Oliver Mtukudzi | Bio & Discs (16) "Tuku Music" 1998

 北欧旅行などもあって2ヶ月近く間が空いてしまったけれど、オリヴァー・ムトゥクジ紹介の後半を再開。

(その北欧の街コペンハーゲンを歩いていて、アルバム "Ziwere MuKøbenhavn" について今更ながらの発見があった。そのこと第13回に少しだけ追記しました。)




 1990年代以降はジンバブウェを代表するミュージシャンとして世界中を飛び回り、アフリカン・ミュージックのビッグネームの座についたムトゥクジ。そのキャリアの後半、最近20年ほどの活動について俯瞰しようとしても、詳しく書かれたものを見た記憶がない。言い換えれば、どのミュージシャンも世に出て成功するまでのストーリーが面白いのであり、また90年代以降のムトゥクジの音楽活動は安定期に入ったということだろうか。

 実際、94年の "Ziwere MuKøbenhavn" あたりから昨年発表した最新作 "Sarawoga" まで、ほとんどどのアルバムもが素晴らしい。それらの中でも個人的に特に好きなアルバムが98年にリリースした "Tuku Music" である。出た当時これを聴いて、ムトゥクジの滋味深いサウンドの魅力をようやく認識した記憶もある。


44. Oliver Mutukudzi "Tuku Music" (Sheer Sound ATLAS 9004, 1998 / SSCD 042, 1999)

(1) Rirongere (2) Todii (3) Mabasa (4) Dzoka Uyamwe (5) Mai Varamba (6) Tsika Dzedu (7) Tapindwa Nei (8) Wake Up (9) Ndima Ndapendza
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 ムトゥクジの音楽は後年ほど、聴き手に対して生き方を示唆するような社会的/教育的メッセージ性を強めていく印象がある。この作品も同様で、未来を見据えて生きることを諭す歌 Rirongere でまず始まる。続く Todii は極めて美しいメロディーが頭から離れなくなる曲。彼の全キャリアを代表するナンバーのひとつと言えるだろう。この曲を有名にしているのには別の理由もあって、それはエイズ・ソングであること。エイズ惨禍を前にして「What shall I do with this (sad) situation?」といったメッセージを投げかけている。明るいメロディーだけに、耳を傾けていると意外とも思える歌の内容だ。続く3曲目 Mabasa もエイズと死にまつわる歌。8曲目 Wake Up の「Unite, don't waste your time」というメッセージも分かりやすく力強い。

YouTube | Todii

 ジンバブウェと南アの音楽をミックスしたビートを中心に据えたのが彼の TUKU MUSIC("Ziwere MuKøbenhavn" の裏ジャケットにも 'Mbira + Mbaqanga = Tuku Beat'、つまりジンバブウェのンビーラと南アのンバクァーンガをブレンドしたのが TUKU のビートだと宣言されている)。その TUKU のビートをこのアルバムでも存分に楽しめる。弾むビートをベースにした、現在にまで至る彼の音楽の基本型は。この時点で完全に完成している感がある。

 そしてもうひとつムトゥクジ・サウンドの重要な要素として確立しているのが、女性コーラス2人とのコール&リスポンスだ。これが実に優しい響きで心地いい。ライブでの Todii や Mai Varamba での暖かいやり取りなどは、長年のファンにはおなじみだろう。

 このアルバムは、彼の代名詞である TUKU MUSIC というタイトルを冠するに相応しい作品。間違いなく彼の代表作のひとつだと思う。




 90年代以降のアルバムは本当にどれもレベルが高くて甲乙つけがたい。どのアルバムを聴いても懐の深さと円熟味をたっぷり感じる。アフリカン・ジャイアンツに相応しい音楽ばかりだと思う(その一方で、音楽活動が常に安定していた訳ではなく、幾多の事件や悲劇にも襲われたのだった。そうした話は次回以降に)。

 気がつけば、もう来週末にはスキヤキ・ミーツ・ザ・ワールドが開催で、オリヴァー・ムトゥクジが日本にやってくる。来日公演前に終わらせたかったアルバム/ビデオ紹介はどうやら時間切れとなってしまいそう。"Tuku Music" 以降のアルバム紹介は公演後にのんびり書ければいいかな。

 このムトゥクジ紹介シリーズを書きながら彼の作品を改めてまとめて聴いてみて、特に惚れて聴き込んでしまったのは、"Ziwere MuKøbenhavn" (1994)、"Tuku Music" (1998)、"Tsimba Itsoka" (2007)、そして最新作 "Sarawoga" (2012) の4枚だった。いずれも CD か ダウンロード版を購入可能。"Sarawoga" は来日記念盤として国内盤も発売予定。


(つづく)





by desertjazz | 2013-08-11 00:00 | 音 - Africa

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