<MM1> The Father of Chaabi - Houcine Slaoui

<Moroccan Music 1>

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 2年振りにモロッコを旅してきた。目的のひとつはある音楽家に関する資料・情報を得ること。前回のマラケシュ滞在中にある2枚の CD を見つけ、いまだにそれらを聴き続けている。「裏ベスト」としてこのブログでも取り上げたが、ここ数年でこれほどまでに聴き惚れた音楽は数少ない。

 ◆ Dubai / Maroc (28) : 2010年裏ベスト
 ◆ Dubai / Maroc (30) : 2010年裏ベスト(続)

 それなのに、その音楽家については名前すら分からない。こうなったら直接モロッコで聞いてまわろう、そう決めて旅に出たのだった。

 結論を書いてしまうと、モロッコに到着した日にその答えは得られた。名前はホースゥィン・スラウィ Houcine Slaoui(Hocine Slaoui)。Wikipedia のフランス語版に載っていることも知った。(*)

http://fr.wikipedia.org/wiki/Houcine_Slaoui




<経歴>

 その Wiki のよると、ホースゥィン・スラウィの本名は Houcine Ben Bouchaïb、1921年にラバトの隣町サレ Salé で生まれ、1951年に亡くなっている(1918年生、1948年没とする資料もあり)。
 父や男兄弟を失った幼少時から音楽に目覚め、そのことを母は心配していたようだ。12歳(1930年とあるが、ここで Wiki の記述は矛盾している)の時にコンサートで注目される。
 14歳の時、パリに移住。20歳からは曲を自作し始める。そして第二次世界大戦後、パテ・マルコーニ Pathé Marconi と契約し録音。これらを通じてマグレブ諸国に広く知られるようになり、「シャービの父」とまで呼ばれることとなる。
 彼の楽曲はモロッコや東方アラブの様々な音楽スタイルをベースしたもの。日常生活、愛と失恋、それに後年には国際紛争など相当重いテーマの歌も作っていたようだ。
 わずか30歳で死去しているのだが、その死因としては殺されたとする説が有力らしい。

<録音>

 SP時代の音楽家で正確な録音数は不明。Wiki にはパテ・マルコーニに30曲と書かれている(Wiki のディスコグラフィーには20曲掲載)。かつて仏AAA盤の LP がリリースされたようだが(*)、これらをリイシューしたものだろう(収録内容は不明)。これがCD化されたかどうかも未確認。モロッコ盤 CD 2枚に収録された19トラックは彼の代表曲の大半であろうかと推測する(YouTube 等を利用して確認が必要)。

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 モロッコ盤のタイトル、緑盤は "Moulay Yaacoub"、紫盤は "Ahdi Rassak" か。(*) 今回のモロッコ旅行で新たに青盤も発見したが、内容は紫盤と同一のようだ。

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 マラケシュで古道具屋を探索したところ7インチ・シングルの存在も確認できた。

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・ Hocine Slaoui - Aïta Badouia / Azin-Oualaïn (EL MARICANE) (Pathé EA 283)
・ Hocine Slaoui - Alala Ylali / Ahdi-Rassak (Pathé EA 284)
・ Hocine Slaoui - Ouiounou Hajbane / Hal Cas Hlou (Pathé G 1973)

 EA 283 の2曲は CD にも収録。G 1973 は CD との重複なしか?




 ホースゥィン・スラウィは自分にとって正体不明の音楽家だったが、「シャービの父」とまで称されるほど、長年モロッコの人々から愛され続けた存在のようだ。そうした様子は現在のマラケシュでも伺われた。2年前には彼の CD を買っていくのを目撃したことがあるし、今回は床屋の店先から彼の録音が流れている情景にも出会った。あちこちの店にホースゥィン・スラウィの CD が置かれていることからも、彼の音楽がモロッコの人々の心に染み込んでいるのだと伝わってくる。

 この2年間ホースゥィン・スラウィに関する情報は全く得られなかった。しかし、昔からモロッコの大衆音楽を聴かれてきた方にとっては特段珍しい人物ではないのかも知れない。実際モロッコの店で年配の主人に彼の写真を見せたり、パリ・バルベスのマグレブの店で「ホースゥィン・スラウィはありますか?」と尋ねると、決まって「ああ彼ね」といったような反応が即座に返ってきた。それほどの有名人物を自分が知らなかっただけだとも考えられる。

 それにしてもホースゥィン・スラウィの音楽は楽しいし、独特な面白味がある。聴けば聴くほどその深みにはまっていってしまう。女声コーラスなども入った編成の大きめな曲、弾き語り風の曲、そして語り芸風のものと、そのスタイルも多彩。今回調べてみて、こうした彼のスタイルが収斂していってモロッコの大衆シャービへと変化していったのだという可能性が生まれて来た。少なくともホースゥィン・スラウィの歌は現代のモロカン・シャービと確実に繋がっている。

 モロッコで出会った録音はどれもとても興味深いものだった。なので、少しでも多くの方々に聴いてみて欲しい。そう思って、フェズやマラケシュ中の店を駆け巡って CD を集め、店員にもストックを探してもらった。だが CD は思ったほど見つけられなかった。バルベスで尋ねても「もうとっくにないよ」(と仏語を推測)との答えだった。これほどの音楽家とその作品が、マグレブの世界で徐々に忘れられていくのだとしたら、そして日本ではほとんど知られないままでいるのは、なんとも勿体ないことだと思う。




(*)人名・曲名の英字表記など様々なことについて、ニシムラヤスヒロ氏にご教示いただきました。どうもありがとうございました。


♪♪

(補足1)

 ホースゥィン・スラウィの CD はフェズとマラケシュで見かけた新品をほぼ全て買い集めてきました。ですがその数はわずかなものです。私に直接ご連絡くださった分を別に確保してあるのを除くと、残りはごく僅少数。ホースゥィン・スラウィに関してさらに情報を集めたいとも思うので、もし要望があるようなら、コンパイル盤を作るなどといったことも考えてみたいです。

(補足2)

 この項、随時加筆する予定です。( → 随時加筆・修正中です。)






by desertjazz | 2012-11-12 19:00 | Sound - Africa

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