2015年 03月 14日
New Disc : Dupain "Sòrga"(私的レビュー)
21世紀になってから作られたありとあらゆるアルバムの中で、個人的に一番好きなのはデュパン Dupain の大傑作 "Les Vivants" (2005) だろうかと思う。それからちょうど10年。今年 3/16 にフランスでリリースされる彼らの4作目 "Sòrga" はその "Les Vivants" を超える作品になったかも知れない。
・ Dupain "Sòrga"
新生デュパンの大きなポイントはメンバーが入れ替わり5人に増えたこと。もちろんサム・カルペイニア Sam Karpienia とピエロー ローレン・ベルトリーノ Pierre-Laurent Bertolino の主軸2人は不動だが、ドラムとベースが交代し(ベースはウッドのコントラバスに)、新たにフルート奏者が加わった。ファースト "L'Usina" (2001) ではトリオ編成だったものが、セカンド "Camina" (2002) とサード "Les Vivants" では4人になり(そしてサムはデュパンではセカンド・アルバムからマンドールを弾き始めた)、今回さらに5人へと増えた変遷は、同じくメンバーを増やしていった Moussu T e Lei Jovents とちょっと似たものがある。バンド編成の違いはサウンドの変化にも顕著に現れているので、前作と新作とは単純に比較可能とは言い切れない。
この作品はマクサンス・ベルナイム・ド・ヴィリエ(Maxence Bernheim de Villiers)なる不詳の詩人が1958年にオック語/仏語で出版した詩集 "Sòrga" にサムがインスパイアされて生まれたとのこと。歌詞は全てこの詩集から引用されているようだ。マルセイユのミュージシャンたちが文学から刺激や影響を受け続けていることは、クロード・マッケイ Claude McKay の小説 "Banjo" がひとつのきっかけとなって Moussu T e Lei Jovents が誕生したり(→ 参考)、Dupain、D'aqui Dub、Jan-Mari Carlotti、Massilia Sound System、Lo Cor de la Plana、Lei Coralas dau Lamparo、Chin Na Na Poun といった面々が19世紀のマルセイユの詩人(でいい?)ヴィクトル・ゲル Victor Gelu のCDブック(CD付きのブックレットと表現した方が正確か?)"Poete du Peuple Marseillais Chansons Provencales Victor Gelu" を制作したことなども連想させる。
CD "Sòrga" のブックレットにはオック語/仏語の歌詞が併記されているだけでなく、英語訳詩も並べられている。これは「美しくミステリアスだが意味のはっきりしない詩の雰囲気」を伝えるための試みとのことで、サムがそれだけ詩を重視している証拠だろう。英語詩だけひととおり目を通してみた。意味は分からないものの、サウンドを聴きながらイメージを浮かべるのには一役買うのではないだろうか。
さてその新生デュパンのサウンド、最初に聴いた時にはピエローのヴィエル・ア・ルー(ハーディー・ガーディー)の印象が薄く、"Les Vivants" 冒頭の "Tout le Mondo" のようにビートを立てる展開も少ない。ポップさが消え、とても地味で渋いものに聴こえた。しかし繰り返し聴いて瞬く間にそのサウンドの虜になってしまった。
まずアルバムのイントロダクション的な "Mille Papillons" に続く3曲 "Au Cor de Mon Silenci"、"Sòrga"、"Beveire D'Auceus" が強烈。重厚・濃密なサウンドで、ダイナミックな展開と曲の終盤に向けての爆発には、コンサートのフィナーレに立ち会っている気分にさえさせられる。とりわけタイトル曲を挟む2曲のテンションが凄まじく、King Crimson の "Red" すら連想したほどだ。
ラス前の "Non o Falia Pas Mai" は一層ハイテンションで、イタリアのマスカリミリ Mascarimiri の "Triciu" に似たプログレ的サウンドの快感もある。冒頭炸裂するヴィエル・ア・ルーの音に、やっぱりデュパンにはこれがないと!とも思ってしまう。
ただ、やはりアルバムを通してヴィエル・ア・ルーはこれまでほどには目立たない。と言うより、サムたちは "Les Vivants" のようなレコーディング技術を駆使した作り込んだサウンドではなく、「バンド・サウンド」を目指したのだろう。フルートが加わったことは効果的で、時にユニゾンで時に対位的に響き合う両者の音はサウンド全体に厚みを与え、またドラムとコントラバスはヴィエル・ア・ルーやマンドーラを包み込んでバンド・サウンドの一体感を強めている。今回は "Les Vivants" のような作り込んだサウンドではなく、セッションを重ねてスタジオ・ライブ的に完成させたような雰囲気が伝わってくる。
そんな中、やはりサムの声は圧倒的存在感を持っている。荒涼とした風景が現前するようなヒリヒリとしたサウンドの中で彼の声は聴き手の心に鋭く切り込んでくる。"Copar Totjorn Copar" からそのままメドレーで続く唯一のインスト・ナンバー "Tot Veire, Tot Oblidar"(トラック10)での咆哮の凄まじさ !! 何度も書いていることだが、Massilia Sound System の Papet J の声も Tatou の声も、Toko Blaze の声も大好きだけれど、歌い手として最も好きなのはやっぱり Manu Théron と Sam Karpienia だな(でも一番味があるのは Tatou かな)。
メンバーは入れ替わってもデュパンこそ今世界で一番好きなバンドであることを "Sòrga" を聴いてはっきり再確認できた。さあ、次はライブだ!
(参考)
・カストール爺の生活と意見 - ソルガ男の生きる道
このような詳しいレビューがあるので、拙ブログの感想文は不要かも知れませんが、まあいつもの個人メモということで…(そんなことを思いつつ、過去のアルバムなどのレビューも書いているところです)。
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今月はガーナとナイジェリアのハイライフをじっくり聴くつもりだったのが、"Sòrga" のせいでそんなハイライフ気分は吹き飛んでしまった。このところは旧作含めてデュパンばかり聴いている。"Sòrga" を大音量で聴いていると(自宅は最上階で、下は空室、日頃から親しくさせていただいているお隣さんも夜遅くにならないと仕事から戻られないので、今は結構な音量で聴ける)もう他の音楽はいらなくなる。
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