2013年 07月 22日
病の話3:白黒テレビ
「目が白黒になったことある?」
「どういうこと?」
「見えるもの全部に色がついていない。まるで白黒テレビを見ているみたいに…」
「ないよ」
「えっ、ないの?」
「あるはずないじゃない」
でも、私にはある。
小学生のとき、確か5年生くらいの頃だったと思う。
学校のトイレの梁に頭を強打してしまった。
なんでそんなことになったかという話は省略するが、とにかく額を正面から叩き付けた。
木造校舎だったので、頭が割れなかったことが幸いだったと言えるほどに。
気がつくと床に倒れていた。
なので、少しの時間意識を失っていたのだと思う。
立上がって前を眺めると、どうもおかしい。
それは色が全くないせいだとすぐに気がついた。
まるで白黒テレビを見ているかのような光景だった。
その瞬間、かすかに「ヤバイ」と思ったのだったか。
いやそれより、何とも言えない違和感に戸惑っていたように思う。
しかし、それもほんの一瞬の間のこと。
しばらく立ち尽くす間に、色は戻ってきた。
それはじんわりとだったような気もする。
いや、瞬間的なことだったかも知れない。
どちらだっかまでは憶えていない。
こうした体験は誰にでもあると、ずっと思っていた。
一時的に色を失うのは、単なる脳しんとうの一症状に過ぎないだろう。
頭に強烈な打撃を受けると、そのショックで脳神経が色信号の伝達なり分析なりを一時的に停止してしまうことがあるに違いないのだろうと。
しかし、最近オリヴァー・サックスの『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』の中の一章「色盲の画家」を読んで、これはほとんどあり得ないくらいに珍しい体験であると知った。
色のついた世界にすぐに戻ってこれたことを幸運だとも思う。
もしかしたら、あれは夢を見ていたのだろうか。
あの白黒映像は幻だったのだろうか。
いや、そんなはずはない。
白黒テレビのような残像は、いまでもしっかり脳裏に残っている。
それは何とも奇妙な景色だった。
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追記:
色付きの夢を見るという人が時々いる。
けれども、しれが自分にはそれが信じられない。
私の見る夢はつねにモノクロ。
何か関係あるのだろうか?
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