2011年 11月 21日
読書メモ:カズオ・イシグロ『充たされざる者』
カズオ・イシグロの長編4作目『充たされざる者』を読了。初読時には作品の性質がわからずにイライラしっぱなしで、フラストレーションの極地に陥ったのだが、その構造が分かってしまうと今度はスラスラ進んだ。それでも9日を要した。もう2度と読みたくないとさえ思ったこの作品を再読し終えて、ちょっと不思議な気分になっている。
その初読時よっぽど辛かったのか、今回読み直してみたら8〜9割を忘れていた。本当に読み終えたのかと疑問に思ったほど。かなりはっきり憶えていた中盤のあるシーンが実はラストシーンであったりもして、記憶は相当に曖昧だ。
読み進むに従って、夢の中にいるような、あるいは長い夢の話を聞かされているかのような気持ちになっていった。人は極短い時間でもとても長い夢をみる。それが非現実的なものであっても、安らぎをおぼえたり、不安に苛まれたり。そのような特質の備わっている夢というものを文学作品で構築して見せられた気になる。登場人物たちの振る舞いや語りからは、人が夢の中にもつ潜在意識が浮き立ってくるようにも思えた。
前回読んだ時にはかなり支離滅裂で脈絡のない印象だったのだが、じっくり読み直すときちんと筋が通っており、突然の話の展開にも、はるか前の方で伏線が貼られていることに気づかされた。グスタフは『日の名残り』の執事の父と似たようなモチーフであったり、『夜想曲集』はこの作品のエッセンスを100分の1にしたようなものと感じたりもした。
とても長い作品で多様な要素が詰め込まれている分だけ、様々な読み解き方が可能な作品だ。なのでもう一度読み返したくなっている。
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(日記)
11/16(水)
朝4時に起きて少し読書。それから登山の一日。上級者向けルートがハードすぎて目的地のひとつにはたどり着けなかった。 /4日目 〜P.278
11/17(木)
朝4時起床。快晴。奈良公園へ。今年奈良には何度来ただろうか。筋肉痛と昨日の疲れが取れず、3日間でたったの78ページしか進まなかった。 /5日目 〜P.308
11/18(金)
午前2時に起床して読書。筋肉痛はさらに悪化。 /6日目 〜P.526
11/19(土)
どこまでも続く長い話はプルーストやガルシア=マルケス的であり、過剰に長い独白はドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』的であり、フラストレーションを強いる不条理さはカフカ的である。非現実性は「夢」と捉えるといいのだろう。 /7日目 〜P.682
11/20(日)
そろそろラスト・スパート。今日は少々辛かった。 /8日目 〜P.824
11/21(月)
ようやく2度目のゴール。終盤、ユーモアが冴えまくっている。 /9日目 〜P.939
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