2011年 10月 04日
SUKIYAKI TOUR 2011 (18) : Kaushiki Interview Part I
・ 2011年8月20日(カウシキの公演前日)
・ 富山県南砺市福野 スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド会場にて
・ 通訳&翻訳:rflux (SPIRAL RHYTHM)
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DJ: 日本でお会いできてとても嬉しいです。日本にはインドの古典声楽に馴染みの薄い人も多いので、基本的なことも交えながら教えてください。
Kaushiki: ええ、どうぞ。
[1] ライブ・パフォーマンス
ー まだ直接ライブを観ていないので、まずはCDを聴いた印象から話を始めさせていただいた。
D: カウシキさんの作品はCD10枚ほど聴きましたが、その多くはライブ録音ですね。そしてほとんどが、1時間ほど続くカヤールと10分ほどの小品といった構成になっていますけれど、これは典型的なスタイルなのですか?
K: そうですね、たいてい一曲目は長いですね。始めの曲カヤールは「旅」(journey)なのです。ゆっくりと、瞑想的なインプロヴィゼーションで始まり、早いテンポのインプロヴィゼーションへと展開してゆく「旅」。違うテンポでそれぞれ展開させていくので、長くなるのです。このように最初の曲が長く複雑な即興曲であるというのは、インド古典声楽の典型的なスタイルですね。
D: 瞑想的にゆっくりと始まり、段々早くなる、そういった構成にはどのような意味があるのですか。
K: カヤールは「旅」のようなものだとお話しましたね。ラーガ(音階)を決め、そのラーガで旅を始めます。始まりは自己紹介のようなものです。名前と基本情報を言うように、ラーガも基本的なフレーズや動きから始まります。そして次第に詳細な即興へと移り、更にテンポを早め、より早くより緻密な演奏になっていきます。ゆっくり静かに歩き始め、最後には興奮の頂点に上り詰めるのです。
ラーガを通して自分を表現するとも言えますね。こうしたように、同じラーガを何ヶ月、何十回繰り返そうと、ひとつとして同じことはありません。それは毎回ステージの上で生まれるからです。事前にプランすることはまったくありません。演奏が始まったその瞬時の自分をラーガに込めて表現するのです。
事前には何も決めません。始めから即興なんですよ。曲は1時間にも45分にもなります。ラーガにはその日の気分が反映されます。ラーガというのは音階で、音符は固定されていますし、歌詞も決まっています。でも、どのように即興するかは、その日の気持ちをどう表現したいかによって毎回違うのです。
D: カウシキさんのカヤールを聴いていると、始めのうちはゆったりと暖かい気持ちになり、終盤ではトランシーな気分になります。まるで別世界に誘われるような心地よさとでも言うか。ご自身は歌っている間はどのような感覚なのですか。
K: ええ、音楽を通して上の知覚 (consciousness)に達することが、インド音楽のベーシックな狙いですよね。でも、お分かりのように、それは容易なことではありませんし、自分でコントロールできることでもありません。音楽によってそこへ到達しようと努力しますが、成功する時もあればしない時もあります。それはパフォーマンスに込める集中力によるのです。もちろん、観客をそうした旅に連れてゆくことも重要な狙いです。
D: それを1時間持続するのは、たいへんな集中力ですね。
K: ええ。でも、練習するときは7〜8時間続けるので、1時間はたいした事ないかな。(笑)
D: ライブでもっと長くなることもあるのですか。
K: インドでの単独公演だと一晩に3時間半ほど演奏しますよ。ですが、長くするのが目的なのではなくて、そのラーガに適切な長さまで引きのばすことが重要なのです。自分が集中できて、精神的にも感情的にもついていけるぎりぎりの長さ。自分が完全に集中できる長さこそが適切な長さなのです。
ー 海外公演の機会も多く、最近もアメリカやドバイで公演を行ったそうである。オーディエンスの違いによる影響の有無について訊いてみた。
K: 観客の様子が影響するのはもちろんです。インド国内であれ、海外であれ、全て違います。それは、音楽に対する理解のレベルが違うからです。初めて聴く人たちと、長年聴いて来た人たちがいます。
といっても、必ずしもそれだけではありません。例えば、ハンガリーで公演したことがあるのですが、その街ではまったく初めてのインド古典音楽の公演で、皆が初めての体験だったわけです。しかし、その場の聴衆の熱気によって、大きな違いが生まれました。
ステージに上がる前は、正直あまり期待していませんでした。ところが、演奏が始まると彼らの集中力がしっかりと感じられたのです。50分ほどのラーガを終えると、客席から強い興奮が伝わってきました。集まったみなさんはもう1つの長編を聴きたいと言いました。まさかそんなことになるとは思ってもみなかったので、「本当に??」と訊ねると、「絶対に!」との答えです。
お客さんたちの人数も多かったのですが、演奏中にはささやき声すら聴こえません。一人残らず、その場に集中しきっていました。これは私たちの演奏に大きな影響をもたらします。皆と旅をできる、という感覚です。
音楽はコミュニケーションだと思います。私だけが何かしているのではなく、(私が音楽に命を吹き込むことによって)次第に音楽そのものが場を支配し、演じる方も聴く方も集中していると、その音楽が私たちを旅に連れていってくれるのです。
ー この話はとてもいいと思う。振り返ってみると、福野でも東京でも大阪でも、会場は水を打つような静けさで、心地よい緊張感に包まれていた。きっと私たちはカウシキと良い旅ができたのだと思う。カウシキもそう感じたから、いつも上機嫌だったんじゃないだろうか。
D: カヤールの後にはトゥムリなどの短めの曲を歌いますが、これはカヤールの緊張感から解き放し、リラックスして終わりに向かう狙いがあるのですか。
K: いえ、そうではなくて、トゥムリは異なる形式の歌なんです。最初のカヤールほど、形式に則ったシリアスで強烈なものではありません。トゥムリはもっとロマンティックなものです。という意味では、確かにクールダウンさせる意図もありますね。ゆったりとしていて、そして感情的。喜びや葛藤、恋焦がれる想いなどが表現されます。ですから、テクニックは決まっていますが、表現がぐっと感情的になります。これがカヤルとの大きな違いですね。
D: 最初のカヤールと次のトゥムリとの間に何か関連性のようなものはあるのでしょうか。
K: いいえ。カヤールを選ぶとラーガ(音階)が固定されるので、それとは別の雰囲気のトゥムリを選ぶようにはしていますけれど。
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(続く)
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