2012年 11月 19日
<MM10> Abderahim Souiri "Mawamil"
現在モロッコで最高の歌い手は、レッガーダ・キングたるジャラル Jalal El Hamidaoui 、、、ではなくて、このアブデラヒム・スーイリ Abderahim Souiri なのではないだろうか。彼についてネット検索しても基本情報すら見つからないものの、とにかく素晴らしい歌手だと思う。
彼の存在を知ったのは2年前のこと。Fassiphone からリリースされたライブ盤2枚を入手し、アラブアンダルース・スタイルのオーケストラや女性コーラスと渾然一体となった白熱の歌唱・演奏に聴き惚れた。フェズの『聖なる音楽祭』などにも出演しているらしく?、モロッコ国内では高名な実力派のベテラン古典歌手なのだろう。
("Rough Guide" によると、現在のアンダルース音楽や al-ala に通じる古典形式 nuba の歌手で、近年では Hadj Mohammed Bajoub と並ぶ存在であり、カセットを多数リリースしているとのこと。)
◆ Dubai / Maroc (26) : モロッコ激情の声
そして今回モロッコで最新スタジオ盤 "Mawamil" (AMD 6111245623139) を入手。これを聴いてぶっ飛んだ。前作ライブ盤の熱い歌唱からは一転して、マワール Mawal(アルアンダルースの即興歌唱)のみたっぷり6トラック。アンサンブルによるごく短い導入部の後、ラバーブ、カヌーン、ウードなどの最小限の楽器による柔らかな伴奏を従えた端正な歌が4トラック目まで続く。5トラック目でようやくダルブッカによってリズム・パッセージが変化して瞬時緊張が解ける。そしてそのまま長尺の最終トラックへと流れ込み、派手やかに盛り上がる大団円を迎える。全く隙も無駄もない至福の43分間。
美しいハイトーン、完璧なヴォイスコントロール、心地よいメリスマ、落ち着いた瑞々しい表現力、これらを語るに相応しい言葉が浮かばない。正しく完璧な歌唱に聴き惚れるばかり。思わずアゼルバイジャンのアリム・カシモフ(アリム・ガスモフ)を連想したほどだ。
先のライブ盤では掴みきれなかったアブデラヒム・スーイリの真価を詳らかにするこの新作、今年のベスト10の有力候補。久し振りに人の歌声に圧倒された。
(このアルバムは現地で聴かなかったので数枚しか買ってこなかったし、彼の他の作品を探すこともせず仕舞。今すぐモロッコにとんぼ返りしたい気分になっている。)
♪
♪
♪