが、自分には無理かな?

 またまた「嘘でしょ!」と言われそうだが、実は私は細野さんの音楽をほとんど聴いたことことがない。持っているのは『泰安洋行』のCD1枚だけ。はっぴいえんどもYMOもアルバム1枚通して聴いたことがない。YMOは3枚目以降は1曲も知らないし。それなのに3冊一気に読み終えてしまった。それは話題が音楽に留まらないからでもあるのだろう。いや、細野さんの語る内容が深いからなのか、それとも聞き手が巧みだからなのか。

 この機会に彼の音楽を聴いてみようかとも思ったのだが、最近は『THE ENDLESS TALKING』でしばしば語られるるロード・ソーンヒル Claude Thornhill ばかり聴いている。まだ諸々の疲れが取れないので、今はこれくらい柔らかな音の方がいい。

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 思い出したのだが、細野さんのスタジオにはかなり昔に一度お邪魔したことがある。ということはご本人にもお会いしているはずなのだが、よく憶えていない。録音ブースがとても狭かったことと、世界中から集めたらしきものが隙間を埋め尽くすように飾られていたことを記憶しているのだが。あれはどんな仕事で伺ったのか、うーん全く思い出せない。

 ところで、『THE ENDLESS TALKING』を読んで、長年調べていることに関して重要なヒントが得られた。そのことについて自分も細野さんにインタビューして、もっと詳しい話を伺えないかなぁ〜?

(勢いに乗って、今、鈴木惣一朗『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音をつくってきた』を読んでいる。これも面白い。)

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# by desertjazz | 2024-03-30 17:01 | 本 - Readings

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 レミ・ガリオクウの画集 "Lemi Ghariokwu - The King of Covers / Afro Art Beats: A Selection of 30 Record Sleeves" (Africadelic, 2023) をようやく入手した。

 これは昨年(2023年)11月にオランダのアムステルダムで開催されたレミの個展のカタログで、彼の代表作30点とそれらが描かれた背景についての解説が掲載されている。

 ナイジェリアの画家レミ・ガリオクウといえば、なんと言っても Fela Kuti のアルバム26枚のカバー・アートが有名だが、ここに掲載されている中では、Tony Allen、Bunzu Soundz、BasaBasa Soundz などもよく知られているだろう。ページをめくっていて、Seun Anikulapo Kuti & Egypt 80 "From Africa with Fury: Rise" (2011) や Antibalas "Talktif" (2002) のジャケットも彼の作品であることに気がついた。

 この画集の選からは漏れているが、Eedris Abdulkareem の大ヒット作 "Jaga Jaga" (2004) のカバーも彼によるものだし、最近だと Falz "Moral Instruction" (2019) も彼の作品だ。

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 個人的にもレミとはささやかな縁がある。Akoya AfroBeat の "P.D.P. (President Dey Pass)" (2007) と "Under The Tree" (2016) のジャケット画もレミの作品なのだが、Akoya のメンバーたちが私がレミ・ガリオクウについてネットに書いているのを読んで思いついて、ダメ元でレミに依頼してみたら快諾されたのだそう(ジャケ画制作の面白い裏話も伺った)。

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 さてこの画集、オリジナルのナイジェリア盤のジャケットと比較すると印刷が物足りない。それでもレミによる序文だけでも興味深いことが綴られている(これは 2013年に書かれた文章 "A Dynasty of Album Cover Art" の引用で、今でも Granta Magazine のネットで読める。)

 250部限定とのことだが、オランダでも日本国内でもまだ若干数流通しているので、興味のある方はお早めにどうぞ。






# by desertjazz | 2024-03-29 21:00 | 美 - Art/Museum

WOMADelaide 2024

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 3月8〜11日にオーストラリアのアデレードで開催されたウォーマッド WOMAD を観てきた。ウォーマッドに行くのは 2007年のシンガポール以来、実に17年振り。久しぶりに訪れたオーストラリアで、この大型フェス4日間をたっぷり楽しんできた。


