2012年 04月 12日
Madrid Museum Tour (1)
・今年の3月は昨年末にポケット版の出たE・H・ゴンブリッチ『美術の物語』を集中して読んでいた。定評通りの素晴らしさで、主に西洋の美術の変遷史がとても分かりやすく解説してある。図版も含めると1000ページを超える重厚な書物ながら、大変な内容の深さに引き込まれしまい、若い頃(せめて大学生時代)に読んでおかなかったことを後悔したほどだった。
この本を読み進むうちに、改めて決意に近い願望を抱いた。それは「フィレンツェとベネチアとマドリッドにはいつか行こう」というもの。絵画も建築も昔から好きなので、これら3都市には見ておくべきものが多い。幸いイタリアには2度訪れる機会があり、街全体がまるで博物館のようなローマを散策することはできた。しかしフェィレンツェはまだ未体験ゾーン。いつか行くと長年繰り返し呟いているばかりだ。
対してマドリッドの方は以前から興味の対象外だった。同じスペインであれば、オクシタニアと関係深いカタルーニャにばかり関心を持っていた。その主な理由は音楽と美術の面白さにあり、だからこそ2006年の1月にバルセロナを訪ねたのだった。ガウディの建築を見て歩くだけでも時間が足りなかった一方で、ピカソやミロやダリの作品の多くが実はマドリッドにあることも知ったのだった。
・いや、そのようなことを思い出しもせずに『美術の物語』を読み進めていたのだが、この本に取り上げられている作品のいくつかがマドリッドのプラド美術館の所蔵作であることに気がついた。直接対面してみたいと思う傑作が多く、プラドのことが気になり始めたのだった。調べて見るとマドリッドには他にも規模の大きな美術館がいくつかある。ここは美術鑑賞の天国ではないか! うかつにも知らなかった。
よし、マドリッドにいつか行こう!と意を強めたのは3月末のこと。興味本位でなんとなくフライトチケットを調べたりなどもしながら。
・同じ3月下旬のこと、4月のスケジュールがほぼ見えた時点で、なぜか中旬の1週間ほどがぽっかり空いてしまっているではないか。ならばマレーシアのボルネオかインドネシアのバリに行こうと画策し旅行プランを立て始めた。実際、ボルネオ最奥までのフライトを調べたり、Danum Valley の Borneo Rainforest Lodge に連絡したり。
でも待てよ、1週間あれば、もしかしたらマドリッドだって可能じゃないか? そう思って再度フライトチケットを調べてみると、4月の観光シーズンの端境期とあって案外安いし、簡単に予約も入れられる。漠然とした将来における願望がいきなり現実化してきた。
・そうこうするうちに、4月3日に『美術の物語』を完読。この瞬間「いつか行きたい!」が「今行こう!」に変わった。諸々の条件を考えると(経済的事情などの私的なことから社会情勢まで様々含めて)、実際今回しか行けるチャンスが得られない可能性もある。そんなことも思いながら、この日の深夜にマドリッド往復のフライトチケットを購入してしまった。さあ行くぞ! でも12日の出発までわずか8日しかない。
まるで予備知識のないマドリッドについて猛烈な勢いで調べ始めた。旅慣れている分だけ、決めたらやることは早い。あらゆる可能性を探って、安くて快適な方法を探し続ける。旅のベストプランを一気に構築してしまうことは得意だし、こういった作業が大好きだ。
フライトを確保した次にやることはホテルの手配。マドリッド市街のホテルを100カ所以上チェックする。今はインターネットを活用できる時代なので本当に便利だ。Tripadvisor で1位も2位も空きがあり、出発直前なのにも関わらずほぼ選び放題の状況。これには思わず安堵した。慌てる必要はないことを確認しつつ、今回は静かなベッドさえあれば十分なので上位で格安なところを仮予約。
・自分は美術には詳しくないが、美術館で絵画や彫刻をじっくり眺めることはとても好き。これまでにも、パリ、ロンドン、バルセロナ、バリ、ニューヨーク、ワシントンなどで、それぞれ数日間かけて美術館巡りをしてきた。特に好きな美術館では終日缶詰になって見て来るし(1枚を30分以上ゆっくり眺めてきたりもするので、こうなってしまう)、他の滞在地でも時間の許す限り美術館に足を運んできた。
今回それと同じことをマドリッドでやろうと決めたわけだ。だから滞在中、他の具体的な予定は一切入れて行かなかった。もちろん観る価値あるライブがあれば拾い物だと願ったし、スペインの美味い料理やワインにありつくことも大きな楽しみにして行った。
・このように自分をマドリッドに旅立たせるよう強く後押ししたのは、ゴンブリッチが「実物を見るべき」としつこいほど繰り返していた言葉だったのかも知れない。「実物を見ろ」などと言えるのは彼がヨーロッパに住んでいるからだろう。日本に住む者にとってはそれはなかなか難しい。けれども個人的体験としても、実物を見て初めて真価が伝わってきたと思える体験をしてきたことは事実だ(ルーブルでのある体験を思い出す)。だから彼の指摘には素直に頷けたのだった。
・1冊の書物と巡り会ったことで、最近まで訪れるアイディアすらなかったマドリッドへ旅立つというまさかの展開。マドリッドを避けていたのは単なる食わず嫌いだったと知らされる旅が始まる。
それにしても、どうして自分は今これほどマドリッドに惹かれるのだろう。その答えはもう一冊別の本にあることに、プラド美術館の中を巡り歩いて初めて気がつくことになるのだった。
(続く)
(旅の記憶を自分のために、忘れないうちにもう少し書き残しておこうか、そう思って綴り始めてみた。)
(2012.05.05 記)
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