2014年 09月 15日
読書メモ:チヌア・アチェベ『崩れゆく絆』
チヌア・アチェベ『崩れゆく絆』読了。「アフリカ文学の父の最高傑作」と称される通り、とてつもない傑作だ。買って1日で一気に読んでしまった。
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昨年3月にナイジェリア(イボ系)の偉大な作家、チヌア・アチェベ Chinua Achebe が亡くなった。その時、アチェベは1冊も読んでいなかったかもと思って調べてみたら、邦訳は全て絶版/品切れで手に入る本はなかった。アフリカ英文学を専門とする知人にそのことを問うと、「翻訳権の問題から新たに日本語訳を出すのは難しい状況です。でも間もなく出る見込みです」とのことだった(その問題は、中小出版社が版権を持ってることから時々生ずるもの、と書けば分かりますね)。
それを聞いて邦訳は取りあえず諦め、米 Anchorbooks 版を購入。まず "Things Fall Apart" から読み始めた。しかし、英語が苦手なものだからさっぱり進まず、何度も最初から読み返すことになってしまった。
そんな折、この作品の新訳が昨年12月に光文社からすでに出版されていることに偶然気がついた(遅過ぎ!)。それで慌てて『崩れゆく絆』を取り寄せた次第。
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・ナイジェリア東南部(イボ人)の伝統社会を見事に描写し、それが白人(英国人)の到来によって崩壊していく様を描いた小説。簡単に言ってしまえば、そういった話なのだが、それだけでは余りに表層的な読み方。
・まず第1部、伝統社会の描写が圧巻。様々な風習や文化や思想などが瑞々しく描かれている。注釈含めて200ページに満たないものの、それは極めて多岐に渡っており、とてもテンポ良い筆致で、ある種の掌話のオムニバスにもなっている。言語でイボ語だった部分などの注釈も役立った(訳者は悩んだらしいが、これだけでも邦訳の価値を高めている)。
・第1部のことわざや物語やエピソードの数々は、後半の展開と密接に結びつき、作品全体を通じて伝わってくる数多いテーマとも通じ合っている。全体と細部とが複雑に結びつく入れ子構造が見事だ。
・長い歴史の中で培われて来たアフリカ伝統社会の風習や約束事の利点や美しさに魅入られノスタルジックな気分にもなるが、そこに内在する矛盾点も詳らかにする。その一方で、白人の到来がアフリカの人びとにそういった矛盾点を気がつかせる点も含めて、白人が絶対悪とも言い切れない可能性について考えさせられる。それにしても、白人たちの狡猾さには虫酸以上のものを感じる。現実はそれを遥かに超えるものだったのだろう。亀の物語による比喩が見事。
・・・と雑感を書き始めると止まらない。とにかくアフリカの社会について、実に様々なことを考えさせる名作。36年振りの新訳出版を機に、アフリカに関心を持つ多くの人に読まれて欲しいと思う。
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"Arrow Of God" の邦訳『神の矢』も出ないかなぁ。原書はまだ1ページも読んでいない。
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