2013年 09月 11日
New Disc : Sakaki Mango "Karaimo Limba"
サカキマンゴーの新作『カライモ・リンバ』(10/7 発売予定)がとにかくいい! 出来立てほやほやの CD がスキヤキ・ミーツ・ザ・ワールドの会場に先行発売盤として持ち込まれたのを受け取り、それ以来毎日のように聴いている。(敬省略、以下同じ)
・ Sakaki Mango Official Site:KARAIMO LIMBA / SAKAKI MANGO
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サカキマンゴーというミュージシャンは、親指ピアノ演奏のイノベーターという特質が一番の魅力だと思う。タンザニアのリンバ、ジンバブウェのンビーラ、コンゴのリケンベなど、様々な親指ピアノをいずれも自在に弾きこなす。録音にもとことんこだわり、多様なエフェクトを施すことで、全く新たな親指ピアノ・サウンドを開拓し続けている。さらには iPhone/iPad 用親指ピアノのアプリケーションを開発したことも含めて、アフリカの伝統楽器のモダン化を貪欲に押し進めている。
その一方で、サカキマンゴーの歌がどんどん良くなっていっている。今回のソロ名義の新作を聴いて、歌にもいよいよ磨きがかかってきたなと強く感じた。
『カライモ・リンバ』は彼の代表曲のヴァリエーションを中心に構成されている。まず冒頭 「Intro -ゴッタン -」の三味線の音で意表を突く。これは南九州に伝わる箱三味線「ゴッタン」による演奏。その短いイントロを受けて続くのが "Chabakke"。「茶畑」の意味で、マンゴーが「故郷を歌った新曲」。Tr.3 と Tr.4 は "Hame" と "Small" のライブ録音。Tr.5 のインタールードの後の Tr.6 は "oi!limba" の"IOTOI" を再収録。Tr.7「イッダマシのうた」は地元テレビ局番組用に書き下ろした新曲。「適当」を意味する「てげてげ」のフレーズが印象的。Tr.8 はインタールドとしてサカキマンゴー親子の電話での会話を収録。Tr.9「茶わんむしのデジタル・クンビア」は "oi!limba" 中の人気曲のペルネット Pernett が参加したクンビア・ヴァージョン。そして最後の Tr.10 は県立高校のゴッタン同好会も参加したダブ・ミックス "Dub Kagoshimana"。
このように新作『カライモ・リンバ』は「鹿児島」を全面に出した作品。その最大の特徴は全編鹿児島弁、それも鹿児島最南部の頴娃(えい)町の方言を駆使していることである(タイトルのカライモ(唐芋)からして、鹿児島弁で「さつまいも」を意味する)。歌詞の意味は分からなくとも、マンゴーの歌い口はほのぼのとした耳当たりで心地よい。どこかすっとぼけたような味もある節回しのせいで、ついつい繰り返し聴いてしまう(ペルネットにも鹿児島弁で歌わせていて、これもまた一興)。いや、歌が実にいい!
ありがたいことに全曲とも「標準語訳」がついている。なので、鹿児島県人でなくても歌の意味くらいは知ることができる(残念ながら Tr.8 の親子会話は意味不明)。これらを読むと、鹿児島の長閑な風景が浮かんでくるようで、サカキマンゴーの郷里に対する愛情がひしひしと伝わってくる。箱三味線や県民(テレビ番組スタッフや高校生)を起用しているのも、地元密着振りの表れだろう。
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もうひとつ、今回の新作で私にとって最大の注目点は "Hame" と "Small" のライブ・ヴァージョンが収録されたこと。前者は 2005年のアルバム "Limba Train" で発表された曲(サカキマンゴー自身が書いたアルバム解説によると、故郷の「浜」について書いていて「初めて形になった」鹿児島弁の歌だとのこと)。後者は前作 2011年の "oi!limba" のラストに収録された彼の代表曲。どちらもスキヤキ・ミーツ・ザ・ワールドの会場で録音されたテイクである(2010年と2011年)。その両方とも会場ヘリオスのステージを間近から見上げていたので、自分の息づかいも一緒に記録されているように思えて感慨深い。
今年7月に急逝したチウォニーソ Chiwoniso も参加した Sukiafrica "Sukiyaki Allstars" による "Hame" もいいが、その翌年の日本/韓国/メキシコ混成ユニット Cuatro Sukiyaki Minimal による "Small" が断然素晴らしい。
今日からちょうど2年半前に起こった大震災以降、多くのミュージシャンたちは音楽する意味について思い悩んだ。そのことは聴き手にとっても同じだった。人々の傷んだ心は音楽によって簡単に「癒される」ことはなかった。私自身もそのひとりだったと思う。音楽を聴いても昔のように楽しく感じることができない。そのような状態が続いていた。
しかし、その年の8月の終わりに富山のスキヤキでサカキマンゴーの歌う "Small" を聴いて、心の中に留まっていた重たいものがスッと抜けて、少しだけ身体も軽くなったような記憶がある。ここ2年半を振り返ってみて、その間で音楽を聴いて最も感動した瞬間だった。
"Small" は 3.11 に起こった大震災とその後の状況を受けて書かれた曲。歌詞をじっくり読むとこれが「嘆きの歌」であることが分かるだろう。それなのに、聴いているとなぜか心が安らいでもくる。とても不思議な力を持った名曲だと思う。
その後 Sakaki Mango & LTSS(Limba Train Sound System)としてのライブでもこの曲を聴いたことがある。だがその時は歌い叫ぶ激情溢れた演奏だった。それは「嘆きの歌」がただ嘆きだけで終わっているように思えて、正直なところ聴いていて辛かった。だから "Small" という曲は、スタジオでソロ録音されたアルバム・ヴァージョンとこのスキヤキ・ヴァージョンが自分にとってはベスト(その後、ライブでどのように演奏されているかは知らない)。それだけに、スキヤキで演奏した "Small" が公式録音として残るというのは、正に特筆すべきことだ。
繰り返すが、"Small" は真の名曲である。それを支えているのはサカキマンゴーが内に秘めている「芯の強さ」だと思う。先にも書いた通り「どこかすっとぼけたような」歌も持ち味。彼は日頃からユーモアを絶やさず、熱くも多くも語らないが、強い信念を持って音楽に向かっているのだと思う。今年のスキヤキで「再稼働反対!」のサンプルループをバックにしての演奏でもそれを感じた。また、それがあるからこそ、多くの音楽関係者が彼に引き寄せられ、スキヤキで毎年恒例となっている(今年で4年目)スペシャル・ユニットも即興性と実験性だけに終わらず成功し続けているのだろう。
サカキマンゴーというミュージシャンと出会い、その音楽を同時代に聴き続けられるというのは、本当に幸せなことだと思う。
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(ディスクと資料を提供してくださったサカキマンゴーさんとプロデューサーの田中聖子さん、どうもありがとう!)
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