2013年 09月 14日
Guide to Moussu T e Lei Jovents (1)
ムッスー・テ & レイ・ジューヴァン Moussu T e Lei Jovents は、フランス南部の中心都市マルセイユ近く東隣の港町ラ・シオタ La Ciotat に暮らすミュージシャンたちのバンド。マルセイユを代表するバンド、マッシリ・サウンド・システム Massilia Sound System (MSS) の創設者でフロント MC のひとりでもあるタトゥー Tatou、同じく MSS のギタリストのブルー(ブリュー)Blu、それにパーカッション奏者のジャミルソン Jamilson の3人により 2004年に結成された。バンド名のムッスーはタトゥーの呼称にひとつでもある(バンド名は「ムッスーTと若者たち」といった意味)。
MSS はレゲエ、ラガをベースに、打ち込みやエレクトリックなサウンドも導入したダンサブルで現代的な音楽により、若者たちを中心に熱狂的なファンを獲得。長年に渡ってトゥールーズのゼブダ Zebda と並ぶオクシタニア圏の2大グループの座にある。それに対してムッスーTのサウンドは、1920〜30年代のマルセイユで世界中の様々な音楽が交差しあった状況にインスパアされたもの。フランスのシャンソンやオペレットはもちろん、当時マルセイユで大人気を博したブルース、ジャズ、西インド諸島の音楽、ブラジル音楽など、さらにはフレンチ・ミュゼや周辺地域のポリフォニー・コーラスなどの要素まで取り込んだ音作りをしている。ブラジル音楽、特にノルデスチからの影響の強さはしばし指摘されているとおり。そうした結果、アコースティック感が強くノスタルジーを感じさせるものになっている。
バンド・サウンドは、タトゥーの歌(ブルーらも歌う)とブルーのギターとバンジョーがその中心。レコーディング/ライブではドラムとパーカッションも加わり、タトゥーの吹くカズーもいいアクセントになっている。2005年発表のファースト・アルバム "Mademoiselle Marseille" はジャミルソン含めた3人でレコーディングを行ったが、セカンド "Forever Polida"(2006年)以降はゼルビーノ Zerbino がドラム奏者として加入。ゼルビーノも中心メンバーとして活動した期間がしばらく続いたが数年前に脱退(彼は元々ジャズ/ハードロック指向の強いプレイヤーだった)。今春発表したスタジオ録音5作目 "Artemis" ではパーカッション奏者として Deli K、Denis、Jamilson の3人が参加。今月の日本公演もこの3人を加えた5人編成でライブを行う予定。
だいたいどの曲でもブルーがギターとバンジョーを多重録音している(ライブでどうしているかについては後述予定)。2006年にマルセイユでタトゥーに会ってインタビューした際、クロード・マッケイ Claude McKay の小説 "Banjo" に大きな影響を受けたと語っていた。
オクシタン圏のグループゆえ、MSS と同様にフランス語とオック語を交えた歌詞を歌っている。
私見を少々…。ムッスーTのサウンドの魅力はたくさんあるけれど、いつくか並べてみると、
1)メロディーがいい。
2)タトゥーの枯れた歌声がいい。
3)ギターとバンジョーのコンビネーションがいい。
4)明るくて楽しくて親しみやすいサウンドが半分。
5)切なくてノスタルジックで心暖まるサウンドがもう半分。
そうした要素が混じり合うことで、ポップで誰にとっても分かりやすく一緒に歌いながら踊りたくなるような、それでいて深い人間味を感じさせる、とっても「味のある」サウンドに仕上がっている。
こうしたサウンドは、マルセイユとラ・シオタの歴史と風土と環境があってこそ生まれたものだと思う。ジャック・ペパン『エイズの起源』を読むとマルセイユが欧州における熱帯病研究の一大拠点だったことが分かるし(ベルギーのアントワープ以上)、最近読んだランボー関連書数冊にもランボーがマルセイユからエチオピア方面に向かっていった記述が出て来る。いや最近、少し古いことについて書かれた欧州の書物を読む度にマルセイユが登場し、長年ここがアフリカに限らず世界への窓口になっていた様子がひしひしと伝わってきたのだった。
フランスから東西に伸びる地中海沿岸をドライブしたことのある方、ラ・シオタを訪ねたことのある方ならお分かりかと思うが、晴れた日のこの海岸沿線は実に美しく、のどか。マルセイユがセカンドキャピタルとしての共通点から大阪としばしば比較されるように、その庶民性も魅力である。ラ・シオタには一度だけ行ったことがあるが、本当に雰囲気の良い街だった(タトゥーとブルー、ジャミルソンは今でもここで暮らしている。ただし、タトゥーはパリで生まれ育ったはず)。MSS とムッスーTが制作したビデオの数々を観ても、そのことが十分に伝わってくる。
ムッスーTの音楽は、このような歴史ある素敵な土地で暮らし続ける男たちだからこそ生み出すことのできた「味のある」サウンドなのだと思う。
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(トップの写真は 2006年10月にマルセイユで開催中の Fiesta des Suds で撮影したもの。バンド結成ほどない頃に彼らのステージを観られたのはラッキーだった!
この時の写真がずいぶん少ないので不思議に思ったのだが、まだフィルムで撮っていたのだった。しかも安い一眼+暗いレンズを使った、ステージから離れた2階関係者席からのショット。クオリティー低いのは、どうかご容赦を。)
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ということで、「ムッスーT来日直前集中講座」スタート??
(つづく)
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