2013年 03月 01日
レーモン・ルーセルの小説と自由芸術展『レイモン・ルーセルの実験室』

歴史上、フランスのレーモン・ルーセル Raymond Roussel の作品ほど「変な小説」はないのではないだろうか。
『アフリカの印象』(1910年)は、アフリカの架空の国ポニュケレに漂着した客船の乗客たちが、王の広場で奇天烈な演芸を披露する話(…だったかな)。『ロクス・ソルス』(1914年)は、パリ郊外モンモランシーに住む科学者の邸宅に陳列されている発明品の数々を見てまわる話(…だったかな)。両者ともに、実際の地理や歴史を無視し、全く非現実的かつ非科学的な話に終始する。摩訶不思議な歌劇や不可思議な実験装置のようなものが、ただ羅列されるばかり。
まるで激しい妄想癖のある人間の長い夢を無理矢理見せられているかの印象。読んで役に立つことは皆無だし、読み終えて残るものも一切ない。それでいて2作ともかなり長い小説なので、途中フラストレーションを抱くこともしばしば。レーモン・ルーセルは富豪家に生まれたために働く必要がなく、だからこんな自身の白昼夢のような小説を著せたわけだ。とにかく、どこにも行かない閉鎖的な作品。レーモン・ルーセルを読むことは彼の時間浪費につきあわされるだけで、はっきり言って大いなる時間つぶし。
(名家出身だったので自分のための長い小説を書くだけの生活が許され、さほど長くない生涯を終えた点では、同じフランス人のマルセル・プルーストと似ている。)
だが、ルーセルの描写する仕掛けや装置のどれもが極めて奇天烈であり、ここまで不思議で複雑なものを妄想した力には感心してしまう。光や音の描写が美しいものだから(微かな風で響く糸や、目映い光沢の表現などが印象的だった)、果たしてどんな装置なのかと思わずその姿を想像して楽しんでしまうことにもなる。そこが特異な魅力。人生を豊かにするところは全くなく、もう一度読んでみようともなかなか思えない。それでも、最高度の奇想天外さは忘れがたく、たしかに面白い小説ではあった。
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そんなレーモン・ルーセルの機会仕掛けの装置を、なんと実際に作って展示するという。
・ 高橋士郎「自由芸術展」〜レイモン・ルーセルの実験室〜(公式サイト)
・ 高橋士郎「自由芸術展」〜レイモン・ルーセルの実験室〜(Facebook)
果たしてどんな展覧会になるのだろう。会期中(3/3 - 3/30)、時間をやりくりして見に行こうと思う。特に17日のトークイベントが気になっている。
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補足
1)レーモン・ルーセルに関しては岡谷公二の『レーモン・ルーセルの謎―彼はいかにして或る種の本を書いたか』が参考になった(というより、日本語による研究書はこれくらいしかない)。
2)レーモン・ルーセルがミシェル・レリスと親交があったというのは有名な話。だからアフリカに行ったこともないのに『アフリカの印象』なんて本を書いたのだろうか。ミシェル・レリスの『幻のアフリカ』は再読したい。
3)レーモン・ルーセルの翻訳は2冊だけだと思ったら、『額の星 無数の太陽』という作品集も出ていることに気がついた。内容は分からないが、在庫があったのでネットオーダーしてみた。
4)『ロクス・ソルス』を創案のひとつとした映画があった。以前ブログにも書いた記憶があるが、タイトルが思い出せない。あの幻想的な映像はもう一度観たい。
今日から3月。今月はいよいよ時間のやりくりが難しそう(?)だけれど、そろそろ『エル・グレコ展』にも行っておきたい。昨年4月にマドリッドで鑑賞した作品がどれも素晴らしかったので、日本でも彼の絵画を観られるといいな。
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