2010年 12月 19日
Dubai / Maroc 2010 (19)
11/24 (Wed) : One Day Drive - Part 2
地図を見ても、アスニからウリカ谷までの車道は記されていない。しかし事前に受けた説明では「ある」という。たとえそうだとしても、結構なガタガタ道が予想される。
恐らくアスニから後は、また平坦な土地まで降りて来て、それからウリカ谷を目指すことになるだろうと考えていた。だが、アスニを抜けて、レンジローバーはそのまま南東方向に走る。ならば、このままあと15kmほど進めばイムリルに辿り着くはずだ。しかしどうもそうではないらしく、進路は徐々に東に転じていき、一度近づきつつあった雪を頂いた山々は視界から遠ざかっていく。イムリルまで辿り着けないことを心残りに思う。
いつ悪路が始まるかと待っていたのだが、全くその気配がない。良く整備された道がどこまでも続く。舗装されていなくても、日本の山道よりも平坦な路面で、これならば普通車でも走れるくらいだ。ジンバブウェでビクトリア滝 Victoria Falls からワンゲ国立公園 Hwange まで走った時に、その道の美しさから、かつてイギリスがふるった力について考えたことなども思い出しながら、やはりここはヨーロッパだと考える。
マラケシュの美しい駅舎でも、スークの静けさが浮かぶ様からも、モロッコの中のヨーロッパ的なものを感じた。そして、地図に明示されていないような山道の行き届いた整備具合からも、周辺のアフリカの国々とは少し趣きを異にするヨーロッパ性を感じる。
ドライバーの話によると、この道は標高2000mほどの高地を走っているらしい。確かに北を見晴るかすと、かなり下方にマラケシュの街がうっすら見えて、今いる土地の高さが感じられる。
貧しげな集落が見えたところで車を降りて、あたりの空気を胸にたっぷりと吸い込む。この情景と空気の味が懐かしい。例えば、エチオピアの4000mを越える峠の記憶。いや、それより似たものを感じるのは、中国甘粛(かんしゅく)省の黄土高原の絶望的に何もない、正に黄土色一色の景色の方だ。
澄み渡った青空、極端に乏しい樹々。風はそよとも吹かず。家屋は少なくて、道行く人影もまれ。昼最中では一羽の鳥も虫すらも鳴かない。まるであらゆる音が大地に吸い取られてしまったかのようだ。遠くで囁く声が耳元まで明瞭に届く不思議さ。聞こえるのは、かすかな耳鳴りと、耳のそばで脈打つ血管の音だけという、日頃とは異質な世界。
ひとしずくの音が粉となって消えてゆき、体重がふわっと軽くなるような、こんな透明な音空間の感触が好きだ。
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