 今回アデレード行きを決めたのは、バーバ・マール Baaba Maal、ニッティン・ソーニー Nitin Sawhney、アルージ・アフタブ Arooj Aftab のライブを観たいと考えたから。アデレードはオーストラリア最高のワインの産地であり、料理が美味しいことでも知られている。なので、いつかアデレードを訪れてみたいと以前より考えていた。ただ自分の音楽趣味からすると、これまで参加したフェスに比較すると今回はアフリカ系アーティストが少ないとは感じたのだけれど。

 ところが、最終段階でセウン・クティ Seun Kuti が追加発表に。さらには、お目当てにしていたニッティン・ソーニーが開催直前に病気でキャンセルになったのだが、その代役になんとアンジェリーク・キジョー Angélique Kidjo が出ることになった(今アデレードはフェスティバル・シーズンで、彼女は Adelaide Festival という別のフェスの3月12日に出演するために来豪予定だった。そこで急遽声がかかったのだろう)。

 アデレードは狭い方形のエリア(Adelaide Central Business District : CBD)にオフィスビルやマーケットが集中している一方、その外側はぐるりと緑に包まれており、とても緑豊かな街だ。道は広く車は少なく、散歩していても、ここは住みやすいところだろうと感じた。CBD の北側には動物園と植物園があり、WOMAD はその中心ゾーンでで行われるので、まさに森の中のフェスという印象だった。

 会場はメインの Foundation Stage を挟んで Stage 2 と Stage 3 が並び、これら3ステージは主要アーティストのプログラムを中心に組まれている。それ以外にも幾分小規模のステージが4つ設営され、さらにはパフォーマンスやアマチュア・バンド?のためのステージなどもあった。苗場のフジロックよりは移動のストレスが少なく、導線が歩きやすく配慮されているように感じたのだが、それでも大きな3つのステージ以外を巡るのは難しかった。

 それにしても暑かった。連日最高気温40度の猛暑。3月の気温としては過去最高を記録したのだそう。無理して多くのステージを巡ると体力が持たないと判断したことも、主要3ステージを中心に観た理由の一つである。湿度が低いので蒸し暑さはないものの、乾いた熱風が吹き付ける。なるべく直射日光を避けて、水分をたっぷり補給し、体力の消耗を防ぐことが必須だった。
(ブルース・スプリングスティーンを観るために 2017年にシドニーに来た時も気温40度、2018年に旅したジョージアのトビリシでも40度、その直前のドーハでも40度を遥かに超えていた。最近の海外渡航では40度超えのジンクスが続いているみたいだ。)

 暑さ対策として、会場のあちこちにミストシャワーが設置されており、また給水ポイントも各所に用意されていて、事前にマイボトルの持参を呼びかけていた。持ってきた霧吹きで仕切りに周囲に水を吹きかける姿が多く見られたことも印象的だった。こうした水も給水ポイントで補給していたのだろう。(ちなみに、トイレの数も十分で、男女ともに待つことはなかった。)

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 WOMAD はあくまで音楽フェスであって音楽を楽しむ場なので、特別すごい出会いや発見があるわけではない。実際、フェスに合わせて盛り上がる構成にしているアーティストが多いと感じた。また、昔から聴き馴染んでいるアーティストよりも、初めて音を聴く/名を聞くアーティストたちを堪能できることもフェスの醍醐味だ。今回も The Budos Band、Dubioza Kolektiv、Cymande、Black Jesus Experience といった初めて聴くバンドのノリの良いサウンドが一番楽しめた。

 この WOMAD ではオーディエンスの年齢層が高いこと意外でもあった。観客の大半が、50代、60代だったのではないだろうか。フジロックと同様に、親子連れも目立ったのだが。数多いボランティア・スタッフも同様で、高齢に見える人が多い。これはフェスが長年続いていることの表れなのか、それとも若者たちの音楽(ワールドミュージック)離れなのか、それとももっと別の理由があるのかと、少々考えさせられた。

