Moroccan Music in 50/60s (2) : Kassidat

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 世界各地のヴィンテージ・コレクションを愛情たっぷりかつ過度なまでにマニアックに紹介しているレーベル Dust to Digital からの新作 "Kassidat : Raw 45s from Morocco" がいい。どこがいいかと言うと、ブックレットの解説がとりわけいい。

 アフリカ大陸の音楽は人並み程度には聴いているつもり。でも、まだまだ知らないことばかり。特にモロッコについては何も分かっていないに等しい。例えば、古くからの伝承音楽がどう今の大衆音楽(シャービ)に繋がっているのか、それを知るに相応しい録音はほとんど聴けていないし、満足できるレベルの文献も見つけられていない。

 その点 "Kassidat : Raw 45s from Morocco" の解説には、モロッコ大衆音楽の代名詞シャービ、マラケシュを中心に歩いた吟遊詩人/門付芸人ルワイス(ルワイェ)の歌芸、アルジェリアからの影響濃いライ、ゲンブリを主楽器とする3種類の音楽、モロッコ中部で栄えた男女混成歌アイタなど、モロッコのベルベル人による主要な音楽スタイルについて、その背景や使用される楽器についても含めて詳しく書かれていて、読みごたえがある。

 モロッコは元々ベルベル人の土地であったが、8世紀にイスラムが到来して以降アラブ化が進んだ。ベルベルの音楽は主に地方アラビア語(方言)で歌われ、20世紀には様々な外来音楽、中でもエジプト音楽に大きな影響を受けて発展、変化していく。"Kassidat" の収録曲はそうして辿り着いた60年代のベルベルの音楽なのだが、それらは70年代に入ると消えていった。そうした内容を導入部にする解説のうち、個人的に大いに参考になったのは、シャービとルワイスに関する部分だった。

・シャービ Chaabi

 元々はマラケシュなどの市場で生まれたストリートミュージック。それがベルベルの伝統的要素と外来の新しい要素を混ぜ込んだハイブリッドな音楽として進化する。40年代にその役割を中心に担ったのは Houcine Slaoui だった。シャービはウードの弾き語りに、笛やヴァイオリン、数々のモロッコのパーカションが加わり、コール&レスポンスを特徴とする。それは60年代に盛んになり、結婚式や祝祭の場で奏でられた。Houcine Slaoui が築いたシャービの基本スタイルは70年代まで影響を持ったという。

・ルワイス Rwais (Rwayes とも?)

 ルワイス(単数型だとルワイェ Rwaye ?)は Rais をリーダーとするプロの音楽集団。初期には一弦フィドルのリバーブ(ribab、rabab または rebab)を弾く Rais のもので、Rais たちは詩人、社会批評家、コメディアンとして振る舞った。後に3弦(4弦も)楽器ロタール(lotar)の伴奏も加わったスタイルが一般化していく。これらはペンタトニックの音階をもつ。
 ルワイスの最初の録音は1926年フランスの Pathé によるもの。1940年代にはプロの演奏家による初のスタジオ録音として Rais Hadj Belaid のものが記録された。50年代には音楽的変化が進み、60年代にはルワイス最大のレーベル Koutoubiaphone が数多くのレコードをプレスした。ルワイスのグループは、それまでマラケシュのジャマ・エル・フナ広場で主に演奏していたが、60年代にはキャバレーなどにも移り、観光客相手への活動も拡げていった。

(以上の2項は、他の資料も参照してまとめてみた。)

 参考になったことのもうひとつは、モロッコのローカルレーベルの変遷について書かれた部分。モロッコにおいて初期のレコード産業は全て海外の会社(ほとんどがヨーロッパ)に支配されていた。それが1950年代にまず地元レーベルの Boudroiphone が78回転盤をプレスを開始し、それに Orikaphone などが続いた。そして、より安価な45回転盤が登場することによって、Atlassiphone、Koutoubiaphone、Kawakibphone、Orikaphone、Moussaouiphone、Mekaouiphone、Boussiphone といったレーベルも誕生。これらは全てカサブランカを拠点としていて、カサブランカがモロッコのレコード制作の中心になっていったという。

 "Kassidat" にはそうしたローカルレーベルからリリースされた45回転盤から6トラック選ばれている。解説を読みながら聴くと、60年頃のモロッコ大衆音楽の概要を幾分かでも掴めるのかもしれない。その一方で、わずかに6つしか収録しなかったのがどうしてなのか理解できないし(せめて各スタイル2曲ずつは欲しかった)、収録曲がベストのものだったのかまだ判断がつかず、CDジャケットに掲載されたレコードの音源を収録していないのは何故なのかといった疑問も浮かぶ。

 しかしそうした不満を解消してくれるのが、El Sur Records がリイシューした2枚のコンピレーション盤である。"Kassidat" の解説には「Koutoubiaphone がモロッコ最大のルワイス・レーベルだった」といったことが書かれている。エル・スール盤はその Koutoubiaphon 音源に焦点を当て、ルワイスを中心に60年代のベルベル音楽をたっぷり紹介しており、"Kassidat" を合わせて聴くといろいろな発見があって興味深い。

 ちなみに "Kassidat" はベルベルの言葉で「詩/詩情」を意味するという。モロッコ音楽は、リズム、歌、そして歌詞が重視されるらしい。手元の7インチ盤を見ても、確かに Kassidat とタイトルされた曲が結構ある。


(つづく)




(追記)

 説明を読むよりも動画を見た方が分かりやすい。例えばこれなどはルワイスの典型なのではないだろうか?

Rwais Asni Morocco 1998 PT1.mov






by desertjazz | 2013-11-03 00:00 | Sound - Africa

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