2014年 03月 01日
Manu Theron / Lo Cor de la Plana (9) - In Japan 2014

マルセイユの5人組ポリフォニー・コーラス、ロ・コール・デ・ラ・プラーナ(ルー・クワール・デ・ラ・プラーノ)の東京公演を観てきた。彼らの来日公演の話は過去2回流れているので、待望の初来日だ。
ロ・コール・デ・ラ・プラーナは2001年にマニュ・テロン Manu Théron を中心に結成された男声6人組(現在はひとり減って5人編成)。マルセイユやイタリアなどのポリフォニー・コーラスをベースに、マグレブや東欧、イランあたりまでの音楽までも視野に入れたオリジナル性の高い音楽を生み出している。歌の多くはフランス南部オクシタン域の伝統歌/詩に基づいており、オクシタン語で歌われる。そのような彼らの声に加わる楽器(音)は、タム程度の大きさの太鼓1つと、マグレブのフレームドラム(ハンドドラム)であるベンディールが大小3個ほどと、ハンドクラップと、足踏み程度(スタジオ作では、そこにごくわずかにエレクトリックな音も混じったりするが)。
(参考)マニュ・テロン・インタビュー
私が彼らのライブを観るのは、2006年10日26日のマルセイユ、2009年10月4日の台湾に続く3度目。彼らのファースト・アルバム "Es Lo Titre" のリリースが 2003年、セカンド "Tant Deman" が 2007年、最新作のサード "Marcha !" が2012年なので、タイミング良くそれぞれのアルバム発表後のライブを観てきたことになる。
8年前のマルセイユのフェス Fiesta des Suds では、6人組時代のステージを観た。フェス特有の観客たちとの一体感や、地元のファンファーレ・グループ Aupres de ma Blonde との共演の遊びや、長さ数メートルもある巨大なポリ袋で音を鳴らしたりする実験性などがまぜこぜになって、祝祭性の高いものだった。とくに彼らのライブのハイライト曲 "La Noviota" で巻き起こった高速輪舞の楽しさは忘れられない。
(参考)Lo Cor de la Plana in Marseille 2006
対して4年前の台北公演は中山堂の大ホールで開催されたもの。ここは音響がとても良く、ロ・コールのメンバーたちもその長い残響を味わうかのような歌いぶりだった。マニュは曲ごとに音叉で音程を確認し、5人が輪になって互いの声を確かめ合うような姿が印象的だった。それも終盤には、弾けて楽しいステージへと盛り上がっていったのだが。
(参考)Lo Cor de la Plana in Taipei 2009
つまりロ・コールの音楽は大きく2つのスタイルに分けて捉えることができる。例えば教会音楽を連想させるような純然たるコーラスと、ベンディールが激しく打ち鳴らされ勇ましい足踏みが加わるもの。もちろんこれらは全く二分されるものではなく、ひとつの曲の中でも2つのフェイズが交互に展開もしていくのだが。
さて、今回の東京公演の会場は銀座の王子ホール。ここは普段はクラシック、それも室内楽などの公演が多いようだ(会場で知人に言われて思い出したのだが、アゼルバイジャンのアリム・カシモフとフェルナーガ・カシモフの父娘の歌もここで聴いたのだった)。ならば台湾公演に似たものになるだろうと予測。生憎の雨の中会場に辿りつくと、まずプログラムが手渡され、公演曲目も明記されている。
およそ300の座席を見回しても、文化度の高そうな?ご婦人方が多い。この会場の常連客の方々がある程度を占めているようだ。10人弱集まった友人たちを除くと、ワールドミュージック・ファンも、話題になった BS番組 "Amazing Voice" で知って来た風の人も少ないように感じた。これは結構なアウェイ感。これから出て来るメンバーたちにとっても同様だろうと想像された。