 後で触れる通り、国際情勢を反映したステージが多いなど、あれこれ考えさせられもしたが、開放的空間に響き渡る音楽を堪能できたことが何よりだった。普段は自宅の中で音を抑えて音楽を聴いているが、たまには外に出てリミッターのかかっていない音楽を大音量で聴くことも快感だなぁ。

(今回は取材でも仕事でもないので、写真は全て SONY のコンパクトカメラ RX100 M5 で撮った、最小限のメモのようなスナップのみ。いや、この過酷な暑さでは、重いカメラを持っていたら荷物になっただけだろう。目の前のステージを自分の眼でしっかり楽しみたいので、動画もひとつも撮らなかった。)


Day 1 : March 8 (Friday)

 事前にリストバンドを受け取るために、Box Office が開く11時にホテルを出発して会場へ。途中の道は緑が深くて気持ちいい。4日通し券を買ったので、リストバンドを4本渡されるのかと思ったら、1本を4日間つけっぱなしにしてくださいとのことだった。ちなみに4日券は早割使って約440オーストラリアドル(日本円で 44000円ほど)だった。

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 今回アデレードで宿泊したのは、会場まで最も近いホテルのひとつの Majestic Roof Garden Hotel(早めに予約したものの1泊約3万円したが、円安の今はこれが最低ライン)。会場までは約1kmで、歩いて10数分の距離。評判通りとても過ごしやすいホテルだったし、モールのすぐそばなのでビールやワイン、食料といった買い物をしやすかったことも好都合だった。
(福野のスキヤキでも、アングレームの Musiques Métisses でも、マルセイユの Fiesta des Suds でも、毎度会場に最も近いホテルに泊まるようにしている。疲れた時や、観たいアーティストが出ない時間帯に、戻って休めるので。今回もそうした条件で探して、いいホテルを見つけられた)。

 一旦ホテルに戻り、昼食後しばらく休んだ後、17時過ぎに会場へ戻る(初日は 16時開場)。入場ゲートの前では、パレスチナ支援活動をしているらしき人たちが、今回の大トリであるジギー・マリー Ziggy Marley のライブをボイコットするよう呼びかけていた。ジギー・マリーはなぜイスラエルを支持しているのだろう?(気になりながらも、まだ調べていない。)

 以下は、4日間で観たライブについての短い感想。


DAKHABRAKHA

 今年の実質的オープニングはウクライナの4人組。ウクライナのグループを最初に持ってきたのには、現在の国際情勢を意識したこともあるのかもしれない。女性3人のコーラスは美しいし、興味深い音楽をやっているとは思うものの、「ロシアはテロリスト国家」といった字幕がスクリーンに流れ続けながら、重苦しい音を響かせるのは、フェスのオープニングとしてどうなのかという疑問は浮かんだ。

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PONGO

 クドゥロやレゲトンをレパートリーとするアンゴラの女性シンガー。コンゴのエッセンスも加味したダンサブルなパフォーマンスで魅了したが、しっとりと歌った時により魅力を感じた。特に、まだレコーディングしていないという新曲 “Mandela” の南ア風サウンドとシルキーなヴォイシングが良かった。ラストはアマピアノとクドゥロをミックスした「アマドロ」とのこと。

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DUBIOZA KOLEKTIV

 ボスニア・ヘルツェゴビナで結成された、超元気なバルカン7人組。ノンストップで繰り出されるスカ、パンク、レゲラガのミックスは、全盛期の Zebda を連想させる弾けぶり。小道具を使ったステージングの巧みさには、数知れないライブをこなしてきた成果を感じる。観客に混じって観ていたセウン・クティが「こいつら最高だな」と呟いたそう。今年の WOMADelaide のハイライトは間違いなく彼らだった。スキヤキかフジロックで呼んでくれないだろうか。

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MARTA PEREIRA DA COSTA

 ちょっとだけ覗いたポルトガルの女性ファド・ギター。余裕があれば、ゆったりとじっくりと聴きたい美しさだった。大型フェスは出演アーティストが多いので、どのステージを選ぶか毎度迷う。


