2015年 01月 18日
読書メモ:鈴木裕之『恋する文化人類学者 結婚を通して異文化を理解する』
鈴木裕之の新著『恋する文化人類学者 結婚を通して異文化を理解する』(世界思想社)を読了。面白くてほとんど一気に読み終えてしまった。
(毎日新聞社の記者、城島徹さんからメールでご紹介いただいて知った本。城島徹さんによる書評もあり。→ 「幸せの学び:<その118> 恋する文化人類学者」)
文化人類学者の鈴木氏がギニア出身のダンサー、ニャマ・カンテさんと結婚されていることは、昔からアフリカ音楽を聴いている人にとっては割と馴染みのある話。鈴木氏の講演の際にニャマ・カンテさんがダンスを披露する機会も多いので、そうしたステージを直に観た経験のある人も多いだろう。
そんなお二人の出会いから結婚生活に至るまでの思い出話やエピソードをまとめたものかとも思って読み始めた。実際、鈴木氏のような貴重な体験者でなければ語れない話がユーモアを交えて語られる。また西アフリカ音楽ファンにとって参考になる情報も繰り返し登場する(ギニアにポピュラー音楽が国策として誕生した辺りは詳しく書かれており、ギニア最初(と書かれているが正しくないのでは?)のポップ・バンド Horoya Band のベーシストをニャマ・カンテの父が担当したなど、初めて知ることや忘れていたことも多かった)。
しかし、この本はまず何よりも、これから文化人類学を志そうとする大学初年度の学生あたりを対象に書かれた「学術書」である。文化人類学の基本的概念のうちで主要なもののいくつか、あるいは文化人類学の歴史について、鈴木氏自身の結婚という実例を要所々々で対照しつつ語られる。クロード・レヴィ=ストロースやコリン・ターンブルについても魅力的に紹介されているところもいい。
著者は最後の方で、異文化を理解することの重要性を強調している。2015年が明けても、日本各地から、そして世界中から、異文化間の対立が繰り返し報道され、ネットを通じてそうした情報が飛び交っている。そして、「対立」を煽り新たに生み出し利用しようとする勢力が伸張することに、大いに危機感を抱かざるを得ない(個人的には今年を象徴するキーワードはすでに「対立」で決まりだと思っている)。そんな時代、もう一度異文化を正しく理解し不要な対立を避けようとする努力が必要だと思う。この本はそのためのヒントも与えてくれることだろう。
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補足
1)この本の良さは、巻末の「注」(18ページにも及ぶ)が参考図書の紹介として優れているところにもある。私も若いころからアフリカやインドネシアに関心を持っていたので、ここで基本文献として挙げられて本はかなり所有/読了している。なのでこうした紹介文を読むと、どれもを再読したくなる。中には、そろそろ捨てようと思っていた本が「入手困難」と紹介されていたのでは、やっぱり捨てないでおこうかと思ってしまい困りもの。もちろん持っていない本の方が圧倒的に多く、未読な分だけより惹かれてしまう(・・・ので、ネットを利用して安い中古本を探して買い始めてしまった。本はあまり買わないことにしたのだけれど…)。
2)西アフリカやマグレブのミュージック・ビデオの中には、誰か分からないオーディエンス?がやたらと映り込んで退屈なものが多い。しかし、この本を読んで、なるほど!と謎が解けた。 同じようにアフリカのビデオの退屈さを感じたことのある人なら P.221 からだけでも読んでみると面白いと思うかもしれない。
3)鈴木裕之氏は「鈴木ひろゆき」名で訳書を2冊出している。
・マビヌオリ・カヨデ・イドウ『フェラ・クティ 戦うアフロ・ビートの伝説』(晶文社)
・エレン・リー『アフリカン・ロッカーズ』(JICC)
『アフリカン・ロッカーズ』を久し振りに捲ってみたら、ギニアやセネガルのポップスなどについて気になることがたくさん書かれている。これは早々に読み直したい。
彼の著書は『ストリートの歌 現代アフリカの若者文化』も持っているはずなのだけれど、なぜか見つからない…。(どこに隠れた!?)
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