History of Sam Karpiniea / Dupain (1)

 マルセイユのデュパン Dupain が遂に本格的に再始動し、ニュー・アルバム "Sorga" を10年振りにリリース。絶好のタイミングと思って、デュパンやサム・カルピエニアのこれまでの作品も聴き直している。折角なので、彼のバイオグラフィーについても整理してみたくなっていろいろ調べ始めた。


 まずサム・カルピエニアの初期を含めた経歴については、この「カストール爺の生活と意見 - ソルガ男の生きる道」にまとめられている。ちょっと引用。

「サム・カルピエニアは謎の人です。マルセイユ生れではなくノルマンディー出身で、ポーランドの血も引いています。1989年マルセイユ近郊の港町ポール・ド・ブークで結成された(ファンク、レゲエ、オルタナティヴ系)ロックバンド KANJAR'OC(カンジャロック。4半世紀にわたって、マッシリアなどと混じり合いながら南仏シーンの名物バンドになっているものの、私はよく知らない)のギタリストでした。」


 カンジャロックのことは以前より頭にありながらも、カストール爺さんと同様、私もよく知らない。いまだ CD は1枚も持っておらず、YouTube 等で彼らの作品を試聴できるものの、サムが参加した作品の有無も不明。


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 次いでサムは、後にロ・コール・デ・ラ・プラーニャ Lo Cor de la Plana を率いて南仏ポリフォニー・シーンの中心人物となるマニュ・テロン Manu Theron とガチャ・エンペガ Gacha Empega を結成。女性シンガーのバルバラ・ウーゴ Barbara Ugo を加えた3人でアルバム "Polyphonies Marseillaises" をリリース。1998年に録音されたこの作品は、3人の声とベンディールとタンバリンを主体(ほとんどそれだけ)とするポリフォニー・コーラス。一部でマッシリア・サウンド・システム Massilia Sound System の Moussu T(Tatou はすでにこう表記されている)と Janvie D と Gari Greu がゲスト参加し、Janvie D によってエレクトロ化したサウンドにもなる。

 まだまだ試験的/過渡期的ではあるが、マルセイユにおけるオック・ミュージックを牽引する2人の実質的出発点として重要な作品だ。実際2人は近年も時々ガシャ・エンペガとしてステージに立っている。

 幸運なことに 2009年10月に台湾・台北のフェスにロ・コール・デ・ラ・プラーニャとサム・カルピエニアのトリオを観に行った時、ロ・コールのステージにサムが飛び入りし、とても楽しいパフォーマンスを披露してくれたのだった。ガシャ・エンペガのライブもあのような雰囲気だったのだろうか。

 ポリフォニー・コーラスという音楽性からガシャ・エンペガは(年上でもあろう)マニュが主導しているものと思っていた。ところが、台北で久し振りに会ったマニュに「またガシャ・エンペガをやることはないの?」と訊ねたら「それはサムが決めること」と意外な回答。音楽面でサムの方がイニシアチブをとっているようだ(風貌に反して実はマニュの方が年下であることも知った)。

 ところでこの2人はどうやって出会い意気投合したのだろう。マッシリアの3人も共演していることから、マルセイユのミュージシャンたちの間の絆は早くから結ばれていたのだろう。


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 続いてサムはデュパンを結成し 2000年にファースト・アルバム "L'Usina" をリリースすることになる。だがその直前にトンでもない作品 "Port de Bocan All Stars 22/01/00" を制作している。これはマルセイユのオクシタン・ミュージックの聖地 Le Balthazar で 2000年1月22日に録音されたライブ・アルバム。

 まずメンバーのクレジットを見ただけで気絶しそうになる。Sam Karpenia(綴りはママ)とヴィエラ・ア・ル(ハーディガーディ)の Piero Bertolino はデュパンの両輪。Noel Baille はセカンド・アルバムからデュパンに加入するベーシスト。そこに、Manu が、マッシリアの Lux B. と Gari と Tatou が、最愛のレゲエ・シンガー Toko Blaze が、女性4人組 Les Mounines が、インド洋と南仏を繋ぐ Jagdish が加わる。そしてそして、トロンボーンは親愛なる Olivier Rey(現在 Babel Med Music と Fiesta des Suds の広報トップ)。

 総勢20名からなるこのユニットは正にマルセイユ・オールスターズといった趣。前半はインストゥルメンタリストたちによるナンバーが続き(実際インスト曲が多い)、後半次々にゲストシンガーを迎えて進行する全19トラック(+シークレット・トラック)。全般にベースを強調したダブ調トッラクが目立つ。

 そんな盛り沢山なライブなのだが、その中心はあくまでもサム・カルピエニア。ほどなくしてデュパンのサウンドを強く印象づけることになるヴィエラ・ア・ルの音も通奏する。つまりこれはデュパン誕生前夜を記録した貴重な録音なのだ。(次回以降で書く予定なのだが)サムはデュパンのファーストではマンドールを弾いていないが、ここではバリバリ掻きむしっている。実質的に Pre-Dupain のライブと言っていいだろう。

 同時に2000年当時のマルセイユを今に伝える活き活きとしたドキュメントともなっている。一見音楽性が異なるような、ロックのサムとポリフォニーのマニュとレゲエ/ラガのマッシリア&トコとインド洋のジャグディッシュとが一同に会して、こんな素晴らしいライブを展開するのだから。(「bonsoir, bonsoir, bonsoir..」と登場するところのマニュだとか、サムのマンドールの伴奏で歌うトコ・ブラーズの "Marseille" なんかは雰囲気最高!)デュパンのファンに限らずマルセイユ音楽のファンの多くに聴いてもらいたいし、誰もが気になるアルバムなんじゃないかな? しかし現在入手することは絶望的。そんな音楽を紹介するだけでは心苦しい。なんとかリイシューできないものだろうか?


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 サム・カルピエニアについてはまだ知らないことばかり。そもそも生年も不明。台北で質問したような気もするのだが、メモには記載が見当たらない。多分 50歳手前なのではないだろうか(それよりマニュ・テロンが自分より年下だと知ってショックを受けたのだった)。

 台湾旅行の資料を開くと、サムからもらった名刺や本人の電話番号なども出て来たけれど、このブログを書くためにわざわざ問い合わせるほどのことではないだろうなぁ。


(続く)




(追記)

 "Port de Bocan All Stars" について少々加筆。途中シタール?の音でインドっぽくもなるのだが、誰が演奏しているのだろう? 2015/04/08






by desertjazz | 2015-04-07 20:00 | Sound - Music

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