THE BUDOS BAND

 今回一番楽しみにしていたのが彼ら。Allman Brothers Band と Tower of Power をミックスしたようなインスト・バンド。缶ビール片手に登場するなどワイルドさを演じていたのと同様、ワイルドで爽快なサウンドだった。幾分単調なのは否定できなが、ライブでこそ持ち味が出るバンドだろう。やっぱり自分はブラスとエレキギターの音が好きだ。

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CORINNE BAILEY RAE

 最初アー写を見ただけでは誰かわからなかったが、2006年にデビュー・アルバムでブレイクしたコリーヌ・ベイリー・レイじゃない。メインステージだったものの、この軽やかな声をここで聴く気分ではなかったので、2曲聴いただけで後はパスした。

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PT TEJENDRA NARAYAN MAJUMDAR & DR AMBI SUBRAMANIAM

 若手ヴァイオリン奏者を中心とする4人。インド古典音楽はそれほど聴いていないが、これほどまでに巧みな生演奏を聴くのは初めてだった。テクニックも今まで聴いた演奏とはちょっと次元が違う。巨匠揃いで、ホント素晴らしかった。

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DAY 2 : March 9 (Saturday)

BAABA MAAL

 2日目以降は昼前に開場しているのだが、毎日深夜までの長丁場だし、酷暑の時間帯はなるべく避けたい。そこで 16時半からのバーバ・マールのワークショップを目指して出かけた。小さなステージで行われたこのワークショップは、バンドのリズム隊4人によるセネガルのリズムについての解説やデモンストレーション(御大バーバ・マールは「今寝ていて」参加せず)。だが、核心までたどり着かない印象で、質疑応答もなんともゆるく(「サバール・ダンスは踊れるか?」「ドラム・ソロを聴かせて」等々)、いかにもフェスらしい企画だった。

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THE GOOD ONES

 お目当てのステージまでは時間があるからと、遠くのステージを覗きに行ったら、ルワンダの2人組の演奏で盛り上がっていた。アコースティックギターはいかにもアフリカ風の柔らかなスタイルで、なかなか良かった。レパートリーは「ジェノサイド・ソング」と「ラブソング」とのこと。

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JOSÉ GONZÁLEZ

 とにかく凄い人の数。ゆったり聴ける状態ではなく、前方に移動するのも難しそうだったので、退散してビール休憩にする(これだけ暑いとビールを飲み続けたいところだったが、1杯11ドル、日本円で約1100円もするので、流石に控えめになってしまった)。彼のギター弾き語りは小さな箱で聴ければ気持ち良いだろうな。

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GILBERTO GIL

 客席前方は開演前から大盛り上がり。土曜日限定のリストバンドが目立ったので、ジルベルト・ジルだけを観に来たブラジル人、というよりか、バイーアっ子が集まっていたのだろう。MCもほとんどポルトガル語になってしまったし。もう1曲目からラストまで大合唱の連続。途中からは音のバランスの良い後方に下がって観るつもりだったが、折角なのでこの雰囲気を最後まで楽しむことにした。今回のステージはファミリー・バンドによるフェアウェル・ツアーの一環らしい。右手の2人は、初孫(男)と初孫(女)だと紹介していた。正直なところ、81歳の今は声が出ていなかったが、まだまだ元気そうだった。

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AROOJ AFTAB

 最近大注目しているパキスタンの女性歌手。グラミーを獲得したレコードと同様、ライブで聴いても最高の歌声だ。地面に仰向けに寝て目を閉じ、彼女の歌声に浸っている人も多かった。

