2011年 12月 02日
"The Kankobela of the Batonga"

オランダの SWP (Sharp Wood Productions) のマイケル・ベアード Michael Baird が SWP の新作 "The Kankobela of the Batonga Vol.2" を送ってきてくれたので、早速聴いてみたところ、これが実に素晴らしい内容。慌てて2年前にリリースされた "Vol.1" と合わせて、ここ数日繰り返し聴いている。
バトンガ Batonga とはザンビアとジンバブウェの国境のザンベジ渓谷、カリバ湖両岸を指し、カンコベラ Kankobela はトンガ人が演奏する、この一帯に存する親指ピアノの呼称である。ホタテ貝のような形状の手のひらサイズの板に10程度のキーが並ぶシンプルでコンパクトな楽器。
しかし、演奏者自らが手作りするカンコベラは、どれも似たように見えても、それぞれの奏でる音はかなり違う。これには共鳴器の選択や使い方も作用しているようなのだが、親指ピアノの構造そのものも微妙に異なっているのだろう。キーの音階も奏者によって違っているそうだ。
この2枚のCDには、バトンガの古老たち(全て男性)のカンコベラの演奏を、マイケル・ベアード自らフィールド録音した音源がコンパイルされている(録音は "Vol.1" が2008年、"Vol.2" が1996年と2008年)。奏者のほとんどが老人で若者が演奏しなくなっている現状は、サカキマンゴーさんがタンザニアやマラウィで親指ピアノ探索を行った話を思い起こさせる。
楽器ばかりでなく、歌い演奏する曲も自作のようなのだが、どれも個性的で自然と聴き入ってしまうものばかり。どことなくダーク、かつミステリアスな曲調で、妖艶なムードは長調でも短調でもなく、妖調とでも形容したくなるもの。エチオピークと似た印象も受ける(個人的には、ボツワナのカラハリ砂漠で出会ったカロウチュバ老人の親指ピアノに酷似していることが興味深い。バトンガとカラハリ・ブッシュマンとの繋がりがはっきりと見えてくる)。
内省性を感じさせるメロディーと歌い口、それぞれに個性を感じさせる乾いた音色、独特なリズム感、そして圧倒的なテクニック。どれもが素人の「暇つぶし」であることを忘れさせるくらい。倍音も強烈で2人か3人で演奏しているのかと感じてしまうほど。アマチュアリズム/パーソナル・ミュージックのひとつの極地だと思う。こうした素朴な音が本当に大好きだ。
中でもとりわけ凄いと唸ってしまうのは、"Vol.2" ラストの Aaron Nchenje の演奏。他では聴いたことがない独特な音色(あまりに乾いた音なので、壊れているのかと思わせるほど。このカンコベラは90年ないし100年ものだという)、複雑に変化するリズム、運指が想像できない高速演奏。トラックリストを見直すと、"Vol.1" は Aaron Nchenje で始まっている。マイケルも Aaron Nchenje を一番に評価しているのだろう。
やっぱり親指ピアノは聴けば聴くほど面白い! これを2011年のベストアルバム1位に選びたい気分になってしまった(もちろん気分だけ…)。
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この "The Kankobela of the Batonga Vol.2" が送られてきた時には、"Vol.1" のアウトテイク集なのだろうかとも思った。"Vol.1" が届いた2年前はあまり音楽を、特にアフリカ音楽を聴いていなかった時期だったので、その印象が薄かった影響もあったのかも知れない。
だが、マイケルは始めから2枚セットでのリリースを想定していたのではないだろうか。相似形のジャケット写真や、それぞれのCDの演奏者にほとんど重複がないことから、そのことが伺われる。いや2年前の時点で "Vol.1" というタイトルにしていたのだから、推測するまでもない話だった。マイケル、アウトテイク集かと疑って悪かった。
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(追記)
2009年の段階で、「(2枚とも)マスタリングまで完了している」と連絡を受けていたことを思い出した。(→ 参考)
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