Balestrand, Norway 2013/07/07

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 奈良の原生林の話のつづき。


 先月、奈良 春日大社からその裏手に伸びる奥の院道の、そのまた最奥に建つ紀伊神社を訪れ、森の中で腰を下ろして周囲の音をじっくり堪能していたときのこと。静かな響きに心がどんどん穏やかになっていき、ここからもうどこへも動きたくないとさえ思い始めた頃、なぜか同時に、今年初夏に旅したノルウェーの光景が頭に浮かんできた。それも旅の途中で飽きるほど観た数々の絶景ではなくて、深夜の曇天の景色だった。

 先の北欧旅行では、デンマークのコペンハーゲン、スウェーデンのマルメ、ノルウェーのオスロといった街歩きを楽しんだ後、北上してソグネフィヨルドへ向かった。世界遺産にも登録された見事な景観も、快晴の下でのトレッキングも申し分なかった。けれども、思い出すことが多いのは、日本のガイドブックには載っていないような街バレストランド Balestrand のホテルからの眺めだ。

 7月7日、夜遅くになっても白夜の明かりが残る中、目の前のソグネフィヨルドの一角の上には一面の雲。まるで杉本博司の写真かのような「モノクロ映像」で、そこを流れる雲をじっと見つめていた(写真は24時頃に撮影)。そして聴こえてくるのは、ゆったりした波音ばかり(時おり海鳥の叫びが邪魔になったが)。この景色を眺め、音に身を預けていると、もう何もいらなくなる。いくら見続けていても全く飽きない。気持ちが安らぐばかり。今ここに居られることに感謝する。こうしたように、空間に対して目と耳が釘づけになり、どんどん心が静まっていく感覚というのは、奈良の原生林にいるときの感覚とほとんど一緒である。それでバレストランドの夜を自然と思い出したのだろう。

 考えて見ると、例えばバリ島ウブドゥの森の音空間でも似た感覚が浮かぶ。虫や鳥や水音が騒々しいので、音の質的には奈良の森などとは対極にある。それでもバリの音には、うるさいんだけれど感覚的には静かだという不思議さがある。自分がウブドゥで常宿にしているボチュヴュー Bucu View Banglows に求めているのもそんな音空間だ。


 昔は旅している最中に旅日記を毎日ノートに何ページも書いていた。その分量が年々少なくなったし、帰国後に旅行記をまとめることも無理にはしなくなってきた。それは、こうした特別に落ち着ける空間を見つけた時、そこに自らをただただ浸し、それによる快楽を満喫するだけでいいと感じているからなのかも知れない。至福の空間と出会った時点で、旅はいったん完結しており、何かを語るなど、それ以上のことは蛇足なのではないか。旅の記録を整理する作業が進まないのをもどかしく思いながら、最近はそんなことも感じている。






by desertjazz | 2013-10-29 00:00 | 旅 - Abroad

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