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SEUN KUTI & EGYPT 80

 シェケレとベースの長老2人は相変わらずお元気そうだし、セウンの動きも変わらずキビキビしていて楽しいのだが、かつてのような勢いはいよいよなくなってしまった印象だ。セウンはフロントに立ち続けるのではなく、メンバーにソロ演奏を任せる場面も多かった。ステージ中盤、客席の中でパレスチナの国旗が振られ、「Free Palestine」のコールが起こった。一体セウンに何を求めているのかと思ったのだが、実際セウンも困惑した様子。「今日はパーティーをしに来た。俺はそんなことはもう20年以上前からずっと言い続けてきている。」そう言いながら予定のセットリストになかった “Zombie” を演奏。残念ながら?これが一番良かった。この日はフェス仕様だったのかもしれないが、"Up Side Down" など、父 Fela Kuti の曲をいつくかプレイしたことに、今の彼の限界を感じたのだった。

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DAY 3 : March 10 (Sunday)

CORINNE BAILEY RAE

 15時半頃に会場に着くと、初日に続いてコリーヌ・ベイリー・レイが歌っていた。多くのアーティストやバンドが複数回パフォーマンスするのがこのフェスの特徴の一つだった。


WITCH

 バンドの名前を目にして、まさか?と思ったのだが、そのまさかだった。1970年代に活動したザンビアのサイケバンド Witch が再結成していたとは。Zamrock のレコードは高値で取引されているものの、個人的にはそれほど面白いとは思っていない。このところアフリカの伝説的グループを復活させることが流行っているが、商魂というかビジネス的戦略を感じることも多い(セネガルの Le Sahel などは、その音楽性の高さから例外だとは思うのだが)。Zamrock は元々本場アメリカのサウンドのコピーでアフリカ的要素は薄いと感じているので、正直なところ自分にとってはアメリカン・ロックを聴いている方がいい。なので、このステージも途中で抜け出してしまった。(この Witch もバンドの4人が白人だったし、セウンのバックも白人が増えていた。再結成バンドに白人ミュージシャンを多く含むことにも一つの傾向を感じる。)

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DUBIOZA KOLEKTIV

 シンプルで分かりやすいステージが楽しいので、思わずもう一度観てしまった。確かに最高だね。


YUSSEF DAYES

 今年2月の Blue Note Tokyo は、追加公演を含めて瞬く間に完売。今夏のフジロックへの出演も決まっているジャズ・ドラマー。それほどまで支持される理由を感じ取りたくて、最前方でかぶりつきで観てきた。確かに手数の多さと力技だけには留まらず、時折爆発的グルーヴを放っていた。強い西陽を受け続けながらも、笑顔を見せてプレイする姿には好感を持った。例えば Mark Guiliana の柔らかさとは対極的なプレイスタイルで、現代的ジャズ・ドラムもさまざまだと感じたりも。

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IBIBIO SOUND MACHINE

 ナイジェリア東部 Ibibio 出身の女性歌手を中心とするロンドンのグループ。その出自には興味を覚えたものの、ナイジェリアらしさはあまり感じなかった。なので、今後に備えて体力残すため、軽く観るに留めた。

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AROOJ AFTAB

 ビール片手に小休止しながら、美しい声にもう一度酔う。最後まで聴いていたかったが、次の場所取りのために早めに離脱。


BAABA MAAL

 ようやく初めてライブを観ることができたバーバ・マール。昨年70歳になったが、今でもしっかり声が出ているし、時々軽やかにダンスを披露して若々しい。ただし、彼もセウンと同様、自身は時々歌うのを休みながら、バンドメンバーたちを盛り立て続けていた。最近のアルバムはどれも充実しており、そのクオリティーはユッスー・ンドゥール以上だと感じている。だが、今回のライブではそうしたサウンドを再現するのではなく、圧倒的なアフリカン・ビートでステージを埋め尽くすものだった。まあこれもライブ仕様ということなのだろう。艶やかな声とビートの嵐を堪能できただけでも大満足だ。バーバ・マール最高! 昔から超オシャレな男、90分のステージの間にも衣装替え。さすがセネガルの大スターは違う。

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DAY 4 : March 11 (Monday)

