読書メモ:ロベルト・ボラーニョ『2666』

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 ロベルト・ボラーニョの小説『2666』を読破。その雑感メモ。


・ボラーニョの遺作『2666』は日本語版でも二段組 850ページを超える大長編。それも改行が少なくプルーストを思わせる長文も多い。読み終えられる自信はなかったが、最初から惹き付けられ、先が気になって読み続けることに。複数の物語が重なっていくため、普通の小説10冊分くらいはありそうな中味だった。

・全体は5部構成。それぞれを別の本として出版することがボラーニョの遺言として残された。しかし実際には分割して世に出ることは避けられた。第1部〜第4部はぞれぞれ異なった話。ただし互いの間に薄い接点を見出せるものもある。

・各部それぞれ、謎のドイツ人小説家アルチンボルディを研究する4人による追跡話と彼らの間の恋愛譚だったり、メキシコ北部の街で延々繰り返される殺人事件の記録だったり。最初普通の小説を読んでいる気分だったものが、ミステリーや、幻想小説や、ドキュメンタリーへと様々に変化する。時にガルシア=マルケスのような、ボルヘスのような、プルーストのような作品とも言えるだろうか?

・4部までのうち小説作品として一応完結しているのは第1部のみ。それも最大の謎が解き明かされないまま、次の話へと移っていく。2部以降も新たな謎が増えていくが、明快な答えにまでは辿り着かない。

・第4部はとにかく長い。この話はいったいどこに行き着くのだろうと不安にもなる。それでもカズオ・イシグロ『充たされざる者』を2度読んで鍛えられているので、どうにか乗り切れた。ここでも事件は解決しない。いまだ未解決の実話に基づいており、また事件の社会背景を描くことが主目的なので、そうしなかったという解釈もある。その一方で、犯人は暗示されていると取ることも可能だと思う。

・いよいよ第5部。「アルチンボルディの部」と謎解きが予告されているのだが…。4部までの4つの話がここで一点に収斂し、棚上げになっていた謎が全て解き明かされるのだろう。そう思って読み始めると、またしても全く新しい話が始まる(と感じられる)。非現実的な描写から戦記へと移っていくこの5部の前半が最もキツかった。

・第5部の後半、互いにほとんど独立した5つの話はそのまま並列関係を保ったまま読者に何かを印象づけて終わるのか、あるいは寄り添って行って最後にひとつの太い話へと完結するのか、はたまた全く予想外の結末が待っているのか。ここでは明かさないが、それは読み手の期待を裏切らないものだろう。

・ただし大満足とまでは言い切れない。各部ともこれで終わりなのかという物足りなさが解消しきれない。各部のモードがかなり異なっているので、本当に全体構造を明確に意識して書かれた長編なのかといった疑問も浮かんだ。著者が自身の死期を悟って、かねてから構想していた5つのプロットを力技で結びつけたのか、もっと長くなるはずだった話を自身の「死」を文字通りデッドラインにして書き終えたものなのか、などとも想像してしまう。

・作家の最大の関心は本。様々な本が人生を導き、生き方を学ばせ、人と人とを結びつけていく。それでいながら、本との巡りあいが人にとってのターニングポイントを生み出していくところの描写が物足りない。すぐにセックスに至るところも安易。これも「時間がない」ためか。

・何を物語り伝えようとしているのか、読了直後の今は理解しきれない。一度読んだだけでは、謎解きのヒントも、作品に込めたメッセージも、そのいくつかを読み落としていると感じる。そして小説の終わり方。ここから頭の中で新たに円環が回り始め、話を想像させる。これほど長い作品なのに、早くも2周目に入りたくさせられる、なんとも困った小説だ。


 最近も様々な小説を読み続けている。優れた小説を読むことは、まるでジャズの良質なフリーインプロビゼーションを聴くときの感覚に近いものがある。自由に感じ取り、自由に解釈可能なこの『2666』もそんな作品だった。











(メモ・・・ややネタバレ?)

 来年の適当な時期に読み終えられればいいと思っていたのだが、2月という早い段階で読了できたのは想定外。しかし、この作品は一気に読み切らないと話が解らなくなる。

 重量を量ってみると約1.2kg。片手で持って読むには重すぎる。旅先に持っていくのに相応しい本でもないが、読み始めると止まらない。スーツケースに入れて行き、ホテルの中でも朝と深夜に読みふけっていたのだった。

・マラソン読書の通過点

 1/28:読書スタート
  2/3 :第1部終了
  2/5 :第2部終了
  2/7 :第3部終了
  2/9 :中間点通過
 2/11:第4部終了

 P.752:ひとつ目の円環がつながる
 P.840:ふたつ目の円環がつながる

 2/19:読了!

 P.855:最大の謎は最後の1行にも満たない一文で解消する。


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 ロベルト・ボラーニョは『通話(EXLIBRIS) 』も読み終えたので、『野生の探偵たち』にも行ってしまおうかなぁ?






by desertjazz | 2013-02-19 23:59 | 本 - Readings

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