Lo Còr de la Plana

 ルー・クワール・デ・ラ・プラーノ Lo Còr de la Plana の音楽は、ステージで歌い演奏される時に放たれる「響き」に大きな魅力を感じる。
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 南仏マルセイユを拠点とするこの男声ポリフォニーコーラスグループの音楽編成はとてもシンプルなものだ。6人の声、パーカッション(ベンディールとタンバリン、合わせて4つ)、それに手拍子と足踏みだけである(下手のふたりは足踏み用に踏み板を使っている)。一見野暮ったい印象の男たち6人のコーラスの響きがまず素晴らしい。時にユニゾン、時にハーモニー、時に複雑なポリフォニーを奏で、変幻自在に変化していくのだが、リーダーのマニュ・テロン Manu Theron の朗々とした逞しく男性的な歌声を中心とした響きが何とも美しい。
 今回観たコンサートの会場は台北の中山堂のホールで2000人以上収容する大きさ。その分だけ地声の響きが素晴らしく、マニュたちもその響きを味わいながら歌い楽しんでいる様子がうかがえた(残念ながらメンバーひとりがインフルエンザで入国できず、5人編成だったが)。特に、ブレイクした瞬間の余韻の美しさ。もちろんPAを使用し、エフェクターでディレイもかすかにかけているのだが、そうした効果もより良い方向に現われていた。
 また曲ごと、あるいは連曲の構成がどれも見事なもので、毎度感心させられる。聖歌のように静謐に始まったコーラスがやがて高まっていき、ベンディールや手拍子や足踏みが加わって熱くなっていく。最後にはグナワ的なトランシーに達する。手拍子やパーカッションのパシパシとした鋭い響きが溜まらない。そしてさらに足踏みの重低音が心臓を突き上げてくる。
 こうした音楽性は、マニュが様々な土地の音楽を研究し、南仏、北イタリア、さらにはジプシーやマグレブの音楽まで取り入れて組み立てていった、とてもオリジナリティーを感じさせるものだ。
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 ただし、彼らのアルバムを聴くと、こうした特性が十分には伝わってこないことを残念に思う。CDというパッケージメディアのもつダイナミックレンジをライブパフォーマンスのそれとを比較しても勝ち目はないし、ホールに広がる余韻も望むべくもない。しかし、ルー・クワール・デ・ラ・プラーノの音楽はダイナミックレンジや余韻を十分に味わえる環境で聴いてこそ、より一層味わえるものだと実感している。
 
 このように思わせる理由は別にもある。それは音を少しいじりすぎていると感じられることだ。録音作品では、多様なゲストを招き、さらに様々なエフェクトを駆使して、彩り鮮やかな作品に仕上げていっている。その分だけ、ポリフォニーコーラスの表現するものが減じられているとは感じないのだが、コーラスの音自体がまなって聴こえてしまって仕方がない。
 というのも、最新作(セカンド)"Tant Deman" の曲の録音はマスタリング前のヴァージョンとデモヴァージョンも受け取っているのだが、古いバージョンの方が良く聴こえてしまうのだ。彼らのライブのハイライトで演奏される 'La Noviota'(マルセイユでは、フロアの客たちが手をつなぎ、フロア一杯大きな輪を描いて走り回るような輪舞が起こった。オックミュージックのコミュニティー性を直に目にしたように思い感動したことを覚えている)などは、最初のヴァージョンの方が遥かに良い。コーラスもパーカッションもくっきり響いていて、とにかく気持ちがいい。彼らはもっと彼らの持ち味をストレートに表現した作品を作るべきではないかとさえ思ってしまうほどだ(ただし、彼らのライブを体験することによって、アルバム作品の素晴らしさがもっと理解できるようになり、より楽しめるようにもなった)。

 今回はこの「響き」をもう一度直に身体で感じたくて、台湾まで飛んでいった。そして、それだけの価値は十分にあった。



 わずか48時間の短い台北滞在だったけれど、自分にとってはマジカルモーメンツの連続だった。とりわけ感動したのは、打ち上げの席でのこと。右隣に座っていたサム Sam Karpienia は終始上機嫌で時々歌いながら呑んでいて、自分の耳元30cmの距離で彼の生歌を楽しめたのは何とも幸せなことだった。今度は目の前に座っているマニュも、少し遅れてそれに合わせて歌い出す。そして周りにいるメンバーたちも、テーブルを叩いたり、手拍子を打ったりして、ポリフォニービートを奏でてふたりの歌を盛り上げる。つられて自分も一緒に手拍子を打ち出したのだけれど、そのときの心地よさと嬉しさといったら、ちょっと言葉にはできないくらいのものがあった。この瞬間の記憶は一生忘れられないだろう。
by desertjazz | 2009-10-09 00:27

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