2010年 11月 12日
Readings : Michael E. Veal "DUB"
Michael E. Veal "DUB - Soundscapes & Shattered Songs in Jamaican Reggae" の日本語訳『DUB論』を読了。興味を感じたのは以下のポイント。
・ダブ制作においてレコーディング・テクノロジー/ミキシング・エンジニアリングの役割を重視し、多くの紙面を費やして解説していること。具体例が豊富で、実際の音源を聴きながら読み返せば、示唆を受けることがより多そうだ。
・ダブが、ジャマイカ人のアフリカン・ディアスポラという意識に基づく、アフリカ的なるものの表現でもあるとする指摘。ただし、実感の湧かない論述も多かった。(第八章)
・ヒップホップ、ドラムン・ベース/ジャングルからイルビエントまで、80年代、90年代以降のイギリス音楽、アメリカ音楽との共鳴関係や相関関係について明瞭に解き明かしていること。またそうした影響が音楽だけに止まらないとする主張。
・ダブとその周辺事象が価値観の裏返しを重ねていること。まるでメビウスの環を見ているような感覚をおぼえた。
ダブが音楽のひとつの形式に止まらない大きな存在であることは理解できた。一方で論理の飛躍も感じられ、そうした点には批判もありそうだ。一読しただけではイメージの固まらない部分が多かったので、今後反芻することで自身の音楽論を深める助けにもなりそうな内容だった。
"DUB" と『DUB論』を買い読んだのは、ダブへの関心というより、著者がフェラ・クティ研究書の決定版 "FELA : The Life and Times of an African Musical Icon" の書き手であり、かつてアフロビートに関してメールのやりとりをしたこともある人物だから。マイケル・E・ヴィールは、ベースプレイヤー/アフロビート・バンドのリーダーである以前に、大学の研究者であるがためか、"FELA" は専門用語(とピジン・イングリッシュ)が頻出して、読み通すのにひどく難儀した。今回も最終章あたりはかなりハードルの高い記述だったので、原書では読めなかったかもしれず、日本版が出たのは有り難かった。"FELA" も邦訳を出してもらえないだろうか。
レコーディング・テクノロジーに対する視点の補足をひとつ。「南アフリカの音楽研究で知られる民族音楽学者ルイーズ・メンチェスの『サウンド・オヴ・アフリカ』(2003年)は、レコーディング・スタジオのテクノロジーを通して音に体現する文化的アイデンティティを鮮やかに描いた民族学的記録である。」(P.049)と紹介されているのはこの本。
・ Louise Meintjets "Sound of Africa! Making Music Zulu in a South Afircan Studio" (Duke University Press, 2003)
大好きな南アフリカのポップ・ミュージックがスタジオでいかにして作られたかというテーマの研究書らしく、副題を眼にして飛びついて買った本。しかしながら未だに読んでいない。やはり読みたい/読まねばと改めて思った次第。
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