布と器

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 今年は恐ろしいほどに忙しくて、やろうと考えていて出来ないでいることがたくさんある。それらのうちに含まれるのが、食器類を買い揃えることと、布を整理することだ。そのことについて少々綴ってみたい。

 しばらく前から、土鍋が欲しい、米びつが欲しい、おひつが欲しい、大皿や汁用の器ももっと揃えたい、などと呟いていて、何かのきっかけで外出した時などになるべく探すようしている。しかし、惚れるものとの出会いはなかなかないし、一生モノと思いながらも良いものは高くて手が出ない(なので、桐の米びつだけは安いものを買ってしまった)。
 そのような最中、バリからわが家に遊びに来た友人Nからまた嬉しい土産をいただいた。彼はバリの工芸にも造詣が深く、また現地のアーティストたちとも個人的な付き合いが多くて、自身で気に入ったものがあると、私にもプレゼントしてくれる。今回もさんざん探して見つけたという品は2枚の皿。平板のようでいてわずかに歪み、真円のようでやはりわずかに歪んだ形、それに何とも言えない色合いに面白みを感じる。あまりなさそうな形だけれど、使い勝手はよさそうだ。さっそく岡山産の大粒のピオーネを載せて眼でも楽しんでいる(写真)。
 それにしても径25cmもある焼き物を、わざわざバリから持ってきてくれたものだ。

 こうして物が増える一方で、減らす作業も進めている。今年はアフリカの楽器や仮面などをずいぶん処分した。ボツワナで買った大型の太鼓や、昔、西武百貨店で8万円も出して買ったバラフォンなども捨てた。アフリカのものは、日本の気候の中で保管すると状態が悪くなってしまうことがあり、こうしたものは置いておいても邪魔になるだけなので、勿体ないが捨てることにした。

 楽器や仮面などと同様に増えすぎて扱いにやや困っているのが布。昔から布が大好きで、いろいろ買い集めているし、今年は『アフリカの布 〜サハラ以南の織機・その技術的考察〜』(井関和代、河出書房新社)や『琉球布紀行』(澤地久枝)などをじっくり読んで布好きが再燃しつつもある。特に好きなのがインドネシアのイカット(絣)で、中でも特別に好きなのがキサール Kisar 島のものだ。
 キサールはチモール島の北東に浮かぶとても小さな島。今から10数年前のこと、バリの骨董品店やアンティークの布の専門店を訪ね歩いて、この布に出会った瞬間すっかり惚れてしまった。それ以来、見つければ買ってきた。ヌサテンガラ諸島に共通した特徴をベースに、さらに緻密かつ大胆に施されたデザイン、この島に独得な何とも言えない色合いと風合いが素晴らしい。また、まるで宇宙人が踊っているかのような上下両端部の図柄も気に入っている。
 キサールのイカットは今でもバリを訪問するたびに探し歩いているのだが、残念ながらまずお目にかかることはない。専門店で尋ねても、店主ですらキサールという地名を知らなかったり、「今はもう手に入らないよ。あなたはいいものを買ったね」と言われたりする。
 実際キサールの布はかなり珍しいものなのではないかと思う。手元にあるイカットの専門書数冊を調べても、キサールのイカットはそれらのうちの1冊に白黒写真が一葉掲載されているのみ。国内外で展覧されているのを見たこともない。インターネットで 'kisar ikat' を検索しても、結果は、、、(興味がある方は試してみて下さい)。最近では数年前に Ubud の Four Seasons Hotel の売店で、それほど質の良くないものを1枚見かけたのみ。それでも1000ドルくらいしたので、自分のコレクションはどれも最低でも20万円程度の価値はありそうだ。
 しかし、自分のコレクションに対しては、価値や値段云々を無視して大切にしたい気持ちばかりがつのる。とにかく、眺めているだけで、撫でているだけで、本当に幸せになれる。こうした布たちは自分にとっては愛するペットのような存在なのかも知れない。なので、増えすぎたからといって、人に譲る気にはなかなかならない。
 なので、最初に「布を整理する」と書いた意味は、処分ではなく、カタログ的な整理のこと。たいした枚数ではないし、私が持っているものが特別貴重なものである可能性もないだろう。それでも、同じく気に入っているスンバやフローレス、ヌサペニダの布と一緒に、例えばサイト上でカタログ的に整理して紹介すれば、興味を持ってくれる人が現われるかも知れないし、うまく行けば詳しい方から何か教えをいただけるかも知れないとも思う。

(写真で皿の下に敷いているのは、お気に入りの一枚。写真で眺めても、惚れ惚れする色と図柄です。)
by desertjazz | 2009-10-12 21:16
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