SUKIYAKI TOUR 2011 (14) : Day 5

 スキヤキ・ツアー5日目(SUKIYAKI TOKYO 第2夜)。カウシキ(コウシキ)東京公演。

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 会場は浅草アサヒ・アートスクエア。開場30分前という中途半端な時間に着いてしまったので、スカイツリーを眺めながら待つ。事前に聞いた話ではチケットが思うように売れていないとのことだった。けれど、200席程度の小さなホールなので、まあ大丈夫だろうと思っていたところ、実際明けてみると待つ列が次第に伸びていく。

 18時半開場。イスの並びを見て早速迷う。今日は後ろの方でじっくり音を聴こうかと相談していたものの、やはりカウシキの歌う姿も楽しみたいし、客席が平場なので余り後ろだと周囲の人たちが気になって音に集中できないようにも思えた。結局、中央よりやや前目(3列目だったかな?)、上手(向かって右側)寄りの席を選ぶ(これは、福野ではカウシキが上手のハルモニウム方向に顔を向けることが多かったから)。

 'アサヒ' とあって場内後方ではビールやワインが売られている。仲間たちは美味しそうに飲んでいるが、自分だけはじっとガマン。インドのコンサートの流儀に従った訳ではなく、途中でトイレに行きたくなるのも、眠くなるのも恐かっただけなのだが(インド音楽に通じている人によると、インドの会場でアルコールが売られるなんて考えられないことだそうだ)。



 そうこうするうちに開演時刻19時半になった。イスが急遽追加されたので、後ろを振り返ってみると立見も多数出ている。正に盛況といった様相。

 恐らくこれだけ集まったのには、ネットの効果が大きかったはず。前売りチケットを買っていなくても、直前にツイッター(ブログも)を見て行くことを決めた人がかなりいたのではないだろうか(先日、渋谷クアトロの Marc Ribot などは、その端的な例だろう)。ともかくこれでカウシキを歓迎する条件は整った。



 定刻よりちょっとだけ遅れて、下手から、カウシキ Kaushiki Chakrabarty Desikan、スバシス Subhasis Bhattacharya(タブラ)、アジャイ Ajay Joglekar(ハルモニウム)の3人が登壇。

 1曲目はもちろんカヤール(タイトルは Raga Bihag とのこと。taro terahara 氏のツイートによる。以下、同じ)。演奏時間はちょうど1時間(か、僅かにそれに足りないくらい)。とにかくこれが素晴らしかった。前半はゆったり歌われるアラープ。一節ずつ、一音ずつ、繊細な表現と微妙な変化を施していくのだが、そこには乱れも一切の無駄も全くなく、それでいて至極心地良い。生の歌声を聴いているというよりも、不思議な響きに身を委ねているといった感じか。

 中ほど30分頃のところでリズムが上がって後半パートへ。そのハイライトはハルモニウムとタブラとのやりとり(コール&レスポンス)。カウシキが技巧を駆使して超絶フレーズを投げつけると、アジャイが同様のフレーズを返す、これがしばし続いた後、今度はスバシスの番。また激しいインタープレイの繰り返し。

 演奏中、カウシキが右膝を打って次のリズムを指示するきっかけや、小首を右に傾げてアジャイにソロ演奏を促す仕草なども、今日はよく観察することができた。そして何より我が眼が喜んだのはカウシキの笑顔を拝んだとき。アドリブで神業的一節を諳んじた後や、アジャイ、スバシスとの激しいやり取りを終える度ごとににっこり微笑む。これが良くて、聴いている方にも気分が感染してくる。

 1時間も続くカヤール、途中でウトウトしてしまうのではないかとも思ったのだけれど、結果は全然逆だった。集中して聴いているうちに、聴く耳がどんどん研ぎすまされていって、(仲間たちが語っていた通り)これなら2時間でも3時間でも聴き続けられると思った。

 2曲目はロマンティックなトゥムリ(Thumri Mishra Charukeshi)。確か約18分。3曲目は Bhairavi。約10分。福野で聴いた後半2曲のような派手さはないけれど、しっとりとした歌い口が印象的だった。しかしそれを超えて最初のカヤールが良かった。

 予定していた3曲が終わるなり、絶賛を示す拍手。そしてそれが止まない。とうとうインド音楽禁断(?)のアンコールのために再登場し、もう1曲披露することに。



 明後日の大阪公演について綴る前に結論を書いてしまうと、全3公演の中でこの東京のステージが圧倒的に良かった。

 福野が劣っていた訳ではない。スキヤキでのパフォーマンスは、1時間という制約、広い幅の観客層といったを諸条件を考えると、文字通りこの上ないという意味で最高のものだった。

 カウシキも伴奏の2人もかなりノッていたと思う。福野で喝采を浴び、立見の出る大入りとなり、ホールのアコースティックも申し分なし。歌っている最中もとてもリラックスしている様子で、アジャイとスバシスと微笑みを交わす表情も実に和やかだ。

 終演後、タブラのスバシスと話したときも、ここアサヒ・アートスクエアのアコースティック(音響)をしきりに褒めていた。隣にいたアジャイも同意するように頷いていた。スバシスは昨年も兄とここで公演を行っているので、そうした感想はカウシキとアジャイにも事前に伝わっていたのかも知れない。

 それでも真剣勝負していることがはっきり伝わってくる瞬間があった。スバシスに複雑で高度なフレーズを投げかけ、それに対してスバシスが素早くタブラを叩き返す。その瞬時、カウシキが再度一節切り替えそうとしたものの、彼女自身がそのタイミングを捉えられず入っていけなかったのだ。自身が挑みかけたスピードにカウシキ本人がついていけない、技術的にもそれだけギリギリのパフォーマンスを演じていた証拠だろう。その時の苦笑いも可愛かったのだが…。

 今夜のライブを観てつくづく心に抱いたのは、人間が生み出した音楽という芸術が、これほどの高みにまで達したのかという感慨だった。個人的な声楽の体験としても、日本で観た中では、アゼルバイジャンのアリム・カシモフを超え、横浜WOMAD で観たパキスタンのヌスラット・ファテ・アリ・ハーンに匹敵するものだった。

 スキヤキ直後に、カウシキのことを「個人的にはヌスラット級」とツイートして、正直後から冷や汗をかいたのだったが、それに対して反論はなく、賛同する声があったのには安堵した。

 インド音楽については詳しくないので、カウシキ以上の歌い手は現在もいるのかもしれない。実際、故 M.S スブラクシュミなどは彼女を遥かに勝っていたことだろう。けれども、少し言い方を変えれば、かつてニューヨークで開催されたスブラクシュミのコンサートで彼女の歌に接したニューヨーカーたちの感想は、今回自分がカウシキの生の声を聴いて抱いた感慨と同じようなものだったのではないかとも思う。


 とにかく素晴らしかったとしか言いようがない。恐らくこの公演のことは生涯忘れることはないだろう。





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 終演後のサイン会には長蛇の列。カウシキも上機嫌で気さくに応えていた。

 そして手元には常に白い iPhone が。彼女の iPhone は来日中、何かと話題になっていたなぁ。




 (2011.09.12 記)

 (続く)





by desertjazz | 2011-08-23 23:01 | Sound - Festivals

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