
『精霊たちの家』(イサベル・アジェンデ、河出書房新社)読了。長大な3代記は『百年の孤独』を連想させ、家主エステーバン・トゥルエバの苦悩と孤独感は『族長の秋』に通じ(あるいはパンゲマナンにも共通する権限を持った男の苦悩)、精霊たちが一家に寄り添い祖母クラーラに超自然的な魔力が備わっているところなどは、ガルシア=マルケスやボルヘスなどのラテンアメリカ文学の特徴のひとつを感じさせる。だが、この小説の面白いところは、序盤〜中盤〜終盤と異なる気分で読ませてしまうところだ。最初、魔術的、幻想的現象さえ現れる日常や『ルクス・ソロス』にさえ通ずる非現実的ドタバタを楽しませていたものが、次第に著者の冷静な社会観察の深まりが表面化していく。そして終盤に至って鋭い(チリ)体制批判を展開していく記述が心に刺さってくる。特に最後の数章の筆力が凄まじい。なので、異なる何冊かを読み替えていったかのような感覚も覚えるのだが、ラストの一文が冒頭に戻って繋がるという見事な円環構造。すごい小説だ。
・一見語り手は男(エステーバン・トゥルエバ)のようでありながら、実は主人公は女性である。これは著者が女性であるからなのかと思ったのだが、彼女の実体験(家族)をそのまま反映させたものらしい。
・子が生まれるとクラーラが親らとの同名を拒否する場面が何度か出てくる。これは同名が繰り返し重なる『百年の孤独』に対する軽いからかいかとも感じたのだが、きちんと意味をなしていることに後で気がつかされる。
・大変長大な小説ながら、すらすらと一気に読ませる力がある。この本も翻訳が優れているからなのだろうが、それ以上にこの作品が見事な傑作であるからなのだろう。