Bako Dagnon

 近年世界的評価の高いマリの女性シンガー、バコ・ダニョ Bako Dagnon が "Titati" (2007) に続く新作 "Sidiba" (2009) をリリースした。これら2枚のCDの英文ライナーには彼女について割合詳しく書かれている。それらを読みながら、関連アルバムを聴いてみた。

(Dagnon の発音は [Danyo] だと書かれているので、「ダグノン」ではなく「ダニョ」の方が望ましいのだろうか。)



 バコ・ダニョは最近まで西アフリカ以外ではほとんど無名だったが、対して国内では以前より大物中の大物のひとりとして知られる歌手だったらしい。ほとんど最後の女性グリオ(ジェリムソ)であることでも評価が高い。単に素晴らしい歌い手というだけでなく、マリ各地の様々な民族の音楽と歴史について熱心に学んだそうなので、まるで生き字引のような存在なのだろう。80年代には巨匠・故バズマナ・シソッコ Bazoumana Sissoko の家に通って学び、まだ同郷の大歌手カンディア・クヤテ Kandia Kouyate に多くのことを伝えた点でも、マリ音楽史での重要性が伺える。

 バコが生まれたのはマリの南西部 Kira 近くの N'Golobladji という村(?)。生年は1953 年頃と書かれている。グリオの家系で、父はンゴニ奏者、母は歌手だった。両親の仕事について回り、祖父母からも沢山の歌を教わったが、7歳の時に母と死別し、その後は大変な苦労をした(このあたりの話はライナーに詳しい)。

 ひとつの転機となったのは66年。初めて公衆の前で歌い賞を獲得することで評判となる。マリやギニアの多様な音楽をマスターしたこと(Biriko, Maninka/Malinke, Bamana/Banbara などが例として挙げられている)も、彼女が名声を高めることに繋がったようだ。

 そんな彼女に着目した芸術スポーツ文化省(Minister of Arts, Sports & Culture)が、74年に L'ensemble Instrumental National du Mali(EIN)に招聘。EIN は国中から集めた優れた歌手と演奏者約40名からなる、国を代表する楽団である。ここでは約10年間活動し、充実した体験を重ねたようだが、公演を終えての移動中、自動車事故に遭い、そのショックから80年代に脱退を余儀なくされたという。

 EIN での活動を除くと、パトロン向けだけに歌い続けたらしい。近年までレコードを制作することはほとんどなく、結婚式などの場で歌うのに専念したことで、本当にグリオらしい歌手としては最後の人物とさえ目されている。

 そんな中、90年にリベリアのプロデューサーからの呼びかけに応じてファースト・カセットを制作し、ヒットする。しかし、その後もリリースの計画があったものの、リベリア内戦の影響を受けて頓挫。そのことがますます彼女をレコーディング活動から遠ざけることになったようだ。

 続いて彼女に目を留めたのが、セネガルの大物プロデューサーのイブラヒム・シラ Ibrahima Sylla である。2003年、グリオのオールスターズを結成し、古典的伝統曲を演奏させるプロジェクトであるマンデカル Mandekalu を開始。その一員としてバコも参加することとなった。

 そしていよいよソロ・シンガーとしての世界デビューを迎え、発表したのが "Titati" と "Sidiba" である。



"L'ensemble Instrumental National du Mal" (Kunkan KO 77.04.12, 1977)
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 EIN のレコードで時々聴くのはこれ。クンバ・シディベ Coumba Sidibé などの歌手がソロを取るが、バコの名前はなく、参加しているかどうかは分からない。国策による寄せ集め楽団なので、本来的なグリオの音楽よりも幾分無菌化されている印象を受ける。



"Mandekalou II : The Art and Soul of The Mande Griots" (Discograph/Syllart 6128672, 2006)
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 'Nassiran Madi' と 'Kanimba' でリードを取る。

 Mandekalou の1作目 (2004) では 'Nare Mughan' と 'Turamagan' で歌っているのかな?(聴くのを面倒に思ってしまい買わず、結局今は入手困難 ??)他にビデオや書籍も出ている様子。



Bako Dagnon "Titati" (Discograph/Syllart 6133012, 2006)
Bako Dagnon "Sidiba" (Discograph/Syllart 6146642, 2009)

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 両者とも主にグリオの古くからの伝統曲をモダンにアレンジした作品らしい。民族楽器だけでなく、エレクトリック楽器を含めた西洋の楽器も多く用いられていながら、やはりマリ音楽としか言いようのないものになっていて、また一歩進化したアフロ・ポップの姿が感じられる。

 ファーストの方は「2008年の個人ベスト(アフリカ)」に入れたお気に入り作。なのでセカンドも期待して聴いたのだけれど、満足度はまだ今一歩前作には届いていない。絶叫調の歌い方が苦手なので、好きな女性グリオは案外少ないが、バコの丹念な歌い込み方は好ましく思う。だけれど、やや声が枯れすぎている印象で、もっと艶が欲しい。ファーストの時は、女性コーラスや男性の歌、フルート、ヴァイオリン、ハーモニカといった音が、彼女の声と絶妙に溶け合って、そんな枯れ具合を中和したポップな仕上がりになっていた。対してセカンドの方は、バコの歌に若干力が入っており、またコーラスやソロ楽器も、彼女の歌を微妙により引き立てる感じになっているので、ちょっとした荒さの方が気になってしまう。こんな理由からか、今のところファーストの方が好みなのだが、セカンドもじっくり聴き入りたくなる作品だと思う。




by desertjazz | 2010-07-17 12:00

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