 今日は月曜日だが、祝日で休みとのこと。それで月曜日まで日程が組まれていたことを知る。


SON ROMPE PERA

 16時半頃に会場に着くと、メキシコのクンビア・バンドのステージが大盛況。木琴を中心とする激しいパフォーマンスに一気に引き込まれた。これほど暑くなければ、初めから観たかったくらいだった。


ANGÉLIQUE KIDJO

 当初ニッティン・ソーニーは Stage 2 と Stage 3 の予定だったが、その代役とは言え、流石にアンジェリークともなるとしっかりメインステージに変更になっていた。登場するなり、大ヒットナンバーを連発。さらに4曲目はセリア・クルースへのオマージュ、5曲目はトーキング・ヘッズの “Once in a Life Time” と、最近の作品からチョイス。名盤 “Black Ivory Soul” 収録の “Afrika” ではオーディエンスとのコール・アンド・レスポンスで盛り上げ、ラストは “Pata Pata” で弾ける。60分と短いステージだったが、彼女の活動歴を集約したような内容だった。ただ、元々彼女の歌声や音楽にはあまり魅力を感じず(最近はレコードも全然買っておらず、久しぶりにライブで聴いても印象は変わらず)、4人編成のバンドの音も薄くて、やや物足りなかった。

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CYMANDE

 1970年代にロンドンで活動した在英カリビアンたちである彼らも伝説的グループのひとつ。ベテランらしい小慣れたステージで、とても良かった。しかし、Witch にしろ Cymande にしろ、今頃ライブを観ることになるとはちょっと驚き。


MORCHEEBA

 メインステージだったので一応観に行ったが、全く興味をひかず。退屈したので、そそくさとビールを買いに行く。

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AL-QASAR

 パリのバルベス界隈で活動する、フランス、トルコ、アルメニア、米国という国籍混淆ユニットの4人ということで期待したが、まだまだ発展途上かな。予定を変えて同時間帯のエチオジャズのステージに移動。

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BLACK JESUS EXPERIENCE

 メルボルンを本拠とするエチオジャズの10人組。そこに男性ラッパーと女性シンガー(詩人?)が加わる。その分流れが止まり気味で、ゲスト2人はいらなかったのではとも思ったが、これもフェスらしい試みだったのかもしれない。彼らは Mulatu Astatke とアルバムを数枚共作しており、ライブでも共演している実力派のようだ。実際4日間聴いた中で、音楽的なまとまりの点では最高だった。

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ZIGGY MARLEY

 フェスの実質的な大トリだったが、彼のイスラエル支持のスタンスが気になったのと、自分はレゲエをほぼ聴かないことからパス。

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PONGO

 その代わりに、フェスの最後にポンゴの “Mandela” をもう一度聴きに行くことにした。だが、本人も謝っていたが、十分な声が出なくなっていた。WOMAD ということで、ちょっと頑張りすぎたのかな。それでも南アからコンゴまで広い視野を持った彼女の音楽には、アンジェリークよりも現在進行形のアフロポップの魅力を感じた。

 昼間に組まれていたインド古典音楽4人組のステージが、猛暑を理由に 23時にスライド。彼らをもう一度観たいところだが、もう十分に満足したので、全く観に行けずにいた DJ ステージに少し立ち寄ってから、ホテルに帰り飲み直した。



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 公式発表によると、4日間の延べ入場者数は 98000。2週連続だった頃のマルセイユの Fiesta des Suds が最大 80000人だったので、それよりも多い。毎年このフェスを楽しみにしている地元の方々が多いのだろう。ステージを熱心に観るでもなく、テントを張ったりシートを広げたりして、のんびりくつろぐカップルや家族もとても多かった。伝統あるフェスなだけに、しっかりオーガナイズされている印象でもあった。アデレードは期待通りワインが美味しく、良さげなレストランも多そうなので、機会があればまた来てみたい。来年あたり、ブルース・スプリングスティーンの豪州ツアーと重ならないだろうか?(実は今年はそのことに期待していたのだった。)


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# by desertjazz | 2024-03-17 11:00 | 音 - Festivals

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