2011年 03月 07日
◆ Kaushiki Chakrabarty (2)
カウシキのアルバムを録音順に聴いている。誰かの役に立つとはあまり思えないのだけれど、まあインド音楽門外漢が感じたことを、憶測交えて自由に綴っていってみよう。
彼女の作品を繰り返し聴いて気がつくこと(いや、少し聴けば分かること)は、以下の3点。
(1)ハルモニウムとタブラとタンブーラという3種の楽器の伴奏で歌っている。
(2)ライブ録音が多い。
(3)長い演奏が多く、いずれも「緩→急」「弱→強」と展開する。
もちろんこうした特徴はカウシキだけに限ったものではなく、インドの古典声楽の一形式として一般的なものなのだろう。
まず(1)の楽器について。これ以上ないほど簡単に言ってしまうと、ハルモニウムは床置き式アコーディオン、タブラは太鼓2つ、そしてタンブーラは4弦の発振器。この説明は不正確、いや専門家からは「間違い」と即座に指摘されてしまうだろう。まあ、ネットでいくらでも調べられる基本事項なので、くどくど説明はしない(いや、できない)。
次に(2)のライブの多い理由だが、古典音楽は聴衆を前にして歌い演奏されるもので、わざわざスタジオ録音するような類のものではないのかも知れない。実際、そうしたコンサートの機会は多いと聞いている。多分 YouTube を検索すればたくさんの動画を見つけられるのだろう(ただし以下に書く理由から、長時間のんびり聴かないと彼女の魅力は掴みきれないと思うので、そこに YouTube の限界がある)。
そして(3)。長いと言っても、あるラーガに基づいたノンストップの「組曲」となっている。では、ラーガとは? 音律とでも訳せばいいのかな? ある種、音階のようなもの、モードのようなものであり(実際にはかなり異なる)、アラブ音楽で言うところのマガーム(ムガーム)と同等なものと言って構わないのではないだろうか。と、いよいよ説明になっていない。
さて、こうした特徴はカウシキの最初のアルバム "A Journey Begins" (2002年) ですでにはっきり出ている(と言うより、他のアルバムも似たようなもの。なので、彼女のアルバムはそう何枚も聴く必要はないのかも知れない)。ちなみにアーティスト表記は 'Kaushiki Chakraborty' となっているが、これは誤記だろう。
まず1トラック目 'Raga Kedar'。ケダール?なるラーガで、59分もあるので、もちろん「組曲」。「Raga Kedar」で検索するといくらでも出て来て、「代表的なラーガである」とある。説明以上。
この演奏、ハルモニウムとタブラはミニマムに控えめで、ゆったりケダールく始まる(あっ、だからケダールと言うのか!?)。前半は終止この調子。だからか、カウシキの長尺曲を聞いていると、いつもうつらうつらしてしまう。でもこれでいいのだ。決して対峙などしなくていい音楽、一音も聴き逃すことなく真剣勝負する必要のない音楽だと思う。
そして、すっかり気分がほぐれて、時には一眠りした頃に、きちんとハイライトが訪れて、はっきりと目覚めさせてくれる。この 'Raga Kedar' も終盤の10分間くらいの熱を帯びた歌がなんとも凄い。近年の歌いぶりと較べても、さほど遜色ない。
そう、彼女はこの時点(この年22歳)である意味完成している。
カウシキの声質は、他のインドの歌手よりは少し低めなのだろうか。少なくともフィルム・シンガーの高く軽くキュートな声に慣れた耳にはそう感じられるような気がする。その分、特徴的なハイトーンとの対比が楽しいのだが。
ジャケットの写真を見ると、まだ顔の輪郭が幾分ホッソリとしていて、後年の声より少女的な若々しさを感じさせる。そして、体重がない分だけ後半は少し力任せに歌っている印象もある。ほんの僅かなことなのだけれど。
続く2トラック目 'Dadra - Khammaj' は16分弱の小品。 'Raga Kedar' で高まった気分を柔らかく鎮めてくれるような歌だ。
ファースト・アルバム?を聴きながら、今夏の日本公演のプログラムはどのようなものになるのだろうかと想像してしまう。カウシキの最高の録音は "Kaushiki" (Sense World Music 097, 2007) の Disc 1 ではないかと思うのだけれど、こんなダイジェスト的な並びよりも、やっぱり 'Raga Kedar' のような本来の長尺スタイルで聴いてみたい。音が止まることなく流れた方が、夏の夜にも似つかわしいような気がする。
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今繰り返し聴いているのは、最初の2枚 "A Journey Begins" と "Swar Sadhna"。これら以前にリリースした作品がありそうにも思えるけれど、今のところ見つけられていない。
この2枚、どうしてもCDを見つけられず、結局 iTunes Music Store で購入した。ダウンロードでアルバムを買ったのは全くの初めてで、その便利さは実感したけれど、同時に1枚1500円という価格設定は高いとも思った。と言うのは、インドのCDの値段はこれの数分の一であることを知っているからだ。もう少し粘って販売以されているディスクを探そうか、インドから安くダウンロードできるところがないかどうか調べてみようか、といった考えも頭に浮かんだ。だけども、こうした作業は、海外旅行先で一日かけてレートの良い両替屋を探すような行為に思えた。そんなことは全くの時間の無駄。それより日本に居ながらにして入手困難な音源を手軽に手に入れられることに感謝すべきなのだろう。
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