さて、いつもと同じくブルージンズに黒のシャツを着て登場した5人、1曲目は "Despartida"(別離)。まだ場の響きを探るような声の合わせ方で、やや不安定さも残しながら美しいコーラスを披露。純クラシック的展開になるのかと思いきや、2曲目 "Sant Trofima"(聖トロフィマ)で早くもベンディールを打ち鳴らし、いつものパフォーマンスになっていった。
その後も、絶品もののコーラスと打楽器交えたリズミカルなものとを互いに繰り広げるステージが続く。それでも室内楽的な雰囲気は絶えなかった。会場があまり広くない分、残響が短く、中山堂の方がずっと教会コーラス風に聞こえたほどだったのでもあるが。
今回王子ホールで観て良かったことのひとつは、彼らのコーラスの作りをじっくり観察できたこと。時に5人がユニゾンで、時にマニュと他のメンバーとが全く違ったフレーズを歌っている構造がよく分かった。驚いたのは3曲目の "Noste Pais"(われらが国)。マニュが下手でリードを取っている間、上手で3人が円陣を組んで音程変化なしにコーラスしているのだが、これがノンブレスにしか聞こえない。3人が聴き手に分からないように順番に息継ぎをして何分も続く通奏音を生み出していたのだろう。このテクニックには舌を巻いた。
公演全体を通じて思ったのは、今回の公演演目の大半を締める最新作 "Marcha !" の曲の見せ方をとても工夫しているということ。マルセイユと台北では6人(5人)が横一線になって定位置を離れた印象が乏しかった。それが今回は絶えず動き回って「舞台演出」している。時にはユーモラスな味付けもさりげなく交えて笑いを誘う。随所に工夫の見られたステージングだった。
それでもどこか物足りない。何が足りないのだろうと考え続けて、途中でようやく気がついた。ほとんど足踏みをしていないのだ。せいぜい軽くリズムを取る程度。力強い足踏みが加わらないと幾分ダイナミックさに欠ける。
今回このような演じ方を選んだのは、ロ・コールのメンバーたちだったのだろうか? アルバムの楽曲に沿ったアレンジだったのだろうか? それとも会場の特性に従ったものだったのだろうか?(クラシックは聴かないので予備知識を持っておらず、ステージを傷めないために足踏みを禁止しているのだろうかと勝手に想像した。)
それでも、ラストの "La Libertat" とアンコールの2曲 "La Vielha"(老婆)と "La Noviota"(花嫁)に至ってようやく少し足踏みが強まったのだけれど…。うーん、足踏みが乏しく聞こえたのは単なる気のせいだったか? あるいはステージの板が鳴らない丈夫さを持っているというだけのことか?
ロ・コール・デ・ラ・プラーナの人気は日本でも高まっており、すでに再来日公演のプランもあると聞く。その際、個人的要望として、クラシック向きの会場以外での公演も実現していただけないだろうか。もちろんコーラスの美しさ、素晴らしさは言うまでもないが、強靭なリズムに乗って生まれるトランシーなサウンドもまた彼らのライブの大きな魅力だと思う(それが時に祝祭的な高揚感さえもたらす)。なので、次回はワールド・ミュージック愛好家や一般の音楽ファン向けのライブも企画して下さるよう是非お願いしたい。
日本でも "La Noviota" を聴きながら、祭気分でグルグル回りたかった。これが今回唯一の心残り。
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翌 2月28日は会場を横浜国立大学に移して開催された「地中海の”声の文化”ポリフォニー〜南フランス編」へ。ここに Lo Cor de la Plana がゲスト出演してくれて、なんと4度も実演。トータル1時間以上歌ってくれたのではないだろうか。その間ずっと最前列で眼と耳を釘付けにして観て/聴いていた。普段のコンサートでは見られないような特別なパフォーマンスまで披露してくれて。こんな素晴らしいものを極少人数でたっぷり堪能ききたなんて、あまりに贅沢すぎる!
長くなったので、詳細は改めて別の記事で。
(つづく)
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