2011年 01月 05日
◆ 刑務所暮らし

今年の3冊目、ムハンマド・ウマル『アミーナ』を読了。ナイジェリア北部の上流階級に属する女性アミーナが、社会活動家として成長していく物語り。下院議員の第4婦人にしか過ぎなかったが、母の教えや友人たちの声に触発され、さらにいくつかの事件を経た後、若干22歳にして国を動かす存在にまで大きくなっていく。
最初に迷ったのは、時代設定がいつかということと、どこがフィクション/ノンフィクションかということ。解説等にも全く触れられていないが、著者自身が行った取材に基づいたフィクションが大部分と見てよいだろう(執筆は1986年)。
政治家や大企業などの特権階級の腐敗ぶり、男性の女性に対する暴力、虐げられ閉じ込められる女性たちの具体的な告発には真実味がある。そこを正していくには、金持ちも一般民衆も正しい知識を得て、団結し、国に対して行動していく必要があるとするのが、この作品の骨子だろう。しかしその描写には不満を抱く。特にアミーナにある大事件が降り掛かる中盤までは、淡々と話が進み、アミーナがどのように心境変化していったのかの描き方が甘い。都合良く新たなキーパーソンが登場し、ある意味でハッピーエンドな終わり方にも説得力がない。同じように旧弊な政治体制下、理不尽な暴力によって知古が命を落としたり、かなたに希望が見え隠れしたりするにしても、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『半分のぼった黄色い太陽』やプラムディア・アナンタ・トゥール『人間の大地』シリーズの登場人物たちような重さがさっぱりないのだ。
この作品は若手作家が習作的に書いた啓蒙書くらいな気持ちで読んだ方がよいだろう。解説によると諸外国で高い評価を得ているという。ナイジェリアの問題を広く知らしめることには成功しているのかも知れない。
作品の中で欧米企業も指弾されているが、正月に知ったニュースの中で最もショッキングだったのは、製薬会社ファイザーがナイジェリア国内の新薬実験で複数の子供(11人)が死亡した記録を WikiLeaks が流したことだった(リンク)。また、21世紀に入って、ナイジェリア初の女性財務大臣ヌゴジ・オコンジョ・イウェアラ Ngozi Okonjo-Iweala が登場したこと(ナイジェリアのアブジャで接する機会があったが、利発さが伝わってくる女性だった)も、アミーナの物語が連想させる。そういった観点からも、ナイジェリア、そしてアフリカの現状を考える上で、ある程度は有効な一冊である。
「刑務所での生活はどうだった?」
「ひどいものだった」
「あなたがそんなところから出られて、うれしいわ」
「いいえ、私たちはみんな大きな刑務所にいるようなものだわ。私たちの社会では、さまざまな制度という鍵を使って人々を監禁し、軍隊と警察が看守になっている」
ーーー 『アミーナ』 P.303
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今年は海外文学からスタートした訳だが、外国のことをとやかく言っている場合ではないということを、痛切に感じる。それにしても、年明け早々、暗い本、重い話ばかり読んでいるなぁ。
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