2010年 12月 31日
Best Books 2010

今年印象に残った10冊。
1. チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『半分のぼった黄色い太陽』(河出書房新社)
2. リシャルト・カプシチンスキ『黒檀』(河出書房新社)
3. トマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』(新潮社)
4. オルハン・パムク『白い城』(藤原書店)
5. カーレド・ホッセイニ『君のためなら千回でも』(早川書房)
6. J.M. クッツェー『マイケル・K』(ちくま文庫)
7. セルジュ・ミッシェル+ミッシェル・ブーレ『アフリカを食い荒らす中国』(河出書房新社)
8. 伊藤計劃『虐殺器官』(ハヤカワ文庫)
9. 丸山淳子『変化を生きぬくブッシュマン』(世界思想社)
10. 加藤周一『日本文学史序説』(筑摩書房)
読了したのはちょうど100冊。読みかけの本、途中で断念した本、一通り眼を通しただけの本も含めると、今年読んだのは150冊くらいだろうか。それらの中で圧巻だったのは、『半分のぼった黄色い太陽』、『黒檀』、『日本文学史序説』の3作。
ナイジェリアのアディーチェは原書で読んだ作品の再読。東京での講演会のスピーチも良かったし、これからの作品も楽しみ。ポーランドのカプシチンスキの『黒檀』は内容も文章も素晴らしいアフリカ・ルポ。他の作品も読みたいと思って探したが、すべて絶版だった。残念。両者ともに、実際現場に立って、その状況に取り込まれているという感覚にさせられるほどの、切迫感に溢れていた。
2作読んだピンチョンは、必要最小限のその一歩手前までしか書き尽くしていない分だけ悩まされるし、シリアスさとユーモアが同居したユニークなスタイルもどう読んだものか。だが、『スロー・ラーナー』を読んで、来年以降で残りの全小説も読もうと思った。
トルコのパムク『白い城』は最後の数ページで突然の種明かし。全然落ちない『半落ち』の何倍も落ちる! ホッセイニ『君のためなら千回でも』は大ヒット作 "The Kite Runner" の邦訳。胸が苦しくなる上巻前半が全て(それ以降は蛇足)。
クッツェーは「南アのカフカ」とも形容したくなる不条理さに引き込まれる。藤原章生(後述)の本で興味を持って読み始めたクッツェー、今は他の作品群に進んでいる。
1月に集中して読んだ加藤周一の『日本文学史序説』を10位にしたのは、今年の作品ではないというだけのこと。この大作を取り組み終えて、今年は日本の名作をじっくり読もうと決めたのだった。
しかし終わってみれば、昨年と同様に海外作品、それも小説を多く読んでいた。あと5冊新刊を中心に選んでみても、海外の小説ばかり並ぶ。昨年に続いてル・クレジオを読み続けているが、『物質的恍惚』など3冊ほどは歯が立たなくて中座中。
- トマス・ピンチョン『スロー・ラーナー』(新潮社)
- レイモンド・カーヴァー『ビギナーズ』(中央公論新社)
- ル・クレジオ『はじまりの時』(原書房)
- サンティアーゴ・パハーレス『螺旋』(ヴィレッジブックス)
- 伊藤計劃『ハーモニー』(早川書房)
ノンフィクションや評論、科学書では面白い本を見つけられなかった。『アフリカを食い荒らす中国』だけが出色の内容。昨年絶賛した白戸圭一『ルポ資源大陸アフリカ―暴力が結ぶ貧困と繁栄』に匹敵するレベルだった。旧作につきランク外としたが、今年酒席を共にさせていただいた白戸氏の同僚、藤原章生の『絵はがきにされた少年』(集英社)と、小島剛一『トルコのもう一つの顔』(中央公論社)は確かに名作だと思った。
音楽書は今年も耽読したものは少なかった。ひとつだけ挙げるならばダニエル・J. レヴィティン『音楽好きな脳―人はなぜ音楽に夢中になるのか』(白揚社)。子供の頃の音楽環境が貧弱だった分、いまだにハンディキャップを感じているだけに、神経科学からの論考には体験的に納得できる部分もあった。2009年に出た原雅明『音楽から解き放たれるために ──21世紀のサウンド・リサイクル』(フィルムアート社)も刺激的な一冊。
リストを見て面白いのはアフリカに関わる本が多いこと。ピンチョンの2冊の舞台も一部はアフリカ。今年はピグミーとブッシュマンの本を集中的に読んだりもした。ますます関心が薄れてしまった「アフリカ音楽」とは対照的な結果なのだが、やはりアフリカから呼ばれているような気がする。
読んだ冊数ほどには充実感はなかったものの、年間これだけ多くの本を読むのは、遅読な自分にとっては稀なこと。読めば読むほど、さらに読みたい本が増えていって、とても楽しい一年だった。
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